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MAY 04, 2024 インタビュー

草彅剛は復讐が似合う!映画『碁盤斬り』で白石和彌監督が挑む時代劇の新境地

『ミッドナイトスワン』の草彅剛と『孤狼の血』の白石和彌監督が初タッグを組んだ映画『碁盤斬り』が5月17日(金)より全国公開される。念願の時代劇初挑戦に胸躍らせる白石監督に、本プロジェクト始動の経緯から、京都撮影所での撮影秘話、さらには圧倒的なカリスマ性を持つ稀有な俳優・草彅剛の魅力について、たっぷりと話を聞いた。

時代劇初挑戦の白石和彌監督

<Introduction>本作は、『凪待ち』の名手・加藤正人が古典落語をベースに書き上げたオリジナル脚本を白石監督が映像化した時代劇エンタテインメント。『ミッドナイトスワン』で第44回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した草彅を主人公・柳田格之進役に迎え、武士の誇りを懸けた壮絶な復讐劇を活写する。

柳田格之進役の草彅剛

そのほか、格之進の一人娘・お絹役に清原果耶、萬屋の手代・弥吉役に中川大志、町の親分の長兵衛役に市村正親、格之進と因縁のある武士・柴田兵庫に斎藤工、半蔵松葉の大女将・お庚役に小泉今日子、そして格之進の生き様に惹かれる萬屋の亭主・萬屋源兵衛役に國村隼と、錚々たる俳優陣が集結した。

<Story>浪人・柳田格之進(草彅)は、身に覚えのない罪をきせられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われ、娘のお絹(清原)と江戸の貧乏長屋で暮らしている。その実直な人柄は、かねてから嗜む囲碁にも表れ、嘘偽りない勝負を心掛ける生き様から町人たちの人望も厚い。そんなある日、妻も身分も失った冤罪事件の真相を知らされる。復讐を決意した格之進とお絹は、半蔵松葉の大女将・お庚(小泉)の力を借りながら、壮絶な闘いに挑んでいく。

白石監督インタビュー第1章「草彅剛の魅力」

◉映画監督として時代劇を撮ることは憧れだった

――白石監督にとって念願の時代劇だそうですが、時に美しく、時に激しく、ギアチェンジにワクワクする素晴らしい作品でした。そもそも、なぜそんなに時代劇を撮りたかったのですか?

白石監督:日本の映画史をひも解くと、やはり時代劇に行き着くところがありますし、僕が今まで観てきた映画の中でも時代劇が圧倒的に多い。そこに触れずして映画監督として終わったら、たぶん一生悔いが残るなと思っていました。助監督時代もほとんど時代劇の現場経験がなかったので憧れでしたね。

――このプロジェクトが始動するまでの経緯をお聞きしたいのですが、白石監督のほうから動いたのでしょうか?

白石監督:Netflixドラマ『火花』(2016)や映画『凪待ち』(2019)でご一緒した脚本家の加藤正人さんが立ち上げた企画です。加藤さんは無類の囲碁好きで、脚本家仲間で飲んでる時に、「そんなに囲碁が好きだったら古典落語の『柳田格之進』を題材に何か書いてみたらどうか」と言われて早速その落語を聞いてみたら、「これはぜひ映画にしたい」と思ったそうです。そして、誰に頼まれるでもなくプロットを書き始め、一通り書き終わったところで「白石君、ちょっと読んでもらっていい?」と声をかけていただいたんです。そこから徐々に企画が具現化していったという感じですね。

――なるほど、脚本家の加藤さんが「囲碁好きだった」というところから始まったのですね。

白石監督:実は、『凶悪』(2013)で高い評価をいただいて、当時、数多くインタビューを受けたんですが、そのたびに「将来は時代劇を撮りたい」という話をしていたんです。言霊になれば誰か声をかけてくれるかな?と思ったんですが、誰からも声をかけられず…。だから今回、思わぬチャンスをいただいて本当に嬉しかったですね、興奮しました(笑)

◉草彅剛という俳優は「復讐」がよく似合う

――今回、草彅さんを格之進役に起用しようと思った理由を教えていただけますか?

白石監督:脚本を作り始めて、いろいろ修正作業をしている時に、風の便りで「草彅さんがどうやら時代劇やりたがっている」という話がどこからともなく届いて来たんです。それを聞いて、僕も加藤さんも、「草彅さんなら柳田格之進にぴったりかもしれない」と思って、とりあえず脚本を読んでもらったんですが、「ぜひやりたいです」という答えが返ってきて。映画の軸が決まり、一気にこの企画が動き出しました。

――草彅さんに決まったことによって、さらに脚本の加筆・修正があったのですか?

白石監督:それはあまりなかったですね。すでに格之進にぴったりでしたから。脚本は、人情劇と復讐劇(ちなみに落語版は復讐の話はない)で成り立っていて、食い合わせに若干の不安を抱いていたんですが、草彅さんがやるんだったら復讐劇もありだなと。『銭の戦争』とか『罠の戦争』とか、戦争シリーズ(関西テレビ・フジテレビ)のイメージがあるせいか、「復讐が似合う人だな」と常々思っていたんです。

――草彅さんって、いつお会いしても飄々(ひょうひょう)としているんですが、撮影現場にはどんな感じで入っていらっしゃるんでしょう。

白石監督:いつものように自然体です。YouTuberみたいな感じ(笑)。「どうもよろしく~、なんかダメなとこあったら言ってね、ぜんぜん大丈夫だから」と言いながら、いざセットに入ると格之進の顔になっているんです。このスイッチのオン・オフの切り替え方、すごくないですか?「新しい地図」の3人(草彅、香取慎吾、稲垣吾郎)は皆さんそんな感じ。若い時からいろんな現場で場数を踏んできたから鍛えられているのかもしれませんね。

――なんだかイメージ通りですね。撮影が進んでいくうちに、新たな発見とか、意外な一面とかありましたか?

白石監督:いくら草彅さんとはいえ、かつらをつけたり、着物を着たり、侍になって江戸時代にタイムスリップして演じるのは大変かな?と思ったんですが、どんな状況でも、やっぱり自然体なんですよね。ただ、ほんの少し浮いている感じがあったので、「重心をもう少し低くした方が侍に見えますよ」とか、「相手を見るとき、ちょっとだけ顎を引くと眼差しがまっすぐに見えますよ」とか、多少修正させていただきましたが、その程度です。あとは、演技指導らしい指導は一切なし、もう自由に演じていただきました。

――冷静沈着に囲碁を嗜む格之進が、真実を知って復讐の鬼と化すわけですが、そのシフトチェンジが面白くて、クールな格之進が感情を爆発させるところなんかは、草彅さんの人間味が溢れ出て、そのコントラストがとても魅力的でした。

白石監督:後半、身綺麗な格之進がどんどん汚れていく姿を捉えたくて、ちょっと西部劇っぽく撮っていきたかった、というのはありましたね。

――感情に流されていくというか、これはやはり白石監督の狙いだったんですね。

白石監督:そうですね。宿敵に対して当然憎しみを抱いているんですが、どこかで自身の合わせ鏡というか、自分の生き方も敵を通して見つけていくところもあったのかもしれません。清く、正しく、だけではやっぱり人間はダメ、たとえ悪でも自身の中にある気持ちや情を大切にすることも重要なんだなと。格之進の人間性と草彅さんの魅力が重なって、すごく不思議な味わいが溢れ出ていたと思います。

白石監督インタビュー:第2章「時代劇の魅力」

◉木村大作さんのひと言で肩の力が抜けた

――ところで、これまで現代劇ばかり撮ってきた白石監督にとって、時代劇は少し敷居が高かったかと思いますが、身構えてしまうところはありませんでしたか?

白石監督:もちろん、身構えました。言葉遣いとか、所作の美しさとか、やはり日本の今に至るまでの歴史があるわけじゃないですか。それが歌舞伎をはじめいろんなところに分波してると思うんですが、自分はどれだけわかっているのか…。ところが、実際に京都撮影所に入ってみると、そこまで危惧することではなかったというか、スタッフさんも、「ぜんぜん自由にやった方がいいですよ」「わからないところは僕たち支えますから」みたいな感じでした。それこそ、ひと昔前なら、「あんたら、何もわかってへんな」みたいな厳しい言葉もあったかもしれませんが、今はもうそんなことはないです。皆さん、「時代劇の世界によくぞ来てくれました」と歓迎してくれるし、撮影が終われば、「また戻ってきてくださいね」と見送ってくれました。

――今のお話をもう少し掘り下げてお聞きしたいのですが、京都撮影所のウェルカムな雰囲気はあったものの、やはり白石監督なりに勉強や事前準備はされていったと思いますが、その辺りはいかがですか?

白石監督:先ほども言いましたが、『凶悪』のインタビューから「時代劇をやりたい」とアピールしていたので、わりとそのころからコツコツ資料を読んだり、集めたり、あとはリアルタイムの時代劇映画をできるだけ観るようにしました。ただ、やっぱり参考になるのは過去作。江戸時代に近ければ近いほど、当時の記憶が映画により濃く残っているので、そういった古い作品もたくさん観ました。

――参考にした作品とかありますか?

白石監督:『人情紙風船』(1937)は長屋の話でもあるので参考にしました。この作品を観ると、長屋の奥に抜けがないんですよね。すごく高い建物があって、階段で上に登っていったりしてるんですよ。山中貞雄監督のインタビューを読むと、「この長屋は未来が見えないんだ」みたいなことをおっしゃっていて。酒があると近所の人もいっぱい集まってきて楽しげな宴会が始まるんですが、実は将来が全く見えない場所だったりするんですよね。本作でも同作を参考に、その日暮らしの長屋の風景を採り入れています。あとは、黒澤明監督はもちろんのこと、加藤泰監督や小林正樹監督の作品も参考にさせていただいてますが、特に小林監督の『上意討ち 拝領妻始末』(1967)が好きで、たくさんインスピレーションをいただきました。

――事前に時代劇の撮影現場を視察したりはしましたか?

白石監督:助監督時代も京都撮影所とはご縁がなかったんですが、過去に一作品だけ、奥田瑛二さんが監督した『るにん』(2004)の現場に入らせていただいたことがあって、当時、スタッフさんから時代劇に関していろんなことを教えていただいた記憶があります。それも本作を作る上で、役立っているかなと思います。

――草彅剛という軸が決まり、撮影準備が進んでいく中、少しは腹が決まったというか、「時代劇を撮る」というプレッシャーから解き放たれていった感じですか?

白石監督:ロケハンしながらカタチになっていくその一方で、所作がどうだとか、言葉遣いがどうだとか、そういう細かいところが心配事としてどうしても拭えなかったんですが、キャメラマンの木村大作さんが、人づてで「白石が時代劇を撮るらしい」っていうのを聞いたらしく、「時代劇は所作がどうとかいろいろ言われているけれど、俺たちは『人』を撮っているんだからな。それを忘れるなって白石に言っとけ!」みたいなことをおっしゃってくれて。その言葉を聞いて、パッションさえあれば細かいことに気を遣わなくてもいいんだと、肩の力が抜けました。

――大局的に言えば、時代劇のベテランスタッフや専門家もいるので、のびのびやって、あとはディテールを修正していけばいいわけですからね。

白石監督:そうなんですよね。歴史監修の先生に聞くと、意味合いが当時と今では180度違う単語もたくさんあるので、そこは追い求めるところではないと。物語を伝えることが重要なので、極端に現代っぽくならなければ大抵のことは大丈夫じゃないですか?と言われました。例えば、公家の言葉で、「なんとかで~ごじゃりまする」という言い回しがスタンダードになっていますが、これって深作欣二監督の映画発信らしいんですよ。誰かが時代劇で面白いことをやって、「これ、いいね!」って真似しだしたら、いつの間にかスタンダードになっていく…それの繰り返しなんじゃないかと思いました。

◉実はアクションシーンを撮るのが苦手

――時代劇といえば、殺陣。時代劇アクションと現代劇アクションの違いみたいなところも聞いてみたいのですが。

白石監督:実は僕、アクションシーンに苦手意識があります。ハードな内容の作品が多いせいで誤解されているかもしれませんが、ぜんぜん得意じゃないんです。だから、殺陣のシーンも、アクションチームにある程度イメージを伝えてビデオコンテを作ってもらい、そこに多少の修正を加えていくという感じでした。

――なるほど、言われてみればそうですね。ただ、その数少ないワンシーンが、白石監督の場合、頭にこびりつくくらいインパクトがある。例えば、タイトルにもなっている碁盤を斬るシーン。あれは脚本にあったのですか?

白石監督:もちろんです。脚本もそうですが、落語にもあります。

――そうなんですね。白石監督のことだから、無茶ぶりされたのかと(笑)

白石監督:いやいや(笑)。でも確かに、「碁盤って、本当に斬れるの?」という話は散々したんですよ。碁盤の角を斬った昔の絵が遺されているんですが、本当の達人なら、木目としっかり合えば斬れないことはないんじゃないかと…でも、現実的には難しいですよね。

――京都撮影所の印象も教えてください。あの壮大なセットの中に入って実際に撮影された時の気持ちはいかがだったでしょう。

白石監督:なんというか、美大のキャンパスみたいな感じでいいんですよね。東京だとフリーの集まりになりますが、撮影所が中心にあると、演出部、俳優部、資料部など全てが揃っていて、とてもいい環境だなと思いました。

――資料室なんて映画好きにはたまらない空間でしょうね。

白石監督:そうなんですよ。昔のロケハンの資料とかいろいろあるので、映画オタクの血が騒ぐというか(笑)。例えば、『吉原炎上』(1987)の参考資料で昔の吉原の写真がたくさんあったんですが、ちゃんとスクラップしていないのでポロポロ落ちてきちゃったりするんですよ。日本映画の貴重な資料だから、「これ、アーカイブ化したほうがいいですよ!」ってスタッフの方に懇願したくらいですから。

公開記念・超特大ビジュアル(高さ約3メートル×幅15メートル)が新宿駅西口改札外通路に

――まさに収拾がつかないくらいの宝の山ですね。

白石監督:その宝の山に埋もれながらいろいろ調べて思ったのが、時代劇はいろいろ勉強も必要だけれど、最大の魅力は、その歴史を知った上で、最後は自由に「デフォルメできるところ」だなと。例えば、本作にも登場する華やかな吉原遊郭。その出入り口である大門の前は、足抜け(脱走)できないように堀があったんですが、実は映画に出てくるような大きな橋ではなかったんです。ところが、『緋牡丹博徒 お竜参上』(1970)の橋の図面が京都撮影所にあって、「これと同じセットではどうだ?」というアイデアが美術監督から提案されて…。あの橋の上でいろんなことが起きるので、デフォルメしてもいいんじゃないかなと思ったんですね。

――あの橋を渡る清原さんのバックショット、素敵でしたね。結果、素晴らしい作品が完成したわけですが、どうでしょう、時代劇はやみつきになりましたか?

白石監督:もうやみつきですね(笑)。本当に面白かった。僕の頭の中は今、時代劇の企画しか浮かばない状態です。ぜひまた撮りたいです。

――おっ、これはちょっと期待できそうですね。

白石監督:まだ詳しいことは何も言えませんが、期待して待っていてください。ただ、まずは『碁盤斬り』。囲碁が苦手な方でも、時代劇が苦手な方でも、その世界に入って楽しめるエンタテインメント作品になっているので、難しく考えず楽しんで観ていただけると嬉しいです。

(取材・文・写真:坂田正樹)

白石和彌(しらいし・かずや)プロフィール:1974年生まれ、北海道出身。1995年、中村幻児監督主催の映画塾に参加した後、若松孝二監督に師事。助監督時代を経て、ノンフィクションベストセラー小説を実写化した『凶悪』(13)で第37回日本アカデミー賞優秀作品賞・監督賞ほか各映画賞を総なめした。近年の主な監督作に『日本で一番悪い奴ら』(16)『牝猫たち』(17)Netflixドラマ『火花』(16)ブルーリボン賞監督賞など数々の賞を受賞した『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)『サニー/32』(18)『孤狼の血』(18)『凪待ち』(19)『ひとよ』(19)『孤狼の血 LEVEL2』(21)『死刑にいたる病』(22)、さらに2022年にAmazon Prime Videoにて全10話一挙世界配信された話題作「仮面ライダーBLACK SUN」などがある。

<Staff&Cast> 出演:草彅剛、清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢真、市村正親、立川談慶、中村優子、斎藤工、小泉今日子、 國村隼/小説「碁盤斬り 柳田格之進異聞」加藤正人 著(文春文庫)/ 監督:白石和彌/脚本:加藤正人/音楽:阿部海太郎/製作総指揮:木下直哉/エグゼクティブプロデューサー:飯島三智、武部由実子/プロデューサー:赤城聡、谷川由希子/ラインプロデューサー:鈴木嘉弘/協力プロデューサー:根津勝/撮影:福本淳/美術監督:今村力/美術:松﨑宙人/照明:市川徳充/録音:浦田和治/装飾:三木雅彦、上田耕治/編集:加藤ひとみ、音響効果:柴﨑憲治/キャスティング:田端利江/VFXスーパーバイザー:小坂一順/衣裳:大塚満/メイク床山:山下みどり/特殊メイク:江川悦子、濵名芙美香/スクリプター:中須彩音/制作担当:相場貴和/助監督:松尾浩道/製作:木下グループ、CULEN/企画:フラミンゴ/制作プロダクション:ドラゴンフライエンタテインメント/配給:キノフィルムズ/公式サイト:https://gobangiri-movie.com/

©2024「碁盤斬り」製作委員会

映画『碁盤斬り』は5月17日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他にて全国公開

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