ドラマ「シグナル」「復讐代行人~模範タクシー~」などで知られる人気俳優イ・ジェフンが自由を求めて命懸けの脱北を図る最新主演映画『脱走』(公開中)が好評を博している。「撮影は地獄のような日々だった」と語るジェフンが過酷を極めた本作の舞台裏を語った。

<Story> 軍事境界線を警備する北朝鮮部隊の軍曹ギュナム(イ・ジェフン)は、まもなく兵役を終えようとしていたが、真の自由を求め韓国への脱走を計画していた。ついに決行の日を迎えるが、部下の下級兵士ドンヒョク(ホン・サビン) に先を越されてしまい、失敗に終わってしまう。さらにギュナムの幼なじみで、保衛部少佐のヒョンサン(ク・ギョファン)の采配により、ドンヒョクを捕まえた英雄として祭り上げられてしまい、ギュナムを前線からピョンヤンへと異動させようとする。迫る脱走のタイムリミットは2日間。ギュナムは、ヒョンサンの目を盗んで再び決死の脱出を試みるが…。

――まず、脚本を読んでどんな感想をお持ちになりましたか?
ジェフン:まず、シナリオを読んだ時に、観客の皆さんがハラハラ、ドキドキしながらスクリーンに釘付けになっている顔が目に浮かびました。そして、この映画は「夢に向かってちゃんと生きてるか?」ということを改めて考え直してみる一つのきっかけになるんじゃないかとも感じました。
――撮影前からハードなシーンが予測できたと思いますが、チャレンジしようと決めた理由を教えていただけますか?
ジェフン:イ・ジョンピル監督(『サムジンカンパニ―1995』)とク・ギョファンさん(「D.P.-脱走兵追跡官-」)とは以前からご一緒してみたいという思いがあったので、今回、本当に素晴らしい機会に恵まれて嬉しく思いましたし、また、これだけの若く血気盛んなエネルギーを表出できるような作品に、「今後、出会うことがあるだろうか?」と考えた時に、そんなに簡単なことではないというふうに思えたんですね。だからある種の覚悟とチャレンジ精神を持ってこの作品に立ち向かうことを決めました。

――ただ本作は、危険をすり抜けながら走って、走って、走りまくる映画、撮影では地獄が待っていたのでは?
ジェフン:実際に38度線を命懸けで越えてきた脱北者がたくさんいらっしゃいます。だから、そういう実体験を持つ方々がこの映画を観て、「あれはもう偽物だな」とか、「こんなことはあり得ない」というふうには思われたくなかった。もし彼らがそう思ったとしたら、この映画は失敗だと思ったんです。だから、その切実な思いが映し出されるように私自身もある種の覚悟を持ってワンシーン、ワンカット、全力で取り組みました。
――リアルさを追求するため食事制限もされていたとか?
ジェフン:撮影中は食べることにも細心の注意を払いましたが、むしろ食べたい気持ちにすらならなかった…というのが本音ですね。特に撮影の後半は、ひと粒のお米すら食べることがためらわれるような、そんな追い詰められた気持ちで撮っていました。ある意味、肉体的には地獄のような環境だったかもしれませんが、撮影はいつか終わりが来るわけですから、その中で身を粉にしながら自分の全てを注ぎ込む覚悟で臨みました。

――脱北経験のあるダイアログコーチが付いたそうですが、どんなアドバイスをもらったのでしょう。
ジェフン:ダイアログコーチからは、北朝鮮にある彼の故郷ハムギョンドという地方の方言を習いました。実際に脱北を体験されている方だったので、彼と接しているうちに話し方や仕草を完璧に自分のものにして演じたい…という気持ちがより強くなりました。後日、ダイアログコーチと脱北した仲間の皆さんを試写に招待して映画を観てもらったんですが、彼らが「本当によかった!」とコメントを寄せてくださったのが何よりも嬉しかったです。

――走ることをやめたら即死亡!というキャッチフレーズが示すように、必死さが物凄く伝わってきました。撮影隊はロシアンアーム(クレーンとカメラヘッドを360度回転できる遠隔操作装置)を装着したポルシェで追いかけてきたそうですね。
ジェフン:全ての撮影が本当に大変で、容易なシーンは一瞬たりともなかったです。特に脱走シーンは死に物狂いで走っていましたね。ポルシェを追い抜くことは不可能なことですが、気持ちだけはポルシェをぶっちぎるぐらい必死さが必要でした。だって、追いつかれたら自分は死んでしまうわけですから。そんな考えを持ちながらずっと走っていたので、劇中のリアルな表情に繋がったのかなと思います。
――沼のシーンは逆に浅すぎて、ジェフンさんの演技力にかかっていたとか?
ジェフン:あの沼は人工的に作ったんですが、深さを出すには限界があったんですね。だから、あとは俳優の演技で底なし感を表現しなければならなかった。ただ、いざ撮影に入ると、やっぱり思うように体を沈めていくことが難しくて、そのたびに沼から上がってブルブル震えていたんです。とにかく寒かったのですが、それでも「もう1回撮らせてください!」と直訴している自分に気づいた時は、さすがに「凄い奴だな」と自分で自分に感心したものです(笑)


――映画では本作、そして『焼酎戦争』(原題)、ドラマでは「シグナル2」(シーズン2)や「復讐代行人~模範タクシー~」(シーズン3)なども控え、ますます多忙を極めていると思いますが、今後温めている企画などありましたら教えてください。
ジェフン:いろんな作品のオファーをいただいていて、悩んでいる過程にあるんですが、今おっしゃっていただいた2つのシリーズ「シグナル」と「復讐代行人~模範タクシー~」の撮影が同時に行われていて、とにかくめまぐるしい状況に置かれています。このスケジュールが終わるタイミングが11月末だと聞いているので、私は12月1日からやっと自由の身となるわけです。周囲の方々は、「やっと休む時が来たんじゃない?」と言ってくださいますし、私自身も休みたい気持ちはあるんですが、同時に「このまま仕事が来なかったらどうしよう…」と心配する自分もいるわけです。ですから皆さん、そうならないようにこれからも応援してください!! (取材・文:坂田正樹)
<Staff & Cast> 監督:イ・ジョンピル/出演:イ・ジェフン/ク・ギョファン/ホン・サビン/ソン・ガン/挿入歌「ヤンファ大橋」:Zion.T /2024 年/韓国/韓国語/カラー/94分/シネスコ/5.1ch/原題:탈주/字幕翻訳:朴澤蓉子/提供:ツイン、Hulu/配給:ツイン/公式HP:dassou-movie.com
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