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APR 02, 2022 インタビュー

映画『アネット』レオス・カラックス監督9年ぶりに来日!/ティーチイン・イベントで本作の“舞台裏”を語る

第74 回カンヌ国際映画祭のオープニングを飾った映画『アネット』(公開中)で、見事監督賞を受賞したレオス・カラックス。本作の製作プロデューサーも務めたアダム・ドライバーとオスカー女優マリオン・コティヤールを主演に迎え、全編英語で初のミュージカルに挑んだダーク・ファンタジー・ロックオペラとして大きな注目を集めている。そのカラックス監督が、前作『ホーリー・モーターズ』(12)以来、9年ぶりに公式来日を果たし、公開初日(4/1)に都内・渋谷ユーロスペースで行われたティーチイン・イベントに出席。事前にSNSで募った質問に、時折ユーモアを挟みながらも真摯に答えた。以下、質疑応答の模様をレポートする。

作品概要:“アレックス 3 部作”として世界にその名を知らしめた『ボーイ・ミーツ・ガール』(83)、『汚れた血』(86)、『ポンヌフの恋人』(91)を完成後、文豪メルヴィルの原作を現代に翻案した『ポーラ X』(99)、銀行家らしき男が別人に変身を重ねる予測不能な『ホーリー・モーターズ』(12)と一作ごとに未踏の領域へ挑戦してきたカラックス監督。最新作『アネット』はその集大成であり、かつて“恐るべき子ども”と呼ばれた天才の還暦にして新たなる旅路として注目を集めている。舞台はロサンゼルス。攻撃的なユーモアセンスをもったスタンダップ・コメディアンのヘンリー(アダム)と、国際的に有名なオペラ歌手のアン(マリオン)。“美女と野人”とはやされる程にかけ離れた二人が恋に落ち、やがて世間から注目されるようになる。だが二人の間にミステリアスで非凡な才能をもったアネットが生まれたことで、彼らの人生は狂い始める。

――9年ぶりの来日となりますが、久々の日本はいかがですか?

カラックス監督:本作のプロデユーサーである堀江健三さんと打ち合わせをしたり、劇中に登場するマリオネットの制作者にお会いしたり、仕事として実は何度も足を運んでいたんです。でも、また日本の舞台にこうして戻って来られて嬉しいですね。

――オムニバス映画『TOKYO!』の中で短編『メルド』を手がけるなど、カラックス監督は日本、特に東京がお好きですよね。今回来日されて、何か新たな発見はありましたか?

カラックス監督:桜の季節に来日したのは初めて。今まではずっと秋でしたから。とにかく、いろんなところを歩き回るのが好きなんですが、すごく面白いなと思ったのは、“エレガント”な部分と少し下品というか“猥雑”な部分が同居しているところが興味深いですね。

――今回、アダム・ドライバー演じるヘンリーというキャラクターが、良い意味でクレイジーで闇もあり、突出しています。カラックス監督がヘンリーを描く際にこだわった部分、アダムに求めたものは何ですか?

カラックス監督:アダムの起用は、テレビシリーズ『GIRLS / ガールズ』(12)を観た時に、「この役者をいつかカメラで撮ってみたい」と思わせてくれたのがきっかけですね。ちょっと不思議なところがあって、私のお気入りでもある“猿”に似ていると思ったんです(これはカラックス監督にとっては大きなポイント。彼自身、小さい時に猿を飼っていて、彼の作品にはよく猿が出てくる)。ただ、アダムがヘンリー役に決定したものの、資金難でなかなか思う通りに撮影はできず…。結局8年間、初期の頃からずっとこの企画に付き合わせることになりました。そういった意味では、アダムには感謝しかありません。

――今回の作品には、水原希子さん、古舘寛治さん、福島リラさんなど日本人の俳優も出演されているが、彼らとの思い出はありますか?

カラックス監督:共同製作になると、いろんな国の方々が参加してくれて、それがすごく面白いと思いました。例えば日本は、『汚れた血』の頃から堀越さんが参加してくださっていますが、ストーリーとは全く関係なくても、映画のどこかに自然と(日本が)入り込んでくる、そんな印象を受けています。今回は脇役として日本の役者さんが参加していますが、そのほかロケ地も、実は国際色豊かなんです。物語上の舞台はロサンゼルスなんですが、それをベルギーやドイツで撮ったり、あるいはメキシコで撮ったり。そんな風に一つの映画を作るためにいろんな国の要素がリンクし合ったりしているところは、共同製作の特色というか、僕自身、すごく気に入っています。

――カラックス監督作品の音楽にいつも魅了されています。映画を制作するにあたって音楽から着想することはありますか?『メルド』ではゴジラの音楽がインスピレーションを与えていたように思いますが?

カラックス監督:音楽からインスパイアされることはありますね。映画1本丸ごとというわけではありませんが、シーンごとにはよくあります。なぜかというと、映画監督になる前はミュージシャンになりたかったから。ただ、残念ながら、音楽の世界が私を必要としていなかったことを割と早い段階で気づいてしまった。『メルド』の場合は、ゴジラの音楽がきっかけというわけではないんです。プロデューサーの吉武美知子さんから、「『TOKYO!』というオムニバス映画を撮りたい」というアイデアがもたらされた時、私の頭の中で「下水道から出てくる音にゴジラの音楽をつけたら面白いかも」というイメージが閃いた…実際はそんな感じでした。

――マリオン・コティアールについて。とても仕草が美しくて、まるでサイレント映画の女優さんのような美しさを讃えていたと思います。

カラックス監督:マリオンにしても、アダムにしても、本業は役者です。だから、歌うことは得意な分野ではない。たいがいミュージカル映画は、最初に録音をしておいてプレイバックのようなカタチで演じるんですが、今回は演技をしているその場で歌ってもらうという同時録音に挑戦してもらったんです。そうすると、歌うことが本職ではない彼らは、いつものように安泰ではなく、ちょっと不安定な状況に置かれる。私はどちらかというと、身体的な表現の上手い役者、まるでダンサーが演技しているような感じが好きなんですが、今回は、演技よりも「歌う」ということに挑戦させられた二人のフラジャイルな姿が、とても美しいと感じました。あと、「サイレント映画のようだ」というお話がありましたが、16歳の時、初めて(都会に)出てきたときに観た映画がサイレント映画だったのですが、そのインパクトがあまりに大きくて、僕自身の作品の中に、そういった影響がおのずと出ているのではないでしょうか。

――アネット役のデヴィン・マクドウェルが素晴らしかった。この少女との出会いが本作の奇跡なのではないかと思いますが、いかがですか?

カラックス監督:この作品のストーリーの中では、娘のアネットが唯一、ヘンリーと向き合える存在。そういう意味で、二人が対峙するシーンをクライマックスに入れることにしたんです。でも、そう決めてからが大変でした。「ああ、また今回も不可能なことを自ら作ってしまった」と。というのも、5歳になったばかりの女の子が、大スターのアダム・ドライバーと共演し、しかも歌わなければいけないという高いハードルをこなせるはずがない…。でも、あなたがおっしゃるように“奇跡”が起こりました。

―『メルド」や『ホーリー・モーターズ』『アネット』では、衣装、照明が緑色を意識的に使っているように思われたのですが、何か理由があるのでしょうか?

カラックス監督:従来のフィルムでの撮影は、緑色というのはタブーなんです。どうしても美しい緑色にならない。特に屋外での撮影はちょっと白味がかった色になってしまう。だから、例えば、『汚れた血』なんかは、とても色彩豊かな作品ですが、緑色だけは避けました。ところが、『メルド』でデジタル撮影に挑戦した時、すごく緑色が映えるのがわかった。以来、私は緑色に恋をしてしまったのです(笑)

――カラックス監督のこれまでの映画は静かな作品が多かったのですが、『アネット』では常に音楽が鳴り響いています。本作を作る時に、「沈黙」を入れたいという誘惑が生まれることはなかったのですか?

カラックス監督:今回の企画は全て「歌」ということだったので、最初はちょっとした不安もありました。まるでジュークボックスがエンドレスで鳴っているような恐怖心もありましたが、ただ、音楽の後にやってくる沈黙の素晴らしさに気づいたんです。セリフの後にくる沈黙ではなくて、音楽の後の沈黙って、すごく美しいなと。次回作は、普通のセリフ劇になると思いますが、逆に今は「ちゃんと戻れるのかな?」という不安があります。それだけ、今回の撮影は快感でした。

――もし、次回作が決まっていれば、ほんの少し教えていただけますか?

カラックス監督:(困った表情を見せながら…)どうでしょうね…(詳しくは言えないけれど)近々撮る予定ではあります。

ティーチイン終了後、サプライズで本作に出演した古舘が急遽登壇。カラックス監督の人柄について、「よく気難しいという評判を聞きますが、実際はすごく穏やかで、『撮影というものは本来楽しむこと、それが創作なんだ』ということを思い出させてくれる現場でした」と感謝。これに対して照れ隠しなのか、カラックス監督は、「一つ秘密を暴かせてください」と斬り込み、「古舘さんを選んだのは、実は歌が一番ヘタだったからなんです!」と茶目っ気たっぷりにチクリ。MCも「ちょっとだけ歌ってもらえますか?」と古舘にムチャブリする一幕も。会場が笑いに包まれる中、公開初日イベントは無事幕を下ろした。

(取材・文・撮影:坂田正樹)※握手写真はオフィシャル提供

日本公開日:2022 年4月1日(金) よりユーロスペースほか全国ロードショー

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