クリエイターの発掘・育成を目的に、映画製作のきっかけや魅力を届けるために生まれた短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)』。その最終章となる“Season4”が、9月2日(金)よりついに劇場公開された。
齋藤工、水川あさみ、ムロツヨシら俳優陣も数多く名を連ねる中、監督2作目となる池田エライザも『Good night PHOENIX』という短編作品で参戦。少年の成長を描いた日本情緒溢れる第1作目とは打って代わり、“命を食べる”という真摯なテーマを選んだその真意とは?かねてからクリエイター志向の池田に本作に込めた思い、そして監督として新たに挑んだ課題について話を聞いた。
あらすじ:空想の世界で動物のフィギュアと戯れることが大好きな少年。純真無垢な彼が家族と迎えたクリスマスの夜、食卓に上がったのは親友のフェニックス(ニワトリ)の姿を見て深い悲しみに苛まれながらも、“命を食べること”を自覚する。
●ブレイクタイムのような短編映画にしたかった
――どのような経緯で本プロジェクトに参加することになったのですか?
池田監督:『MIRRORLIAR FILMS』の製作チームから事務所を通して正式にオファーをいただきました。ただ、私自身、このプロジェクトがどういう仕組みなのか、詳しく知らなかったので、最初にいろいろとお話を聞かせていただいたんですが、「若手を育てる」「低予算で撮る」といった主旨のところで少し迷いました。もちろん、その考えに共感はしますが、その一方で、どうしても技術部にしわ寄せがいき、スタッフを搾取しなければいけない瞬間が出てきてしまうのでは…?という思いがよぎったので、「それは絶対にしたくない」という話をしたら、「そこも一緒に考えていきましょう」というご返事をいただいたので、参加することに決めました。
――クラウドファンディングもそういう理由から始めたんですね。
池田監督:そうですね。もちろん、なるべくお金がかからない方向でやるんですが、たとえ新しい挑戦をする過程であっても、「作り手を搾取しちゃいけない」という考えが私の中にずっとあったので、一つの手段としてクラウドファンディングを利用して作ることにしました。
――短編と長編の違いはあるとはいえ、1作目の『夏、至るころ』とはがらり世界観が変わりましたね。
池田監督:よく言われます(笑)。池田エライザなら第1作目にこういう作品が持ってくるだろうって。
――この題材は以前から温めていたものなんですか?
池田監督:いえいえ。最初は全然決まってなくて、ご依頼があってから、音楽っぽいものとか、歴史っぽいものとか、あるいは日本を舞台にしたものとか、いろいろ書いたんですが、コロナ禍のご時世、撮影がどんどん延びていく中で、「今、伝えなければいけないことって何だろう?」って考えたときに、ふとこの題材が浮かんだんです。ショートフィルムという形式を使って、食育や気候危機、ゴミ問題などを説教臭くならず、箇条書きのような感じで、観てくださった方の心に何かが残ってくれれば…そういう作品にしたいと思いました。
――夢の世界を漂うような不思議な感覚でしたね。確かに1つ1つのシーンが印象深く、心に残っています。
池田監督:可愛がっていたニワトリが死んで夢に出てきたり、コップの中の氷が解けてクマのフィギュアが沈んでいったり、ちょっと意味深な映像がフラッシュバックするようなそんな作品を作りたかったんです。というのも、私の作品だけが上映されているわけではなくて、不特定多数の方が観てくださるからオムニバス形式なので、テーマを押しつけるようなものではなく、“ブレイクタイム”のような感覚したかった。だから、よくわからないけど、なんとなくわかる…そんな感じで受け取っていただいていいと思います。
――なるほど、長さも約10分でブレイクタイムという感覚はありましたね。
池田監督:「こんなに短くて大丈夫ですか?」ってプロデューサーさんに確認したら、「大丈夫です」と言ってくださったので、10分を少し切ってるけど、これで行っちゃおう!みたいな(笑)
● テーマに合わせて“丸焼き”文化の盛んな外国を舞台に
――撮影はどこで行われたんですか?どこか北欧の香りがしました。
池田監督:海外は行ってませんよ、普通に日本のスタジオです(笑)。よく再現VTRとかに出てくるハウススタジオも使いました。大きな家具を減らし、布の数を増やし、空間をなるべく広くして、目に入ってくる様子が人の視点に定まるようなセットにしたんですが、それがもしかすると北欧っぽさに繋がっているかもしれませんね。あと、クリスマスの設定だったんですが、優しくて温かい通常のイメージではなく、どこか張り詰めた空気感にしたかったので、あえて無機質なスタジオで撮ったという狙いもあります。
――国籍こそ明確なものはありませんが、今回はなぜ設定を外国にしたのですか?
池田監督:日本にはあまり“丸焼き”の文化がないことですかね。だから“丸焼き合わせ”ですね。『MIRRORLIAR FILMS』という自由で新しい試みだからこそ、日本人である必要もなかったですし、私もルーツが半分外国なので、日本の“”古き良きだけじゃない、という感覚もあって。だから、「あえて外国にしました!」という感覚もなく、しいて言えば適材適所という感じです。
――俳優さんはオーディションですか?主人公の少年がとてもラブリーでした。
池田監督:規模は小さかったですが、一応オーディションです。主人公の少年役の子は、フィギュアで遊んでもらって、その姿がすごく可愛くて決めました。観ていただければわかりますが、眉毛がしっかり太い愛され顔ですよね。本当はストレートヘアなんですが、クルクルパーマにしてさらに愛らしさを増しました。あとは、ドタバタ走る感じとか、いろんなものに興味を持つ好奇心旺盛な感じとか…でも、ちょっと自由過ぎて、撮影は大変でした。なんというか、台風みたいな子でした(笑)
――お母さん役も印象的でした。ちょっと怖い感じも…
池田監督:お母さん役の彼女は、性格の美しさと少し尖った感じがすごく母親っぽいなと思って選びました。子供から見たお母さんって、厳しくて怖い存在に勘違いされることもあるけれど、「実はこんなに優しいのよ」っていう雰囲気がとてもよかった。娘役の子は、ちょっとドラキュラっぽいというか、この映画のテンションに一番合うなと思い、決めました。そしてお父さん役。実は一番設定を細かく書いたキャラクターなんですよ。宗教学者で、いろいろ学んでいるうちに涅槃像(ニルヴァーナ)に出会って、感銘を受けて、菜食主義を実践しようとしている人…それに合うお父さんを選ぶのが結構大変でした。
――皆さん、日本在住の俳優さんなんですか?
池田監督:そうです。いろんな国の方に集まっていただいたんですが、実は彼らの普段の共通言語は“日本語”なんです。
●私にとって映画の技術部は裏方ではなく“花形”
――今回、監督2作目ということで、1作目の経験が生かされたこと、あるいは今回、新たに学んだことはありますか?
池田監督:子役のあやし方ですかね(笑)。『夏、至るころ』でも子役を使ったんですが、もっといい瞬間を撮れたなって、少し後悔したところもあったんですよ。ただ、今回は撮影が2日間しかなくて、年齢も少し上でヤンチャ盛り。かなり不安でしたが、そこは1作目の経験を生かして撮りたいものが撮れたなって実感はあります。
――どんな方法で撮ったのですか?
池田監督:本番はそんなに使わず、テストだったり、カットかけたあとのじゃれ合いだったり、そういうところを使いました。彼らの一番魅力的な瞬間をオーディションで覚えておいて、「それをいかに撮るか」をずっと考えていたんですが、本番はどうしても緊張して力が入っちゃうので、だったら緊張が少ない状態、あるいは緊張が解けたあとの表情がいいのかなと。
――長編と短編、撮り方で戸惑ったりはしなかったですか?
池田監督:ぜんぜんメソッドが違うんですよね。『夏、至るころ』に関しては、捨てのカットがないくらい、香盤表通りに正しく編集したんですが、今回は、長回しをして、自分の感性で編集し、「観客を飽きさせない10分を作らなきゃいけない」という違う難しさがありました。内容が説教臭いからこそ、夢を見ている時の感覚、いろんな場所を行き来している感覚にしたいなと思いました。
――映画監督2作目を終えて、次は自分発信で企画したものを作りたいとか、野心的になっている部分はあるんですか?
池田監督:私の場合、オファーが来たものからゆっくりやっていく方がいい感じですね。元来、私は先頭に立ってぐいぐい引っ張っていくよりも、チームみんなで力を合わせてがんばっていくほうが感覚的には合っていると思うので。明らかにジャンヌ・ダルクタイプではないので、オファーがかかったら、仲間を見つけて、話し合って、折り合いをつけて、最善策を編み出していく…そういうスタイルで行きたいと思っています。
――相変わらず、女優、歌手、モデル、バラエティと、表舞台のお仕事が充実していますが、映画監督を経験し、今も自分は「裏方気質」だなって思いますか?
池田監督:そもそも技術部のことを私は“花形”だと思って映画の現場に入っているから、裏方って感じがしないんですよね。初めて映画に出させていただいた時に思ったんですが、私たちの芝居を真剣な眼差しで見ているときの監督やスタッフの姿、カメラマンや照明さんの立ち居振る舞いとか、もうキュンキュンで(笑)。逆に私が彼らのことをずっと見てられるなぁと思って。映画監督として現場に入る自分を、「かっこいいなぁ」と思いながらやっているので、私にとって技術部は憧れの花形です。
取材・文:坂田正樹 写真:松林満美 スタイリング:Lim Lean Lee ヘアメイク:豊田千恵
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映画『MIRRORLIAR FILMS Season 4』は公開中
※『Good night PHOENIX 』 監督:池田エライザ 出演:フリッツリオ、アイビー愛美