「別冊少年チャンピオン」(秋田書店)にて連載中の奥嶋ひろまさによる同名大人気コミックを実写映画化した『ババンババンバンバンパイア』が7月4日(金)、ついに劇場公開。吉沢亮演じるバンパイア・森蘭丸と彼を取り巻く激烈キャラクターたちがカオスな大騒動を巻き起こす。メガホンをとるのは、映画『一度死んでみた』やKDDI au「三太郎」シリーズ、アタック「洗濯愛してる会」シリーズなどのCMで知られる浜崎慎治。「最高のキャスティングが実現できた」と語る浜崎監督に、傑作漫画実写化の舞台裏を聞いた。

<Story> 銭湯で働くちょっと風変わりな男・森蘭丸(吉沢)。彼の正体は450歳のバンパイア。至高の味わいである「18歳童貞の血」を求め、銭湯のひとり息子である15歳の李仁(板垣李光人)の成長と純潔をそばで見守る日々を過ごしていた。ところがある日、李仁がクラスメイトの葵(原菜乃華)に一目惚れ。恋が成就すれば、それすなわち童貞喪失の危機…突如訪れた絶体絶命のピンチに蘭丸は、決死の童貞喪失阻止作戦を開始する。一方、蘭丸に恨みを持つ兄・長可(眞栄田郷敦)の影が静かに忍び寄っていた…。

●原作者も絶賛!最高のキャスティングができた
――まず、本作のメガホンを取ることになった経緯を教えてください。
浜崎監督:実は今回、何社かの競合だったんですね。そんな中で松竹さんから声をかけていただき、原作を読ませていただいたんですが、とにかく独特の世界観が面白くて。日本にあまりなじみのないバンパイアがなぜか銭湯で住み込み従業員として働いているという設定自体に惹かれるものがあったし、モリモリな内容を奥嶋先生がうまく漫画に落とし込んでいるところも素晴らしかった。今回、幸運にも競合プレゼンで映画化権を勝ち取ることができたので、このチャンスを思いっきり楽しもうと思いました。

――おっしゃるように常軌を逸したカオス状態、モリモリすぎる内容ですが、逆に不安はなかったですか?
浜崎監督:このお話をいただいた時点では、原作漫画もまだ3巻しか出ていなくて、1本の映画としてどう繋いで、どう盛り上げていくか、脚本作りの段階で結構トライ&エラーを繰り返していたんですが、蘭丸に恨みを持つ実兄の長可というキャラクターが登場したのを機に光明が差しました。「兄弟の戦いを最大のクライマックスにすれば、映画としていけるんじゃないか」と。試行錯誤しましたが、最終的になんとか納得のいく脚本が仕上がったので、現場に入る頃にはワクワクの方が強かったですね。
――脚本作りで内容を練り込んだ分、迷いなく撮影ができたということですね。
浜崎監督:あとは俳優陣とスタッフでどうこの脚本を撮っていくかを模索。とにかく多彩な内容をどんどんぶち込んでいくというか、アクションがあったり、歌ものがあったり、青春ドラマがあったり、なぜか時代劇もあったりして(笑)、シーンによっていろんなジャンルを盛り込みながら、「コメディー映画」という大きなくくりの中で掛け合わせていくと、何か新しいものができるんじゃないかと。俳優さんたちはその都度大変だったとは思いますが、これまで日本にはなかったジャンルまたぎの超エンタテインメント作品に仕上がったと思います。





――吉沢さんをはじめ、キャスティングが見事にハマっていたと思います。浜崎監督は「三太郎」シリーズや「洗濯愛してる会」シリーズなど、キャラクターが際立つCMを得意としているだけに、その辺りの演出がうまいのかなと思うのですが。
浜崎監督:今回は特にそうなんですが、キャラクターに成り切れる人、寄り添える人、というよりも、蘭丸役の吉沢さんを筆頭に、顔や雰囲気、性格も含めて、もともと「原作のキャラクターに近い人」をキャスティングしていった感じですね。例えば、普段明るいが実は二面性がありそうな坂本梅太郎役に満島真之介さん、マッチョで強そうなフランケンこと篠塚健役に関口メンディーさん、蘭丸と壮大な兄弟喧嘩を演じる屈強な長可役に眞栄田郷敦さん、それからアニメから出てきたような可愛い葵役の原菜乃華さん…。李仁役の板垣さんにいたってはアテ書きされていたというくらいですから、皆さん、キャラクターに凄く近くて、今までで最高のキャスティングができたんじゃないかなと思っています。






――言い方は変ですが、実写版のキャラクターが原作を超えたんじゃないかと(笑)
浜崎監督:奥嶋先生が試写をご覧になって、「漫画を超えましたね!」と言ってくださったんです。原作者からそんな褒め言葉をいただけることなんて滅多にないですから嬉しかったですね。
●吉沢亮のハンパない振り切り方に驚嘆!
――個性的なキャラクターが続々と登場しますが、やはり本作を支配していたのは、蘭丸役の吉沢さんでした。
浜崎監督:本作と『国宝』(公開中)の、吉沢さんの役者としてのレンジの広さが強調されてよかったなと思います。過去作を振り返っても、『キングダム』シリーズのような原作ものもよかったし、『ぼくが生きてる、ふたつの世界』や『リバーズ・エッジ』のような複雑な役どころもすごくいいんですよね。主演を務めながら、つねに難しい役にチャレンジし、演技にどんどん磨きをかけていく…役者として脂の乗り切ったこのタイミングで本作に出演する勇気も素晴らしいと思いますし、この世代では間違いなくトップクラスだと思います。

――振り切り方が潔いですよね。本作でもやり切ってくれるから、観ていて清々しい気持ちになりました。
浜崎監督:たぶん本人は、どの辺りがちょうどいいのかやってみないとわからないところもあるので、手探りで演じていたとは思うんですが、ほとんどテイク1が面白いんですよ。役を模索しながら、1発目でベストを出してくるということは、思い切りのよさもあるし、役者としての類まれな才能もあると思いますが、実はコメディーがめちゃめちゃ好きなんじゃないかと。『斉木楠雄のΨ難』『銀魂』シリーズでも振り切った演技してますしね。

――あのビジュアルで笑いもとれるって最強ですね。
浜崎監督:イケメンであそこまで振り切られたら怖いものなしですね。彼が軸にいるだけで、原作のちょっとお下品でおバカなところも「全然アリだな」と思わせてくれる…本当に不思議な力というか、色気を持っているんですよね。

――ミュージカル風に熱唱するシーンも最高でしたね。あの堂々たる歌いっぷりが、かっこいいを通り越して別次元の面白さになっていました。メンディーさんや満島さんも歌に挑戦していますが、あれは原作にない映画版のオリジナルですか?
浜崎監督:オリジナルです。いわゆる少年ジャンプ方式といって、Aさん、Bさん、Cさんと、敵が現れたその瞬間に「この人はどういう人物か」を説明するわけですが、それをいかに楽しいシーンにするか、と考えた時、ナレーションや語りじゃつまらない。だったらミュージカル調とか、ラップ調とか、いろんな音楽に乗せて説明するのが面白いんじゃないかと。物語の区切りごとに入れ込むことで映像にリズムも生まれますからね。
●関口メンディーのアドリブに現場は大混乱!?
――内容がとにかくてんこ盛りなので、いろんな舞台裏のエピソードがありそうですが、浜崎監督の中で一番印象に残っているシーンはどこですか?その秘話も含めて教えてください。
浜崎監督:銭湯のシーンは結構好きですね。特に蘭丸がフランケンに李仁のボディガードをお願いした夜、3人でお風呂に入っていると、フランケンが急に筋トレを始めるシーンがあるんですが、あそこはたまらないです。

――吉沢さんも板垣さんも若干、笑いをこらえているようにも見えましたが、あれはメンディーさんのアドリブですか?
浜崎監督:そうなんですよ。急に「ここで筋トレできますね!」とか言い出しちゃって(笑)。一応、前貼りはしているんですが、「ちょっと見えてるぞ!」とか言って、「じゃあ、もう1回!」みたいなノリで撮っていましたね。ただ、本作は男性限定ではありますが裸になるシーンが結構多いので、インテマシー・コーディネーター(ヌードやセックスシーンなど親密な描写撮影のサポート)がちゃんと入っていて、役者サイドからのオーダーに対応できる体制は整っていたんですよ。それを踏まえてのあの銭湯シーンだったんですが、男風呂で筋トレする人なんて撮ったことないので、股間が映らないようにするにはどうしたらいいか…ボカシじゃ面白くないから、中国雑技団のように見えそうで見えない曲芸でできると笑えるんじゃないかとか。
――アドリブは結構多かったんですか?
浜崎監督:このシーンはメンディーさんが暴走しましたが、みんな「隙あらば」という感じで狙っていましたし、実際にアドリブによって面白くなったところもたくさんありました。現場はコメディー映画ならではの緩さがあって、脚本にはない予想外の笑いが生まれる自由な雰囲気があったと思いますね。
――最後に、公開待ちわびていたファンの皆さんにメッセージがあればお願いします。
浜崎監督:物は豊かになるけど、心はどんどん寂しくなる…そんな時代だからこそ、全力で振り切った本作のようなコメディー映画が誰かの救いになればいいなと思っています。本作は、ただ面白いだけじゃなく、生きる勇気を与えてくれるいろんな要素がいっぱい詰まってるので、全世代の方々に観てもらえたら嬉しいですね。(取材・文・写真:坂田正樹)
<Staff & Cast> 出演:吉沢亮、板垣李光人、原菜乃華、関口メンディー/満島真之介/眞栄田郷敦 ■原作:奥嶋ひろまさ『ババンババンバンバンパイア』(秋田書店「別冊少年チャンピオン」連載) ■監督:浜崎慎治 ■脚本:松田裕子 ■製作幹事:松竹 テレビ朝日 ■製作:「ババンババンバンバンパイア」製作委員会 ■制作プロダクション:ダーウィン ■配給:松竹

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