TOP  >  プロフェッショナルから現場の「リアル」を学ぶ  >  園村健介アクション監督、『ベビわる2』でこだわったチャンピオンとしての戦い方
MAR 27, 2023 インタビュー

園村健介アクション監督、『ベビわる2』でこだわったチャンピオンとしての戦い方

アクション監督を務めた園村健介

殺し屋女子コンビ、ちさと(髙石あかり)&まひろ(伊澤彩織)が大暴れする痛快アクション・エンタテインメント待望の続編『ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー』(公開中)で、前作に続きアクション監督を務めた園村健介。「まひろは『1』では強敵に挑むチャレンジャーなら、『2』では新たな敵を迎え撃つチャンピオン。全く色の違うアクションにしたかった」と語る彼の今回のバトル・コンセプトは“防衛戦”。メガホンをとった阪元裕吾監督と共に作り上げた最新アクションについて思いの丈を語ってもらった。

まひろ(伊澤彩織)とちさと(髙石あかり)  ©2023「ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー」製作委員会

本作は、1 年以上のロングランヒットを記録し、W主演を務めた髙石あかりと伊澤彩織をスターに押し上げた映画『ベイビーわるきゅーれ』の続編。先週3月24日(金)に公開されるや新宿ピカデリー 週末動員ランキング 1位を獲得し、再び“ベビわる旋風”を巻き起こしている。

あらすじ:殺しの腕はピカイチだが、何かとルールが面倒な社会にはなかなか馴染めない相変わらずの二人、ちさと(髙石)とまひろ(伊澤)は、金銭トラブル続出で途方に暮れていた。時を同じくして、殺し屋協会アルバイトのゆうり(丞威)とまこと(濱田龍臣)兄弟もまた、上からの指令ミスでバイト代はもらえず、正社員にもなかなか成れず、途方に暮れる日々。そんな時、「ちさととまひろのポストを奪えば昇格できる」という噂を聞きつけた兄弟は、彼女たちを抹殺する計画を企てる。

●アクション監督は昔の「特撮監督」に近い存在

――本作のアクションについていろいろお聞きしていきたいのですが、まず、アクション監督の役割について教えていただけますか。

園村:ざっくり言えば、アクションシーンを専門に演出するのが、アクション監督の仕事ですね。脚本を見ながら、監督と一緒にアクションシーンを作っていくのですが、まず、監督のイメージを聞いて、どういう雰囲気にしたいのか、どういう見せ方をしたいのかを話し合います。次にそれを念頭に入れつつ僕の方でアクションシーンを構成し、撮影前にビデオコンテ(絵コンテの映像版)にして、実際のカット割や編集点などを事前に決めていきます。

監督からOKが出たら、そのコンテをもとに撮影に臨むのですが、カメラマンにアングルを指示したり、上がってきた映像素材を編集したり、アクションに合った効果音を入れたり、最後のMA(音の最終調整)作業まで、結構ガッツリと関わっていきます。ジャンルがアクション映画だとその比重はとても大きいですね。昔の怪獣映画でいうところの特撮監督に近いかもしれません。

演出中の園村アクション監督  ©2023「ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー」製作委員会

――園村さんがアクション監督を目指すきっかけは何だったのですか。

園村:子供の頃から香港映画が大好きで、いつかジャッキー・チェンになりたいと思っていたんですが(笑)、16歳の時に、ある日雑誌を見ていたら、倉田アクションクラブで練習生を募集していたので、「これは行くしかない!」と思って応募したのが全ての始まりです。当時、JACも人気だったのですが、倉田先生は香港映画にもたくさん出演されていたので、その世界になるべく近づきたいと思ったので迷わず決めました。

――なるほど、ジャッキー・チェンになりたかったのですね(笑)そのあと応募されて、どうなったのですか?

園村:養成所でスタントの基礎を徹底的に学ばせていただき、高校卒業までお世話になりました。退所後、一時フリーになってアクション俳優を目指していたんですが、2002年に今所属している事務所(「ユーデンフレームワークス」)の代表を務める下村勇二さん(『キングダム』シリーズなどのアクション監督)と出会い、スタント以外のアクション部としてのスタッフワークを経験させていただいたことが転機となりました。「裏方でアクションシーンを作っていくのってこんなに楽しいんだ!」ということに気づかせていただいて。自分が考えた振り付けが作品として残ることも嬉しいし、演者よりも作品に長い期間携わることができるのもいいなと。その辺りからだんだん意識が変わってアクション監督を目指すようになりました。

●1作目とは全く違う「色」を出したかった

――今のお話でアクション監督の役割の大きさ、醍醐味が何となく見えてきました。となると『ベイビーわるきゅーれ』のアクションシーンは園村さんの腕にかかっているかと思いますが、『2』の製作が決まった時、どんなことに挑戦しようと思いましたか。

園村:『1』と同じことをしてしまうと、ルーティンワークというか、テレビシリーズみたいになってしまうので、1本の映画として『ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー』を観たいなと思えるような唯一無二のアクションにしたかった。『2』を観たら、今度は色の違う『1』も観てみたくなったと思えるような、そんな作品を目指しました。

――今回の続編は男性二人組(兄弟コンビ)が登場し、ちさととまひろに挑んでいく、という新たな展開となっていますが、アクションシーンのこだわりポイントを教えてください。

園村:まず、『1』では、伊澤さん演じるまひろがラスボスに対して必死に食らいついていくという“挑戦者”のアクションとして作り込んでいったのですが、今回は新たな敵を迎え撃つ“チャンピオン”的な風格を出せるアクションにしようと思いました。いわゆる“防衛戦”ですよね。王者らしくその場の空気をコントロールしているような動きを構築していきました。

©2023「ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー」製作委員会

――伊澤さんに関しては本職ですが、髙石さんは本格的なアクションは今シリーズが初めてで、今回も苦労されたと思います。お二人に対してそれぞれどんな指導法を施したのでしょう。

園村:伊澤さんに関しては、僕の現場にスタントとして何度も参加してもらっていたので、得意な動き、好きな動きは分かっていたし、キャラクターも前作である程度方向性みたいなものが決まっていたので、今回はさらにブラッシュアップして、上を目指してもらおうかなと思いました。

――具体的にはどんな課題を出されたんですか?

園村:撮影に向けて作った動きを練習するというよりは、ミット打ちとかもっと基礎的な練習を前回以上にみっちりやってもらいました。パンチ一つにしても、やってる人とやってない人の違いって出ちゃうじゃないですか。そもそも伊澤さんはスタートラインが普通の人より高い時点で始まっているので、『1』と違った味を出すとしたら、もっと基礎を磨くというか、右ストレート一発でお金が取れて、感動させられるような“味付け”の部分にこだわるべきかなと。

――逆に髙石さんはいかがでしたか?前回よりも難易度が増した感じがしました。

©2023「ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー」製作委員会

園村:髙石さんは、前回ご一緒した時、ダンスをやられていたからか体の神経が末端まで行きやすい感じがしていたんですよね。なので今回、アクションをちょっと増やしてみたんですが、期待通り、振り付けを覚えるのも早く、凄くセンスがいいなと思いました。あとは、伊澤さん演じるまひろはストイックな戦い方をしますが、髙石さん演じるちさとはちょっとうるさくてひょうきんなキャラクターなので、若干楽しんで戦っている感じにしたいなと。特に銀行で事件に巻き込まれるシーンでは、ダンスのステップっぽい動きもあったりして、軽く遊んでるぐらいの感じに見えると面白いなと思いました。

――新キャラクターとして、丞威さんと濱田さんが殺し屋兄弟で登場しますが、この二人がちさととまひろの対になっていて面白かったです。

園村:濱田さんはキャスティング部の方で決められたようですが、丞威さんは僕のほうから推薦させていただきました。彼とは10年前に知り合って、彼が主演の作品で僕がアクション監督をやったこともあったので、その身体能力の高さを熟知していましたし、これは伊澤さんといいファイトができるなと思いました。

ゆうり(丞威)とまこと(濱田龍臣)兄弟  ©2023「ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー」製作委員会

――王者・殺し屋女子コンビへの挑戦者となるわけですね。

園村:本来ならば、男性の方がフィジカル的に体格差もあって強いんですが、それを挑戦者らしく見せていかなければいけないので、そこは難しかったですね。何というか、追い詰められる感じを表情だけでなく、動きでも表現しないといけないというか。ただ、丞威さんはアクション以外にもダンスも凄く上手なので、たぶん体で何かを表現するということが得意な俳優さんだと思いました。ネタバレになるので言えませんが、ラストの意外な展開での芝居は、パントマイムなども採り入れた彼のアドリブだったんです。ご覧になれば分かると思いますが、その表現力にちょっと驚きますよ。

――濱田さん演じるまことは、ポジション的には髙石さん演じるちさとに似ていますね。

園村:まひろとゆうり、ちさととまこと、まさに対になっていますよね。濱田さんは、それほどアクションはやっていないんですが、ポイントごとに回転したり、銃を撃ったり、アクション俳優並みの動きはしなければいけないので、キレが出るよう訓練していただきました。そのあたりの動きに慣れていない感じが出てしまうと、せっかくのアクションシーンも冷めてしまうので。

©2023「ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー」製作委員会

――冒頭でアクション監督の役割についてお話いただきましたが、本作では阪元裕吾監督とどのように作業を進めていったのでしょうか。

園村:『1』の時もそうでしたが、アクションに関しては、完全に信頼していただいていたので、ほぼおまかせ状態でしたね。僕の方がかなり年上だったので、気を遣ってらっしゃるのかもしれませんが(笑)。ただ、こちら目線で言わせていただくと、阪元監督は独特なセンスをお持ちだと思っているんです。何というか、本能的には気づいているけれど、言語化していないようなこととかあったりするじゃないですか。そういうものに気づかせてくれるというか、日頃から人間観察をしっかりしているから、キャラクターに対しての造形が脚本の時点で凄く深いんですよね。

だから、阪元監督のそういう部分をアクションで壊したくないっていうのが僕の中であるので、キャラクター性みたいなところに関しては、必ず監督に監修してもらっていました。対峙して睨みあっている時の表情だったり、仕草だったり、逆にそういったところは全て阪元監督におまかせしていました。

●「園村健介」という色を作品に残せるようになりたい

――昨年暮れには『終末の探偵』が封切られ、今年は本作だけでなく、監督とアクション監督を担当した『BAD CITY』も公開されて、今乗りに乗っている園村さんですが、作品ごとにアクションの見せ方が違うので驚きます。

園村:理想は、「このタイプの映画は、園村ならこういうアクションになるんだ」みたいに言われるようなりたいですね。自分で作家性というとちょっと照れくさいですが、作品の中に自分の色は残すんですが、その残し方が「作品によって全然違う」みたいなアクション監督になれたら一番いいなと思っています。

――今後は、アクションだけと言わず、『BAD CITY』のように総合監督を目指されてはいかがですか?

園村:監督をすること自体は凄く楽しいなと思うんですが、やっぱり慣れてない部分がたくさんあって、考えることもたくさんあって、心身ともに消耗が激しい仕事だなと改めて思いました。監督をやり切って、ほかの現場にアクション監督として参加すると、「監督にはなるべく優しくしよう」って思うんですよね(笑)。それぐらい大変な仕事。なので、軸足はあくまでもアクションに置きながら、自分の好きな題材があったら監督としてトライしてみる…くらいのスタンスでやっていけるのがベストかなと思ってます。

――脚本、あるいは原案も書かれてみたらいかがですか?

園村:いえいえ、たぶん向いてないと思います。一行書くのに何時間も悩んじゃうので(笑)

――今後もご活躍を期待しています。

取材・文・写真:坂田正樹

<Staff&Cast> 出演:髙石あかり、伊澤彩織、水石亜飛夢、中井友望、飛永 翼(ラバーガール)、橋野純平、安倍 乙、新しい学校のリーダーズ、渡辺 哲、丞威、濱田龍臣/監督・脚本:阪元裕吾/アクション監督:園村健介/主題歌:新しい学校のリーダーズ「じゃないんだよ」/オープニングテーマ曲:KYONO「2bRaW feat. N∀OKI (ROTTENGRAFFTY)」/制作プロダクション:シャイカー/配給:渋谷プロダクション

公式サイト:https://babywalkure.com/

©2023「ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー」製作委員会

映画『ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー』は3月24日(金)より新宿ピカデリーほかにて公開中

バックヤード・コムとは

エンタメの裏側を学ぶ
ライブ・ラーニング・サイト

SNSアカウントをフォロー

TOP  >  プロフェッショナルから現場の「リアル」を学ぶ  >  園村健介アクション監督、『ベビわる2』でこだわったチャンピオンとしての戦い方