アカデミー賞®作品賞、主演男優賞ほか5部門を受賞したスペクタクルアクション『グラディエーター』(00)公開から24年。まさに四半世紀をかけて練り上げた脚本をもとに、待望の続編『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』が11月15日(金)よりついに日本劇場公開された。
「剣とサンダル(剣闘士が着用していた履物)の映画なんてもう死んでいる」と最初はどの映画スタジオからも敬遠されたこの企画を、巨匠リドリー・スコットとともに伝説的作品に育てたプロデューサーのダグラス・ウィックとルーシー・フィッシャー夫妻に、前作の映画化秘話から24年の歳月をかけた本作の新たな魅力、さらには『aftersun アフターサン』の新鋭ポール・メスカル、2度のオスカーに輝く名優デンゼル・ワシントンの起用について話を聞いた。
<Story>ローマ帝国全盛の時代。 ヌメディア国で平穏な暮らしを送っていたルシアス(ポール)は、将軍アカシウス(ペドロ・パスカル)率いるローマ帝国軍の侵攻により愛する妻を殺され、捕虜として拘束されてしまう。すべてを失いアカシウスへの復讐を胸に誓ったルシアスは、謎の奴隷商人マクリヌス(デンゼル)に買われ、ローマへと赴くことに。そこで剣闘士《グラディエーター》となった彼は、かつての英雄マキシマス(ラッセル・クロウ)とルッシラ(コニー・ニールセン)の子であることを知り、コロセウムで待ち受ける壮絶な戦いへと踏み出していく。
●映画の神々が私たちに舞い降りた
――今さらの質問になりますが、遡ること2000年=ミレニアムの年に、なぜローマ帝国の話を映画化しようと思ったのですか?リドリー監督は「大帝国の分かれ目の時代を人類の節目である2000年に描くことは意義深いことだった」ともおっしゃっていましたが。
ダグラス:実はミレニアムに合わせて製作したわけではなく、完成した年がたまたま2000年だっただけなんです。リドリーの発言は存じ上げていませんが、その偶然性を受けての答えだと思います。
――なるほど。ミレニアムだから、何か特別なものを作ろうと思ったわけではないのですね。当時は、『スパルタカス』や『ベン・ハー』のような歴史劇が突然出てきたので、「なぜ、今、ローマ帝国なのか」と少々驚いたのを覚えています。
ダグラス:個人的に歴史ものが大好きで、いつか大作を作りたいと思っていたのですが、ある脚本家(共同製作のデヴィッド・フランゾーニと推測)が、ローマ帝国の文化の中心だった“コロセウム(円形闘技場)”の歴史をリサーチし、政治の権力抗争から国民の目を反らすため、「剣闘」というエンタテインメントが用いられていたことを脚本のネタとして持ち込んできたんです。私は大いに触発されました。
これが、のちに映画『グラディエーター』となって数々の奇跡を起こすキッカケとなるわけですが、当時は「剣とサンダルの映画はもう死んでいる」とほとんどの製作会社が否定的だった時代。ただ我々は、歴史ものでも「剣闘」を大きな見せ場として活用しながら、今の政治、現代人の心情にも通じる作品は必ず作ることができるという信念を持ってドリームワークスを口説き落としました。脚本作りは難航しましたが、最終的に素晴らしい作品が出来上がりました。
――逆に新鮮に感じましたね。スペクタクルシーン満載の歴史劇を映画館で観ると、こんなに迫力があって面白いのかと。まさに作品の力。タイミングとは、時代に合わせるのではなく、自ら作り出していくもの、剣とサンダルは死んではいなかった。
ダグラス:リドリー監督の参加、ラッセルとホアキン・フェニックスのカリスマ性、そして見事な脚本…映画の神々が私たちに舞い降りたような、そんな奇跡のような作品になりましたね。こんなに全てがうまくいった映画は滅多にありません。
――それにしても、続編製作に24年は長かったですね。
ダグラス:映画の大成功によって続編を作ろうという話はすぐに持ち上がったのですが、逆に我々は、お金儲けのために安易に何かを作るということに抵抗を感じてしまったんです。それくらいこの成功は崇高なもの。前作に心から敬意を表しながら、続編の準備をする…これはとても大切なことでした。
なかでも一番時間を要したのは脚本ですね。単なる続編ではなく1本の映画として独立した作品にするために、長い長い年月をかけて何度も何度も脚本を推敲し、そしてようやくたどり着いたのが、前作で手放した皇帝の娘ルッシラの子ルシアスが、実はマキシマスとの間にできた息子で、現在は異国の地ヌメディア国で平和に暮らしているという設定です。
前作を観ていただきますと、マキシマスはローマ帝国の将軍として自由軍と戦っているところから始まりますが、今作では将軍アカシウス(ペドロ・パスカル)率いるローマ帝国軍がヌメディア国に攻め上がり、ルシアスは妻を殺され、奴隷になるところから始まる。つまり、反対側の視点から描くという構成が固まって、ようやく映画製作が動き出したのです。
――数十年後のルシアスの現実の姿であると同時に、マキシマスの前日譚にも見えてくる…その両方を感じとれる絶妙な脚本だなと思いました。そこに、これまでの物語に縁もゆかりもない奴隷商人マクリヌスが入り込み、掻き回すところが実に秀逸で、おっしゃるように続編を超えた1本の映画として独立していました。
ダグラス:この作品をとても好意的に受け取っていただきありがとうございます。私の妻ルーシーは本作から製作に関わっていますが、キャスティングのことをぜひ彼女に聞いていただければと思います。
●繊細さと肉体の強さを兼ね備えたポールに一目惚れ
――主人公ルシアスに、まだまだ知名度の低いポールを起用した理由はなんですか?どちらかというと繊細な演技が得意なインディーズ映画の俳優というイメージだったので、正直、驚きました。
ルーシー:確かに大きな賭けではあったけれど、ラッセルだって当時は、マイケル・マン監督の『インサイダー』で注目を浴び始めていた新鋭俳優で大スターではなかった。彼は『グラディエーター』とともに大きくなり、名優と呼ばれるようになっていったので、前例はあるわけです。ポールに関しては、「ふつうの人々」(2020)というテレビドラマ・シリーズを観たとき、圧倒されたんですね。まだ脚本が半分も出来上がってない時点でボールと朝食を取りながら話をさせていただいたんですが、もう心の中で「この人かもしれない」という思いがますます強くなりました。
ただ、一番の不安材料はアクション。急に「体を鍛えることは好きですか?」とか「運動神経はいい方ですか?」と聞くのも失礼なので、ちょっと控えめに、「 高校時代、何かスポーツやっていましたか?」と尋ねたんです。すると彼は、「アイリッシュラグビーをやっていた」と答えたんです。想像以上に激しくタフな競技だったことから逆に驚きました。繊細で悩める役柄が多い彼がアイリッシュラグビーとは…。繊細さと肉体の強さの両面を兼ね備えたポールこそルシアスにふさわしいと心は決まりました。
舞台『欲望という名の電車』(2022)でスタンリー役を演じ、ローレンス・オリヴィエ賞男優賞に輝く前だったので、リドリー監督をはじめスタッフもその実力とポテンシャルは認めつつも半信半疑だったと思いますが、撮影初日、1分過ぎたらみんな納得の表情を浮かべていたので、私たちの目に間違いなかったなと確信しました。
――物語を動かす冷酷非情な奴隷商人マクリヌスにデンゼルを起用したことによって、本作がより引き締まったような気がしました。
ルーシー:今回、政治に介入するため、あの手この手を使って成り上がっていくキャラクターがほしくていろいろ考えていくなかで、奴隷商人マクリヌスが浮かび上がってきたのですが、このキャラクターをどんな俳優が演じてくれたらワクワクするだろうか…と考えたときに、悪役に徹した『トレーニング デイ』のデンゼル・ワシントンの顔が真っ先に浮かびました。私自身、彼と一緒に仕事をした経験もありましたし、リドリー監督とも『アメリカン・ギャングスター』でタッグを組んでいるので、これはもうデンゼル一択でいいだろうと。
ダニエル:そういえば、私とルーシーと二人で彼の家を訪ね、マクリヌスのあの素敵な衣装をお見せして、着用していただいたら、ものすごく喜んでくださったので、「これはもうデンゼルで決まりだ!」という手応えを感じました(のちのインタビューでデンゼルは、その訪問の前にリドリー監督と直に話して出演することを決めていたとのこと)。実際、彼が演じたマクリヌスが本作により一層の深みを与えてくださったので、自画自賛ではありませんが、これも私たちの目に間違いはなかった(笑)。この二人の掛け合いをぜひスクリーンで楽しんでいただければと思います。
(取材・文・写真:坂田正樹)
<Staff & Cast> 監督:リドリー・スコット/脚本:デヴィッド・スカルパ/キャラクター創造:デヴィッド・フランゾーニ/ストーリー:ピーター・クレイグ、デヴィッド・スカルパ/出演: ポール・メスカル:、ペドロ・パスカル、 コニー・ニールセン、デンゼル・ワシントン、 ジョセフ・クイン、 フレッド・ヘッキンジャー、リオル・ラズ、デレク・ジャコビ/配給:東和ピクチャーズ 公式サイト:https://gladiator2.jp/
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