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MAY 21, 2022 インタビュー

なぜ、バカ映画だけを作り続けるのか?最新作『タヌキ社長』でも爆笑一直線の河崎実監督に“ブレない生きざま”を学ぶ

「なぜあなたは、一貫して “バカ映画”は作り続けるのか?」…これを数年前から聞きたくて、聞きたくて、仕方がなかった。え?誰に聞きたかったかって?そりゃもうあなた、この人しかいないでしょう!ご存知、バカ映画の大巨匠・河崎実監督だ。今回、“開運タヌ喜劇”と銘打った最新作『タヌキ社長』公開(只今、『シン・ウルトラマン』と『トップガン』に挟まれて大奮闘公開中!)のタイミングで、ついに真相を聞くべくインタビューの機会が巡って来たので、ここぞとばかりに思いの丈をぶつけてみた。

往年の大喜劇役者・森繁久彌の『社長』シリーズにオマージュを捧げた本作は、『いかレスラー』『コアラ課長』『かにゴールキーパー』『猫ラーメン大将』に続く不条理どうぶつシリーズ第5弾。大手酒造会社のタヌキ社長・信楽矢木雄(声:関智一、スーツアクター:谷口洋行)を主人公に、会社で起こる様々な出来事や、社長とOL との淡い恋を、歌と笑いと宴会芸満載で描く。ヒロイン・房子を演じるのは、これが映画初主演となるシンガーソングライターの町あかり。バカ映画一筋の河崎監督のもと、昭和歌謡を愛する令和の歌姫が華を添える。そのほか、モト冬樹、吉田照美、掟ポルシェら河崎作品常連組に加え、イケメン俳優の土屋シオン、ショウショウ、レインボーなど河崎監督お気に入りのお笑い芸人が初参戦した。

●真っ暗な世の中、何も考えず笑える映画が作りたかった

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下、「何もやることがない」と嘆いていた河崎監督のもとに、町の方から「何か企画ないですか?」と打診あったとのだとか。これを受けて、「世の中真っ暗だし、来年もどうなるかわからないので、平和で何も考えずに笑える作品を撮ろう」と一念発起した河崎監督は、クラウドファンディングで製作資金を募った。企画は『社長』シリーズをベースにした着ぐるみタヌキ社長の奮戦記。「普通にやっても面白くないので、今、日本の伝統工芸として注目を浴びている信楽焼のタヌキを主役にしようと。しかも、心の優しい社長なのに、なぜかタマキン丸出しというところが面白いでしょ?」

コンプライアンスを凌駕した(?)河崎監督のバカ一直線のこの企画、主演はもちろん、話をもちかけた町あかり。とはいえ、「タマキン丸出しのタヌキ社長に惚れるヒロイン役なんて、果たして引き受けてくれるだろうか」…強気の河崎監督もさすがに自信がなかったそうだが、答えはイエス、即OK!昭和歌謡のイベントが縁で知り合ったというこの二人、よほど馬が合うのか、話はスイスイと進んでいく。町にとっては、『干支天使チアラット外伝 シャノワールの復讐』『遊星王子2021』に続く河崎組の3作目。中二病ならぬ“小二病”を自負する河崎監督に、もしかすると同じ波動を感じているのかもしれない。

●コンプライアンスも分かるが、大らかな世界も大事にしたい

コンプライアンスが何かと叫ばれる今の時代、昭和がやりたい放題だったと言われてしまえば何も言えないが、昭和に生まれ育ったものとしては、悪いところは正しながらも、あの大らかな空気感だけは残せないものかと心を痛める。そんなヒリヒリする時代の中で、河崎監督が古き良き昭和を感じさせるバカ映画を作り続けていることに、尊敬の念さえ抱いてしまう。「セクハラだ、パワハラだと、何かと大変な時代ですが、『こんなことも許されないのか!』っていうね。ふざけていますが、こういう大らかな世界があってもいいじゃないかと。コロナや戦争でもう真っ暗ですよ、世の中は。だから、せめて映画館に来たときだけは笑って楽しんでほしい…ただそれだけなんですよね」と河崎監督は嘆く。

一見、バカバカしい着ぐるみシリーズを愛好するのにも理由がある。「着ぐるみものが好きなのは、やはり異形の魅力ですよね。タヌキ社長のように現実に存在しない異形のキャラクターが日常の空間に入り込むと、いろんなドラマが生まれるんです。ドラえもんもオバケのQ太郎もそうですし、言ってみれば寅さんもそう。最初は違和感があっても、最後は心を合わせてなんとかうまくやっていく…そういうところが好きなんだと思いますね」と目を輝かせる。

●なぜ、バカ映画を作り続けるのか?そこには揺るぎない哲学が!

それにしても、現在63歳の河崎監督、ここまでブレることなくバカ映画をやり続けているところが凄い。その変わらぬモチベーションは、何によって支えられているのだろうか?河崎監督は、自身をこう分析する。「僕は東京のふぐ料理屋の息子で一人っ子なんですね。なんでも与えられ放題だったので、世の中に対して訴えるものが何も湧き出て来ないんです。安保反対とか、原爆禁止とか、社会情勢に訴えかけるようなテーマが自分の中に何も芽生えなかった。そんな中、クレージーキャッツや『若大将』『社長』シリーズなんかを観ながら育ったものだから、とにかく楽しめる映画、何度観ても飽きない映画の虜になり、自分の中の揺るぎないアイデンティティーになっていったんだと思います」。

笑いにこだわり、何があっても、何を言われても、バカ映画を作り続けているところが“オンリーワン”だと胸を張る河崎監督。逆に、時代の流れで変化した部分はないのだろうか?「僕がやりたいことはハッキリしているので、ただ時代が変化しているだけですよ。例えば、周りはどんどん変わっても、ずっと蕎麦を作り続けているようなもの?毎回、作っているものは違うけれど、“バカ映画”を作っているという暖簾を出し続けているところは同じですよね」と強調する。「僕は『天才バカボン』と『空手バカ一代』が大好きなので、自ら“バカ映画”と発信していますが、“おバカ映画”と言われると心外なんですよね。“お”を付けるな、“バカ”なんだと。僕らにとって“バカ”は特別な言葉、誉め言葉なんです。王(貞治)さん、長嶋(茂雄)さん、イチローさんなんかも野球しかやっていないから、“野球バカ”でしょ?それこそが尊いことなんじゃないかなと。“天才おバカボン”や“空手おバカ一代”じゃダメでしょ?」と持論を展開する。

さらに配給・宣伝を担当する叶井俊太郎氏(現・サイゾー映像事業部、エクストリームで配給業務に従事)との出会いも大きかったという河崎監督。「あの人もバカですよね(誉めてます!)。叶井さんが配給した『えびボクサー』が当たった時、ほとんど面識はなかったんですが、彼に電話して、「あんた『えび』の人だろ?今度『いか』やんないか?レスラーで」って言ったら、「ああ、いいですよ」って(笑)。そこからの付き合いなんですが、彼にとって、映画の内容はどうでもいいんです。普通だったら、こうしてくれ、あーしてくれと、なんか注文つけたりするじゃないですか。それが一切ない。とにかく黙って配給宣伝に入れ込んでくれるんです。信頼関係なのか、無関心なのか、なんだかわかりませんが、そこがいいんですよね」。

不安定な世界情勢が暮らしに影を落とす中、「せめて映画を観ているときくらいゲラゲラ笑ってほしい」と語る河崎監督。「何十億もかけたハリウッド映画も1,900円、『タヌキ社長』も1,900円、もう劇場に来た時点で諦めてください(笑)。バカ映画の決定版なので、とにかく怒らないで観てほしい!」…この思い、多くの人に届けば届くほど、世界は平和に近づいていく…そんなことをゆる~く信じて、劇場に足を運んでみるのも悪くない。

日本劇場公開:2022年5月20日(金) よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ他 全国ロードショー!

提供:バックヤード・コム  取材・文・撮影:坂田正樹

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