第 95 回アカデミー賞 ®作品ほか7 部⾨を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(23)や主演男優賞・メイク・ヘアスタイリング賞 を受賞した『ザ・ホエール』をはじめ、『ムーンライト(16)、『ルーム』(15)、『ミッドサマー』(19)など、常にセンセーショナルな作品を世に送り出している映画スタジオ 「A24 (エートゥエンティーフォー)」。最新作『Pearl パール』(7/7公開)は、『X エックス』(22)の前⽇譚 として製作され、その完結編として現在製作中の『MaXXXine(原題)』と併せ A24 初の3部作として世界の注目を集めている。
監督・脚本は『X エックス』に続きタイ・ウェストが担当。『X エックス』で主⼈公のマキシーンと、最⾼齢のシリアルキラー・パールの2役を演じたミア・ゴスが今回も主演を務め、若かりし頃のパールを怪演している(脚本とエグゼクティブ・プロデューサーとしても参加)。
<Focus Points> 前作『X エックス』は、『悪魔のいけにえ』のような 1970 年代の低予算ホラー映画の独特な美学と質感に敬意を表して製作されたが、ウェスト監督と⻑年組んできた撮影監督のエリオット・ロケットは、『Pearl パール』は別のスタイルを選んだと明かす。それは、古典的なミュージカル作品のようでもあり、ジョージ・キューカー監督やダグラス・サーク監督、マックス・オフュルス監督作のような⼥性が主導するメロドラマ⾵の作品でもあり、田舎町の風景や赤いドレスが映える美しいテクニカラーを使って撮影された。ウェスト監督いわく、「僕は視覚的な芸術を再認識させてくれるような映画を観るのが好きだ。つまり、現実ではなく“映画を観ているんだ”という感覚がいい。『X エックス』は映画へのラブレターだったが、『Pearl パール』も同じ。ただ視点と雰囲気が異なるタイプの映画ってだけなんだ」。
また、視覚的にも⾊合い的にも、ウェスト監督は、映画のジャンルとは対照的なストーリーを語りたかったという。つまり困難な時代を⽣き抜く若い⼥性の成⻑物語だ。「僕は当初、頭の中にこんなイメージを浮かべていた。イングマール・ベルイマン監督の映画から出てきたような厳格なドイツ⼈の⺟親が薪を割るというイメージだ。ところが、物語が進むにつれて、パールの状況がどんどん厳しくなる世界を、今度はディズニー⾵にしたら⾯⽩いかもと思い始めた。観客に⼦供⽤の映画を観ているみたいに感じてほしかったんだ。『オズの魔法使』のような映画にとても似てるけど、思っていたことと全く違う⽅向に進んでいくような…そんな映画にしたかった」とウェスト監督は語る。
さらに、⼀度も道を踏み外さない清廉潔⽩な主⼈公が登場するディズニーの実写映画も参考にしたというウェスト監督。「そういった物語には、清らかさと驚きがある。楽観的で不可能なんかないという要素が『メリー・ポピンズ』では魔法になった。そういう映画ではひどいことは絶対に起こらない。だから『Pearl パール』では、今までに⾒たことない何かをやるチャンスだった。つまりディズニー的な美学をもっとダークで現実的な物語にする。典型的なディズニーのキャラクターたちに、もっとリアルで、むしろ⾮現実的な課題を与えたかったんだ」
とりわけ、『オズの魔法使』へのオマージュに満ちた本作は、古典映画のビジュアルやスタイル、プロット、テーマなどを反映した様々なイースターエッグ(=オマケ要素)が⾒つかるだろう。だが、映画の芯の部分には、『悪魔のいけにえ』が混入し、パールの不安定な⼼理状態と⼆⾯性が含まれている。ミア・ゴスいわく、「ウェスト監督の視覚に訴える映像は、パールの内⾯の⾵景を如実に物語っている。パールの不安と⼆⾯性は、この映画に密接に関連している」と。パールの引きつった笑顔のロングショットが全てを総括してくれているように思ったが、ピュアな少女のネジがぶっ飛ぶ瞬間、そのギャップが怖すぎて、震えが止まらなかった。
<Story> 夢見る少女はいかにして無慈悲かつ凶暴なシリアルキラーへと変貌していくのか? ダンサーを志ざし、スターの華やかな世界に憧れるパール(ミア・ゴス)。人里離れた農場で、厳格な母と体が不自由な父に育てられた彼女の愛への渇望が、スターへの夢を育み、両親からの異常な愛が、その夢を腐らせていく……。
<Staff&Cast> 監督:タイ・ウェスト/脚本:タイ・ウェスト、ミア・ゴス/出演:ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プー/配給:ハピネットファントム・スタジオ |原題:PEARL|2022 年|アメリカ映画|上映時間:102 分|原題:PEARL|2022 年|アメリカ映画|上映時間:102 分|