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OCT 08, 2023 インタビュー

朝ドラ『らんまん』でキーマンを熱演した森岡龍、探偵映画で初プロデュースに挑戦!「日本各地を巡るシリーズにしたい」

2023年、NHK連続テレビ小説『らんまん』で主人公夫婦をサポートする鉄道庁の役人・相島圭一を熱演し、好評を博した俳優の森岡龍。是枝裕和監督作『怪物』では主人公の悩める少年の元担任教師役を真摯に演じ、役者としてのキャリアを着実に積み重ねているが、その一方で、映画制作にも野心を見せる森岡は、『北風だったり、太陽だったり』『プレイヤーズ・トーク』(22)で監督・脚本にも挑戦し、10月7日(土)公開のLONESOME VACATIONでは初プロデュースを務めた。

本作で映画初プロデュースに挑戦した森岡龍 ©backyard.com

本作は、ロックンローラー風のリーゼント探偵が、元カノの依頼を受けて、調査と銘打ったプチバカンスを計画し、海へと車を走らせるオフビートなラブミステリー。「雑味のない映画ばかりで物足りなさを感じていた」という森岡が、『東京の恋人』(20)でタッグを組んだ下社(しもやしろ)敦郎監督と再結集し、新たに作り上げたゆるっとした会心作だ。「今まで観たこともない探偵映画にしたかった」という森岡に、本作の制作秘話とともに、活動の場をどんどん広げる自身のスタンスについて話を聞いた。

<あらすじ> 東京・高円寺。リーゼントで決めたちょっぴり時代遅れの私立探偵・古谷栄一(藤江琢磨)。彼のもとに、ある日突然、元カノの今日子(水上京香)が急逝した父親が遺した古いフィルムを持って現れる。若かりし父親の隣で幸せそうに微笑む謎の女性を探したいというのだ。フィルムの残像を手がかりに、三浦・城ヶ島を訪れた二人の、奇妙で短い調査(バカンス)が幕を開ける。

●映画の世界全体を知るために俳優からスタートした

――昨今、『らんまん』『怪物』など話題作に次々と出演し、俳優としても充実されている森岡さんですが、自身のプロダクションを立ち上げ、いわゆる「裏方」のお仕事にも積極的に参加されているところにかねてから注目していました。もともと制作側の志向が強かったのですか?

森岡:もともと映画作り全般に興味があり、以前、所属していたプロダクションが映画制作もやっていたので、15歳の時にそこに手紙を送って自分の思いを伝えたら、ひとまず業界全体を知るためには、役者としてプロの現場を見るのが一番手っ取り早いんじゃないか、ということで、まず、俳優としてのキャリアがスタートしました。ただ、僕の中で役者という存在も、どこか謎めいていて、手の届かない人たちとして、ずっと憧れの気持ちを抱いてきたので、遠くに感じていまいした。そういう人たちと何度も仕事をしているうちに、演じることへの興味も俄然湧いてきて、今日に至っています。おかげさまで、現場で著名な役者さんと対峙しても、同業者の目線で話すことができるようになってきたので、頭が真っ白になったり、パニックになったりすることもなく、最近はようやく落ち着いて接することができるようになりましたね。

残暑厳しい9月に取材・撮影 ©backyard.com

――役者として約20年も現場を経験してきたわけですから、少々のことでは動じませんよね。2017年に「マイターン・エンターテイメント」という名で個人事務所を設立されましたが、これはいよいよ映画制作(または製作)の機が熟した、ということだったんですか?

森岡:制作会社を立ち上げたというよりも、役者としての個人事務所を作った、というイメージですね。もちろん制作も、「いつかできたら」という思いはありましたが、若手俳優が何人かここに集まってきて、今はどちらかというとプロダクション業務みたいなことを中心にやっているんです。所属する俳優部の人に仕事を与えたり、チャンスを与えたりしなきゃいけない立場でもあるので。今回、主演を務めた藤江もうちのメンバーの一人ですが、そうこうしているうちに映画を制作する体制が出来てきた、というのがリアルな流れですね。夢中で走り続けて、気づいたらこんなところに辿り着いていた、という感じでしょうか。

――なんと、若手の育成・マネージメントまでやっていたとは…。

森岡:いや、正直大変です。ちょっと手を広げすぎたかなって、今はちょっとだけ後悔してます(笑)

●映画製作のきっかけはコロナ禍に感じた恐怖感

――そんな中で、俳優、プロダクション代表、監督、脚本家に続き、今度はプロデューサーに初挑戦されたわけですが、『東京の恋人』で俳優としてタッグを組まれた下社さんに監督をお願いした経緯を教えていただけますか?

森岡:コロナ禍がピークの頃、映画やドラマの現場から遠ざかっていたので、これはもう自分たちの力で映画を企画・製作し、発信していかないと精神的にも苦しくなると思ったんですね。恐怖感に近かったと思います。とにかく「早く動かなきゃ!」ということで、僕は舵取り役として完全に裏方に回り、監督を誰かに託そうと思って、『東京の恋人』でご一緒した下社くんに声をかけたんです。あの映画は、自分の中でも思い出深い作品として残っていて、下社くん独特の言葉の世界観が好きだったので、このあと、彼はどうなっていくのかなと注目していたんですが、『kidofuji』という10分間の短編映画を撮っていて、それも凄く面白くて。風の便りで、「下社くん、いろんな脚本を書き溜めているらしいよ」ということも聞いていたので、すぐに声をかけました。

――下社監督の反応はいかがでしたか?

森岡:メールを送ってから10分後ぐらいにいきなり脚本が送られてきたんですよ。このテンポ感で返ってくると、「何かが動き出すな」という気持ちがますます高まって、早速、脚本読ませていただいたら、凄く面白かったんです。

――それが、『LONESOME VACATION』だったと…?

森岡:…ではないんです(笑)。本作とは全く違うラブファンタジーだったんですが、内容的に予算もある程度かかり、現実的に超えなきゃいけないハードルが高かったので、ちょっと別案で一緒に考えようっていうことで、新たに脚本を開発することになったんです。

――最初から探偵映画を作りたいという思いが森岡さんの中にあったのでは?

森岡:正直、ありましたね。以前、いまおかしんじ監督の『ろんぐ・ぐっどばい 探偵 古井栗之助』(17)という作品で主演をやらせていただいたんですが、僕自身、凄く気に入っている作品で、できればシリーズ化したかったんですが、それが叶わなくて。下社くんが音楽を担当していたというご縁もあって、今まで観たことのない探偵ものでシリーズ化できそうな作品を作ろう、ということになったんです。

――なるほど、シリーズ化を考えての企画だったんですね。

森岡:そうなんです。探偵映画のシリーズ化は僕の憧れでもあったんですが、形式的にも、その枠組の中で多種多彩な調査依頼がどんどん舞い込んでくるだけで物語が更新されるので、作り手たちも参加しやすくて、クリエーションしやすい環境ができるんじゃないかと。そういう“箱庭”のようなものが出来上がれば、例えばコロナ禍みたいなパンデミックが起きても、探偵のキャラクターを軸に映画作りを継続できるんじゃないか、という狙いもあったんです。

――元カノからの調査依頼がプチバカンスのようなテイストになっていくフワッとした感覚が新しくもあり、ノスタルジックでもありました。特に主演の私立探偵・古谷栄一を演じた藤江琢磨さんのキャラクターが効いていましたね。

森岡:もともと藤江ありきで何か1本作りたいなっていう思いがあったので、アテ書きといえばアテ書きですね。いまどき珍しいリーゼントヘアで、ちょっと頼りないけれど、愛されキャラとしていい味出していたと思います。

――何か懐かしい感じがしました。ちょっとクラシックなキャラクターが逆に新鮮というか。

森岡:昔は役者さんがフィクションの世界で別人格のキャラクターを演じていく映画が多かったと思うんですが、最近の邦画は、予算がなくなってきているせいか、日常を舞台にしたリアルな現代劇が多いので、ちょっと物足りないなと思っていたんです。それこそ、突飛なヘアスタイルをしていたり、風変りな衣装を身に纏っていたり、突然変な動きをしてみたり…昔は、破天荒でぶっ飛んだキャラクターが映画の世界にたくさんいて、どこか遠い世界に連れてってくれるものだと思っていましたし、今まで観てきたものへの憧れもありますしね。

――このモノトーンのポスター、インパクトありますよね。藤江さん演じる探偵・古谷のヴィジュアルを観ただけで惹かれるものがありました。何か参考にしたキャラクターがあるんですか?

森岡:それこそ『ロング・グッドバイ』(73)とか、『私立探偵 濱マイク』(93~96/映画版)とか、『探偵物語』(83)もそうですね。下社くんなんかは、『インヒアレント・ヴァイス』(14)を意識していたようですが、とにかくいろんなキャラクターをミックスさせながら、かつ、これまでになかった探偵映画を作るために、エリック・ロメール監督のようなバカンス映画の要素を採り入れたらどうかとか、その辺りはいろいろ話し合いましたね。

●思い出のロケ地・城ヶ島との不思議な縁

――探偵の古谷は、調査を進めるために元カノを乗せて愛車のベンツを走らせますが、行先が三浦の城ヶ島だったり、三崎漁港だったり、絶妙な場所なんですよね。観光地っぽさがあるので、プチバカンス気分を味わえるんですが、神奈川県なので実は都心から凄く近い。

森岡:これは、下社くんが第1稿を書き上げた時に、訪れる場所は城ヶ島と書いてあったんです。もちろん予算的なこともあったので、近場でバカンスの匂いがするところを現実的に選んだのかなと思いますが、僕は城ヶ島と聞いて奇妙なご縁を感じたんですね。というのも、今回スタッフで入っている数人は学生時代からの仲間なんですが、実は20歳くらいの時に彼らと一緒にここで撮影をしたことがあって、思い出の地だったんです。下社くんはたぶん知らないはずなので、「また城ヶ島に呼ばれてる」という感じがして、凄く懐かしかったですね。

――風変りなリーゼント探偵・古谷が、元カノ・今日子の父親の愛の遍歴をプチバカンス気分でゆる~く調査の旅に出る本作。プロデューサーの視点からどんな作品になったと思いますか?

森岡:正直、作りながら、どういう映画になるかわからない部分もあったんですが、結果的には、いい意味で体良くまとまっていないというか、ちゃんと冒険しながら作ることができたかなと思います。近年、現実的な問題と向き合う映画が多く、自由で、不確かで、ある種まとまりのない“雑味”を含んだ映画がどんどん減ってきているので、映画だからこそ味わえる風変わりな世界をぜひ劇場で触れていただければ嬉しいですね。

――あとはシリーズ化、これは観客の反響次第ですね。

森岡:そうなんですよね。できるだけたくさんのお客さんに観に来ていただいて、ぜひ、シリーズ化を実現したいと本気で思っています。今回は城ケ島でしたが、いろんな調査依頼が来て、リーゼント探偵・古谷栄一が全国津々浦々周るようなそんなシリーズができると楽しいですね。

映画の初プロデュースを終えて、スタッフ、キャストが事故なく怪我なく撮影を全うできたことにホッとしているという森岡。コンプライアンスの対応からお弁当の手配まで…これまで任せきりだった裏方業に触れることで、人間として、そして映画人として、さらに成長したことを、今、ジワジワと実感しているのではないだろうか。森岡がこれからどのポジションで、どんな映画を生み出していくのか、いよいよ目が離せなくなってきた。(取材・文・写真:坂田正樹)

森岡龍(もりおか・りゅう)プロフィール:1988年東京都出身。2004年、映画『茶の味』(石井克人監督)で俳優デビュー。俳優として様々な作品に参加する傍ら、自主映画の制作を開始。多摩美術大学在学中に監督した『つつましき生活』、『硬い恋人』がぴあフィルムフェスティバルに入選、『ニュータウンの青春』は同映画祭にてエンターテイメント(ホリプロ)賞を受賞し、釜山国際映画祭(アジアの窓部門)などの海外映画祭に出品されたのち、劇場公開を果たした。また、明後日プロデュースの舞台『業者を待ちながら』では初めて舞台の作・演出を手がけ、『スポットライト』シリーズの一編『ストックフォト』では、テレビドラマの脚本・監督も手がけた。監督最新作に『北風だったり、太陽だったり』『プレイヤーズ・トーク』がある。

<Staff&cast> 出演:藤江琢磨、水上京香、さかたりさ、櫻井音乃、宮部純子、飯田芳、高木健、都志見久美子、松㟢翔平、森岡龍、諏訪太朗、斉藤陽一郎/監督:下社敦郎/プロデューサー:森岡龍/アソシエイト・プロデューサー:市川夕太郎/ラインプロデューサー・録音・編集:磯龍/脚本:下社敦郎・中野太/撮影:古屋幸一/照明:市川高穂/美術・スチール:上山まい/スタイリスト:矢野瞳子/ヘアメイク:征矢杏子/助監督:松㟢翔平/制作:佐久間作蔵/撮影助手:竹下亘輝/照明助手:小野塚竜矢/照明応援:白石久時/制作助手:寺村海晴/車両応援:高木健、酒川流星/8ミリパート撮影:金碩柱/ダンス振付:MIKI the FLOPPY/英語字幕:西川舜/整音・音響効果:丹雄二、丹愛/グレーディング:山田裕太(レスパスビジョン)/現像:IMAGICA/音楽:下社敦郎、中村太紀/主題歌:すばらしか/企画・製作:マイターン・エンターテイメント/制作:マイターン・エンターテイメント/SONHOUSE/配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト/配給協力:ミカタ・エンタテインメント /2023/日本/カラー/68分/DCP/ヨーロピアンビスタ/ステレオ 

©️「LONESOME VACATION」製作委員会

映画『LONESOME VACATION』は10月7日(土)より新宿 K’s cinema ほか全国順次公開

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