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JUL 01, 2025 インタビューおすすめ

タランティーノも認める世界的クリエイター・石井克人が『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』で挑む新たなルパン・ワールドとは?

ルパン三世

『キル・ビル Vol.1』『REDLINE』などを手掛けた世界的クリエイター・石井克人がクリエイティブ・アドバイザーを務める『LUPIN THE IIIRD』シリーズ最新作『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』が6月27日(金)、ついに劇場公開された。主に“敵キャラ”のデザインに力を注いできた石井に、本作への熱い思い、そして全シリーズを通して描きたかった新たなルパン・ワールドについて話を聞いた。

<Story> 世界地図に存在しない“謎の島”を目指し、ルパン三世たちはバミューダ海域へ向かう。目的は、これまで彼らに刺客を送り続けてきた黒幕の正体と、隠された莫大な財宝を暴き出すこと。だが、島に近づいた瞬間、狙撃によって飛行機は撃墜され、一行は死の島へと不時着する。そこに広がっていたのは、朽ちた兵器や核ミサイルが山のように積まれ、かつて兵器として使われ、捨てられた“ゴミ人間”たちが徘徊する、世界の終わりのような風景だった。霧に覆われたその島には、24時間以内に死をもたらす毒が充満し、逃げ場はない。島の支配者・ムオムは不老不死を掲げ、世界を選別と排除で支配しようとしていた。銃も刀も通じない“死なない敵”を前に、すべての財宝を盗み出し、生きて島を脱出できるのか…。

●初期ルパンの大人のムードを継承したかった

――そもそも『LUPIN THE IIIRD』シリーズに石井さんがスタッフとして参加することになった経緯を教えていただけますか?

石井:10年以上前の話になりますが、『Lupin the Thirdー峰不二子という女』(山本沙代監督/2012)というスピンオフTVアニメに本シリーズの監督を務める小池健さんがキャラクター・デザイナーとして参加しているんですが、デザインが凄くいいということで、彼を監督にスピンオフ的な流れを汲みながら何か新しいものはできないか、ということでプロデューサーの浄園(祐)さんから相談を受けたのが最初です。

――なるほど。相談を受けた時、石井さんの中で、「こんな『ルパン三世』が観てみたい」というイメージはあったのですか?

石井:僕がもし小池さんと組んでやるんだったら、TV第1シリーズ(「ルパン三世 PART1」1971~72)の第5話くらいまで、おおすみ正秋さんが監督を務めていたあの頃の感じが大好きだったので、その続きをやってみたいなと思いました。

――初期の「ルパン三世」は大人向けでしたよね。

石井:そうなんです。ルパン仕様の物凄いフェラーリのようなF1カーが出てきたり、峰不二子が絡んだ男女のもつれで事件が起きたり、壮絶な殺し合いがあったり…「子供がこんなアニメを観ていいのか?」と思うくらいショックでしたし、同時にドキドキもしたんですよね。もちろん、宮崎駿監督の『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)も大好きなんですが、僕がもし携わることができるのなら、第5話までの大人のムードを継承したいなと。盗みの話よりも、殺し屋との対決を主体にしたほうが面白いと思いました。

●クリエイティブ・アドバイザーの立ち位置とは?

――監督の小池さん、脚本家の高橋悠也さん、音楽のジェイムス下地さんら制作チームも本シリーズ全てにおいてほぼ同じメンバーで組まれていますが、これも石井さんのリクエストなんですか?

石井:主に『REDLINE』(2010)のメンバーを中心に構成されているんですが、僕から出させていただいたアイデアやスタッフニングのほとんどを浄園プロデューサーが受け入れてくださったので、恵まれた環境の中『LUPIN THR IIIRD』シリーズがスタートできました。

――石井さんは“クリエイティブ・アドバイザー”というポジションで参加されていますが、これはどういった立ち位置になるのでしょう。

石井:みんなから「わかりにくい」ってよく言われるんですが、主に各回の原案、敵キャラのキャラクターデザインを担当しています。ただし、僕がプレゼン用に描いたラフスケッチをさらに細かく、理想通りに仕上げてくれるのが小池監督。そこが頼もしいというか、素晴らしいんですよね。昔、『キル・ビルVol.1』(2003)のアニメーション・パートでキャラクターデザインを担当したとき、アイデアは一発で通るんですが、描きやすいように省略されてしまったのがとても残念だったので、本シリーズで全く省略しないどころか、ディテール描きたす小池監督の凄さが身に沁みてわかりました。

次元大介
石川五ェ門

――確かにクオリティーが高いですよね。その分、一作ごとに大変なエネルギーが必要かと思いますが、最初からシリーズ化を考えていたのですか?

石井:このメンバーでオリジナルなものを作るとなると、相当時間がかかることは最初からわかっていたので、「まずは1本、面白い作品を作ろうじゃないか」ということで、みんな手探りの状態で最初の作品『LUPIN THR IIIRD 次元大介の墓標』(2014)の制作に入っていきました。決まっていたのは、時代は1960~70年代、敵キャラが凄く魅力的で、アクションシーンをふんだんに盛り込むということ。みんなでアイデアを出し合って、それを脚本家の高橋くんがうまく繫いで物語にするという感じで、最後は劇場映画第一作の『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978)に行き着けばいいんじゃないかと。そういう共通認識は持っていたと思います。

銭形警部

●敵役はいかにしてルパンを懲らしめるかがカギ

――それにしても、空中戦あり、銃撃戦あり、大爆破あり、もはや『ミッション:インポッシブル』並みにアクションシーンが凄かったですね。

石井:僕らが観たいものを作ったという感じですね。世界地図に載っていない謎の島で、ルパンたちと敵キャラが相まみえて思いっきりアクションを展開してやろうと。古い戦車や戦闘機、弾道ミサイルなどふんだんに出てきますが、小池監督や高橋くんが詳しいので、その辺りは彼らにまかせて、僕は不老不死を手に入れた最強の男・ムオム(片岡愛之助)やゴミ人間のルウオ(空気階段/鈴木もぐら)、フウア(空気階段/水川かたまり)など、いろんな殺し屋のキャラクターデザインに専念させていただいたという感じですね。

――敵キャラをデザインする上で最も大切にしていることは何ですか?

石井:ルパンたちをいかにして懲らしめるか、どこまで苦しめられるか、そこをまず考えます。カリオストロ伯爵も確かに強かったですが、やはり頂点はマモーだと思っているので、強さは求めるけれどマモーを超えてはいけない、という自分なりの上限はあります。

最強の敵キャラ:ムオム誕生!

――造形的にはいかがですか?特にムオムは石井さんの中でかなり力が入っていたんじゃないかと思うのですが。

石井:造形的には、やはりTV第1シリーズに出てきそうなキャラクターは意識しましたね。ムオムもその路線を継承したつもりですが、小池監督が珍しくプレゼンで提出したラフスケッチにほとんど手を入れなかったので、本当に大丈夫なのかなと。本作の中でも最も重要なキャラクターなので、もう少し意見を交わしたかったんですが、ほぼそのまま採用されてしまったので、ちょっと心配しているんです(笑)。でも、小池監督がいいと思ったのだから、そこは信頼するしかないんですが。

石井克人が描いたムオムのスケッチ画

●僕たちが観たい要素を全て盛り込んだ冒険活劇

――ルパンたちをギリギリまで追い詰める敵キャラ、絶体絶命でもクールとユーモアを忘れないルパンたち、そしてその間で炸裂する壮絶なバトル…作品に手応えはあったんじゃないですか?

石井:相当いい作品に仕上がったと思っています。高橋くんが書く脚本もみんなのわがままな要望を見事に集約し、決め台詞もジンワリ心に刺さるものがありましたし、音楽のジェイムスさんも盛り上げるところは盛り上げるし、じっくり聴かせるところは少ない楽器でちゃんと聴かせている…彼らの代表作になったんじゃないですか。ある種、独特のダンディズムが全編を通して貫かれているところが、何とも言えない魅力ですよね。もちろん、主題歌を手掛けてくださったB’z の「The IIIRD Eye」が最高なのは言うまでもありません。

――確かに音楽と物語とキャラクターがリンクして、独特のムードを醸し出していました。ラストのルパンの“粋な返し”もオシャレでしたよね。

石井:本シリーズの第1作目『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』の出来上がりを観て、高橋くんの脚本がめちゃくちゃ面白かったので、シリーズとして繋がったところもあるんですが、後半のどんでん返しと決め台詞が“縛り(必須)”になってしまったから、彼は相当プレッシャーを抱えていたんじゃないでしょうか。

――ちなみに峰不二子の衣装がどんどん際どくなっていて、島に着いた途端、とんでもないことに巻き込まれる…もはや、実写化不可能なくらいの露出度で驚きました。

石井:ルパン好きにとってそこはお約束だし、峰不二子が攻められているシーンはみんな観たいんですよね。あの問題の“熱い”シーン、僕はそこまで過激じゃなかったんですが、小池監督がどうしてもと…(笑)

峰不二子

――最後にシリーズ最新作を「待ちわびていた」あるいは「待ちくたびれた」ファンに、石井さんの目線からメッセージをお願いします。

石井:敵キャラ目線でいえば、先ほども言いましたがルパンたちがいかに苦しめられるか、というところを観てほしいですね。ルパン作品を全て観てきたファンがどう思うのかな?というのも正直ありますが、僕たちスタッフが観たい!と思った要素を全部詰め込んだ新たなルパンを存分に楽しんでいただけたらうれしいです。

(取材・文:坂田正樹)

石井克人/プロフィール:映画監督・脚本家・映像作家。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業後、東北新社に入社。CMディレクターとして勤務しながら、映画制作を開始。初監督作品『8月の約束』でゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭ビデオ部門グランプリを受賞。以降、『PARTY7』(2000)『茶の味』(2004)などを監督。アニメーション作品では『REDLINE』(原作・脚本・音響監督)や『LUPIN THE IIIRD』シリーズではクリエイティブ・アドバイザーとして、キャラクター原案デザインなどを務める。※絵は本人作の自画像

<Cast> 声の出演:栗田貫一、大塚明夫、浪川大輔、沢城みゆき、山寺宏一/声のゲスト出演:片岡愛之助、森川葵、空気階段 <Staff> 原作:モンキー・パンチ/監督:小池健/脚本:高橋悠也/音楽:ジェイムス下地/クリエイティブ・アドバイザー:石井克人/主題歌:B’z 「The IIIRD Eye」/アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム/製作・著作:トムス・エンタテインメント/配給:TOHO NEXT 

原作:モンキー・パンチ ©TMS

映画『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』は6月27日(金)より全国公開

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