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APR 30, 2023 インタビュー

ベルリン国際映画祭金熊賞『アダマン号に乗って』ニコラ・フィリベール監督、心を癒す奇跡の“船”を語る

本年度ベルリン国際映画祭コンペティション部門で金熊賞<最高賞>を受賞した日仏共同製作のドキュメンタリー映画『アダマン号に乗って』の日本公開(公開中)を記念して、メガホンをとったニコラ・フィリベール監督のインタビュー映像が到着。共同製作国である日本の観客にもいち早く届けたいというニコラ監督の願いが叶い、4月28日(金)、緊急公開となった本作の主役“アダマン号”への熱い思いと共に、映画が完成するまでの裏側についてたっぷりと語ってくれた。

© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride – 2022

第73回ベルリン国際映画祭コンペティション部門で金熊賞を受賞した『アダマン号に乗って』。ドキュメンタリー映画が金熊賞をコンペティション部門で受賞するのは、長いベルリン国際映画祭の歴史においても二度目という快挙。受賞時の気持ちについてニコラ監督はこう語る。「受賞以前に作品がノミネートされたことが嬉しかったです。今まで参加はしていても、ノミネートされたことはありませんでした。金熊賞受賞は予期していなかったので、本当に驚きました。自分にとっても、作品にとってもいいことだと思っています。作品が今後、精神医療に与える影響にも期待しています。精神医療の世界は今、苦しみの中にあるので、少しでも人間的な精神医療にスポットライトが当たってくれれば嬉しいです」

本作の舞台となるアダマン号には、精神疾患者の為のデイケアセンターでいろんな患者が毎日やってくる。実際に体感したニコラ監督にとって、ここはどんな場所なのだろうか?「アダマン号は2010年に開所しました。パリの中心部、セーヌ川に浮かんでいます。係留されているので、航行する船ではありません。言うならば“浮かぶ建造物”です。乗っているときは水の上にいる感覚があります。船の中にはさまざまな空間があります。患者はその中を自由に移動できて、閉ざされた空間はありません。船に使われている素材はガラスや木材など重厚感があり、光がたくさん入ります。パリの中心にいるのに別の場所に来たような錯覚にとらわれる、とてもゆったりとした場所です。水が近くにあるというのも重要ですね、場所そのものに癒し効果があるんです」と述懐。つい訪ねてみたくなる場所だが、基本的には観光客などがふらりと訪れることができる場所ではない。そういった面でも患者たちの穏やかな時間は守られている。

© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride – 2022

では、どんな患者たちとスタッフで成り立っているのだろうか?「通ってくるのは主にパリに住む患者さんです。定期的に通う人もいれば、不定期に通う人もいますし、複数や単体のワークショップに来る人もいれば、ただ雰囲気に浸ってコーヒーを飲みに来る人もいす。スタッフも患者さんもみんな私服なので、誰が患者さんで誰がスタッフなのかも区別がつかないくらいで。レッテルがないんですね。患者さんが“病気”の枠に閉じ込められておらず、ちゃんとした“人”として見られているんです。スタッフは、彼らの「勢い」を少し引き出そうとします。彼らを孤独から引き出して、世界とつながる手助けをするのです。アダマン号はそういう思想をもった場所です」と説明する。

© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride – 2022

映画の中では、そうした患者たちが気ままに弾き語りをしたり、絵を書いたり、ジャム作りをする様子などを観ることができる。気分の良い日もあれば、そうでない日もある、どんな日でもアダマン号は、ありのままを受け入れてくれる場所に感じられる。彼らの日常をとらえた『アダマン号に乗って』の撮影は7ヶ月間、収録映像は100時間にも及んだ。その中でもニコラ監督が一人きりでカメラを携え、撮影をしたものがほとんどを占めるそう。最後にアダマン号の「アダマン」の意味を聞いてみるとこう答えてくれた。「フランス語でダイヤモンドの中心という意味です。ダイヤモンドの核となる硬い部分です。英語でadamant は“確固たる”という意味です。フランス語ではあまり使われませんし、私も意味を知りませんでした。“アダマン”って音がきれいですよね」。

© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride – 2022

ニコラ監督は、観客に確実なメッセージを伝えたくて、映画を撮るのではないのだと言う。今回で言えば、「観客の手を取って、アダマン号に彼らを誘う。そして観客がそれぞれ、精神医療に興味をもつもよし、他者との交流に関心をもつもよし、ただその場にいる気分になるだけでも良いのだ」と話してくれた。是非スクリーンに足を運び、セーヌ川のせせらぎに耳を傾け、川のきらめきの上で、アダマン号の人々が送る日常の空気を楽しんでほしい。

<Staff&Cast> 監督:ニコラ・フィリベール/2022年/フランス・日本/フランス語/109分/アメリカンビスタ/カラー/原題:Sur L’Adamant/日本語字幕:原田りえ/共同製作・配給:ロングライド/協力:ユニフランス 公式サイト:https://longride.jp/adaman/

© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride – 2022

ドキュメンタリー映画『アダマン号に乗って』はヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開

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