春休み向け大作やアカデミー賞関連作品がひしめく中、新宿ピカデリーで週末動員ランキング1位を獲得した痛快アクション・エンタテインメント待望の続編『ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー』。殺し屋女子コンビ、髙石あかりと伊澤彩織のキュートでゆる~い世界観を継承しながら、新たな敵を迎え撃つラストバトルで「伝説に残るアクションシーンを撮りたかった」と語る阪元裕吾監督が、わずか10日間で走り抜いた過酷な撮影を振り返った。
あらすじ:殺しの腕はピカイチだが、社会のルールに適応できない相変わらずの二人、ちさと(髙石)とまひろ(伊澤)は、金銭トラブル続出で途方に暮れていた。時を同じくして、殺し屋協会アルバイトのゆうり(丞威)とまこと(濱田龍臣)兄弟もまた、上からの指令ミスでバイト代はもらえず、正社員にもなかなか成れず、途方に暮れる日々。そんな時、「ちさととまひろのポストを奪えば昇格できる」という噂を聞きつけた兄弟は、彼女たちを抹殺する計画を企てる。
●アクションだけではない阪元映画らしさを追求
――前作『ベイビーわるきゅーれ』で成功を収めたことで、映画制作における環境面、精神面で何か変化したことはありましたか。
阪元監督:自分をアピールする名刺代わりの作品になりました。自主映画から商業映画になったことで、仕事も増えましたし、これまで半信半疑だった役者さんも作品を観て「出演したい!」と言ってくれるようになりました。「阪元映画はこんなノリなんだ」ということを広く知ってもらえたこと、これが一番大きかったですね。
――クセのあるキャラクター、まったりした笑い、キレキレのアクション、それを繋ぐ物語が少々、というバランスが独特というか絶妙ですよね。
阪元監督:ストーリー展開よりも、お客さんに「ずっと観ていたいなぁ」と思わせることが一番大事だと信じて映画を作っていたので、それが成功してよかったです。ただ、今回の『2』は前作のように自由奔放に作るわけにはいかないので、物語もきちんと構築して臨みました。
――確かに今回は物語に軸があって、阪元監督ならではの世界観にピリッとした雰囲気が加わっていて、厚みを増した感じがしました。
阪元監督:『1』は、ただの狂った人が出てきて対決するだけだったんですが(笑)、今回は、丞威さんと濱田(龍臣)さん演じる殺し屋兄弟が現れ、ポストを奪うためにちさととまひろの命を狙う、という物語が核になっているので、少し引き締まった感じにはなっていると思います。前回のゆる~い日常感を取り払って、シリアスなバイオレンスアクションに徹する、という選択肢もあったと思いますが、それをやったら僕の作品じゃないなと。そこのバランスの取り方は凄く悩みましたね。今回も着ぐるみ姿でガチ喧嘩するとか、おバカな賭け将棋に挑むとか、アクションとアクションの間にワケのわからないコメディーを挟み込んだんですが、僕的にはうまくハマったなと思っています。
――『1』をアップデートした感じですかね?
阪元監督:そうですね。当初、雰囲気をガラッと変えて、ド田舎に行って大暴れするみたいな話もあったんですが、最終的には、そういう奇をてらった挑戦をするより、前作の楽しかったところをブラッシュアップして、一つ一つを「ゴージャスにしよう」という心意気で作りました。
●磨きがかかった髙石&伊澤のコンビネーション
――久々の…といってもそんなに間は空いていませんが(笑)、髙石さん、伊澤さんとのコラボはいかがでしたか?
阪元監督:『1』の時は撮影期間が 6日ぐらいしかなかったので、二人とコミュニケーションをとる時間がほとんどなかったんですが、今回は少しだけ空き時間がとれたので、一緒に写真を撮ったり、モニターを観ながらお喋りしたり、楽しい感じで撮影することができました。お互いにアクションのアイデアを出し合ったり、二人がアドリブで変なハンドサインをいきなりやり出したり、前回以上にニコイチ感がありましたね。
――二人の魅力って何だと思いますか?
阪元監督:やっぱり、お笑いをよく分かっていらっしゃる、というところですかね。ツッコミの間とか、ボケのタイミングとか、天性のものを持っていると思います。髙石さんはツッコミに強さとキレがあるし、伊澤さんのふわっとしたボケが独特で面白い。『1』の時は手探りだったので、どっちもツッコミ、どっちもボケみたいな感じだったんですが、今回は役割分担がはっきりしたので、笑いの部分でも最高のコンビネーションを魅せてくれます。
●1本の映画にいろんなアクションスタイルがあっていい
――笑いとアクションの融合、どっちも捨てがたい阪元ワールドですが、やはり、アクション監督の園村健介さんとタッグを組んだバトルシーンは『ベイビーわるきゅーれ』シリーズの最強の売り。今回はどういった意気込みで臨んだのでしょう。
阪元監督:約10日間の撮影期間だったんですが、ラストバトルだけで3日も使ってしまって…配分が明らかにおかしいんですが(笑)、それくらい気合いが入っていましたね。『1』と絶対に比べられる部分なので、そこはファンの期待を裏切ってはいけないと。残り7日ほどでほかのシーンを撮ったので破綻寸前でしたが、「伝説に残るアクションシーンが撮れたら、『1』より面白くないと言われても構わない!」と腹を括りました。「ラストバトル、凄かったね」って言ってもらえるなら、この作品を世に出す価値はあるだろうなと。ただ、結果的にいいバランスの作品に仕上がったので、この配分は間違っていなかったかなと、今は思っています。
――なるほど。ラストバトルは本編を観るまでのお楽しみ、ということで、どこかほかのシーンで撮影裏話をお聞きすることはできますか?今回は殺し屋兄弟が参戦しているので、彼らのシーンでも。
阪元監督:そうですね。冒頭、チンピラが巣食う狭いアパートで壮絶なバトルを繰り広げますが、あのシーンは韓国映画『ベテラン』や『新しき世界』のアクションを参考にしました。ゆうり・まこと兄弟はアルバイト・レベルでまだ完成しきっていない殺し屋なので、泥臭さというか、アクションというよりも、もみくちゃで殺し合うみたいな。そういうバトルをまず撮ろうということになりました。急に人を持ち上げたり、狭い風呂場の中で三つ巴の戦いを繰り広げたり、園村さん独特の変態的な(褒め言葉です!)アクションが炸裂していますが、僕の役割は、シチュエーションを用意して、「ちさととまひろとはちょっと違った雰囲気を出したい」とイメージだけ伝えて、あとはもうおまかせです。僕が途中でゴチャゴチャ言い出したら、混乱して大変なことになるので(笑)
――銀行強盗のシーンなんかは、香港スタイルというか、逆に段取りの妙があって気持ちよかったです。
阪元監督:あのシーンは、伊澤さんや髙石さんもいろいろアイデアを出してくれて、ジャッキー・チェンの映画のようにコメディータッチにしようと。アクションに関しては、いわゆる“殺陣”になるんですが、日本映画だと、『るろうに剣心』にしても、『ザ・ファブル』にしても、命の削り合いというか、ちゃんと殺し合いをしているものがほとんどですよね。でも僕たちは、電話の受話器を武器にしたり、ダンスのステップを入れたり、このシーンではもっと楽しみながら観られるアクションを目指しました。
――フレームがちゃんとあって、段取り通りにこう動いていく楽しさ、醍醐味もありますよね。銀行強盗のシーンはまさにそれでした。
阪元監督:最近、「アクションは段取りじゃない、もっと生々しいものを観せるんだよ」みたいな風潮があると思うんですが、個人的にはやっぱりジャッキー・チェンみたいなリズミカルで気持ちのいいアクションが大好きだし、それを求めている人もたくさんいると思うんですよね。だからといってほかのアクションを否定しているワケではないので、韓国映画風の熱いものがあったり、香港映画風の遊び心があったり、あるいはラストバトルでは伝説に残るような新たアクションにも挑戦していますし、何というか、一つの作品の中にいろんなアクションがあっていいと僕は思うんです。
―― 1粒で2度も3度も美味しいアクション、最高じゃないですか。
阪元監督:ちゃんとコメディーやって、ちゃんとアクションやって、挑戦者の物語もちゃんと構築して、これまで日本映画になかったエンタテイメントを目指したので、ぜひ劇場で楽しんでいただきたいですね。あわよくば、これからも3、4、5とシリーズとしてずっと続けていければいいなと思っているので、皆さん、応援よろしくお願いいたします!
取材・文:坂田正樹 写真:高野広美
<Staff&Cast> 出演:髙石あかり、伊澤彩織、水石亜飛夢、中井友望、飛永 翼(ラバーガール)、橋野純平、安倍 乙、新しい学校のリーダーズ、渡辺 哲、丞威、濱田龍臣/監督・脚本:阪元裕吾/アクション監督:園村健介/主題歌:新しい学校のリーダーズ「じゃないんだよ」/オープニングテーマ曲:KYONO「2bRaW feat. N∀OKI (ROTTENGRAFFTY)」/制作プロダクション:シャイカー/配給:渋谷プロダクション
公式サイト:https://babywalkure.com/