ドラマ『君の花になる』(TBS系)、『ガチ恋粘着獣』(テレビ朝日系)などで今最も注目される若手俳優・山下幸輝が長編映画初主演を務める『TOKYO,I LOVE YOU』が11 月 10 日(金)より劇場公開される。恋人、親子、そして親友… 3 つの「愛」をテーマにオムニバス形式で描く本作、メガホンをとるのは、 サンフランシスコ州立大学で映画の基礎を学び、ハリウッド作品で国際映画賞受賞・ノミネートの経験を持つ中島央監督だ。「今こそ希望を指し示す映画を」と語る中島監督に、本作に込めた思いを聞いた。
●自分史上「ベスト3」の物語が揃った
――本作を鑑賞させていただき、ジョン・カーニー監督のドラマシリーズ『モダン・ラブ』に通じるものがあり、溢れる人間愛にとても幸せな気持ちになりました。
中島監督:本当ですか?私もジョン・カーニー監督の作品が大好きなので、それ、最高の褒め言葉です!今日はいいお酒が飲めそうです(笑)
――中島監督は脚本も手掛けていらっしゃいますが、愛がいっぱい詰まった3つの物語、どのような思いを込めて書かれたのでしょう。
中島監督:私は東京生まれなので、故郷として東京に対する思いが凄く強いんですが、『パリ、ジュテーム』や『ニューヨーク、アイ・ラブ・ユー』など、都市を舞台にして愛を語る映画を観た時、「羨ましいなぁ」と素直に思ったんです。それがきっかけですかね。いつか「東京、愛してる!」っていう映画を作りたいという気持ちが高まって、2010年くらいからノートにアイデアを書き溜めていましたが、それがようやくカタチになりました。現時点で自分が書いた物語のベスト3が揃ったという感じです。
――各話ごとにお話をお伺いしたいのですが、愛に溢れた物語の展開力はもとより、アイデアの面白さ、ユニークさが映画のスパイスになっていますね。
中島監督:第1章『東京タワー』は、ネタバレになってしまうのであまり詳細は言えませんが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』からヒントをもらって一気に書き上げた作品です。これがファンタジー色の強いユニークな作品になったので、逆に第2話『新宿界隈』では、父と娘の親子愛を真正面から描いた180度テイストの異なる物語を描きました。
――東京の片隅で育まれた深い親子愛…第2章は、名作『ニュー・シネマ・パラダイス』を彷彿させるような演出もありましたね。
中島監督:ありがとうございます。おっしゃる通り、第2章『新宿界隈』は、『ニュー・シネマ・パラダイス』にオマージュを捧げた作品でもあり、観客の皆さんに「ここ気づいてー!」という思いで演出しているので、そこも含めて楽しんでもらえたら嬉しいです。
――最終章の『お台場』は、どちらかというと、山下幸輝さん演じる主人公リヒトに中島監督ご自身の青春時代、あるいは生き様が投影されているようにも感じましたがいかがでしょう。
中島監督:自然にそうなってしまった感じですね。映画を作る時、自分をなるべく投影しないで客観的な視点に徹しようと思うんですが、リヒトは主人公でありながら、この映画全体を引っ張っていく“狂言回し”の役割も担っているんです。だから、彼の視点から東京に対する思いをたくさん発信しなければならないので、設定をあえて海外から帰ってきたダンサーにしたんですね。
なぜなら、ずっと東京に住んでいる人が、ことあるごとに「東京大好き!」とか言っていたら気持ち悪いなと思ったんです。長い間、東京を離れていたからこそ、彼の東京愛を友人のみんなが自然と聞いてくれる…。私もアメリカから日本に帰ってくる度に成田エクスプレスの車窓越しに見る、東京駅周辺や新宿辺りの景色を見る度にグッとこみ上げるものがあるので、「この景色を見ると、なぜか心が落ち着く」というリヒトのナレーションは、確かに私自身の気持ちでもありますね。
――第1章のアニメーションを絡めた時空映像や、第2章のLEDスクリーンを使った愛情表現、第3章では山下さん演じるリヒトが大金を前に葛藤するシーンなど、中島監督独特の演出が目を引きました。脚本づくりにおいて、そのアイデアはどこから湧いてくるのでしょう。
中島監督:やはり、観客の視点で「これは面白い!」と思ってもらえるようなシーンがいいですよね。私の場合、人生の大半を映画鑑賞に使っているので、そこからいろんなヒントをもらって、自分なりのアイデアを絞り出しています。それこそアジア、ヨーロッパ、アメリカなど世界中の映画を観まくっていますから、アイデアのストックだけはいっぱいあるんですよ。
――シンプルなんですが、心に残るちょっとしたフックがあるんですよね。
中島監督:シンプルだけれど、ひねりがある…実はこれが一番難しいんですよね。あと、海外生活を経験して学んだことですが、 “内輪ノリ”にならないようには気をつけました。日本人って、鎖国の時代が長かったせいなのか(?)、自分たちにしかわからないことで盛り上がってしまうところがありますが、この物語に関しては、どこの国の方もこの映画を見て、泣いたり、笑ったり、感動したり…とにかく世界中の誰もが共感できる作品にしたかったんですよね。
●山下幸輝の「力強い表現力」に手応え
――主人公を演じた山下幸輝さんは、TBS系ドラマ『君の花になる』(2022)、テレビ朝日系ドラマ『ガチ恋粘着獣』(2023)などで今最も注目される若手俳優の一人。ダンサーとしての顔を持つ彼に白羽の矢を立てた経緯を教えてください。
中島監督:主人公のリヒトに関しては、『走れメロス』のメロスのような青年をイメージして脚本を書いたんですが、山下さんに演じていただいて本当によかったなと思っています。スターとしての華もありますしね。友達のためにあそこまで熱くなれるキャラクターを日本人で描くと、説得力がなかなか出ないんですが、リハーサルで彼を見た時、その力強い表現力に、「この役を演じられるのは山下さんしかいない」と心から思いました。紙と文字の中でしか存在しなかったリヒトが、山下さんを通してリアルな人間になっていく過程は、脚本を書いている人間にとって最高の喜びでした。
――クライマックスのダンスシーンも圧巻でした。
中島監督:ダンサーとしてのスキルの高さも山下さんを選んだ大きな理由だったのですが、本当に素晴らしかったですね。最初にジョン・カーニー監督のお話がありましたが、私も彼の作品が大好きなので、『シング・ストリート 未来へのうた』のようなライブシーンをどうしても撮りたかった。また、マニアックな部分では、ユージンたちがストリートライブをするシーンで、彼らが歌う曲が流れている時に字幕が出るんですが、字幕業者の方にお願いして『シング~』と同じようなテロップにしていただきました。わかる方にはわかると思うんですが、いろんな意味で最終章は、私にとって特にこだわりの強いパートになりました。
●今必要なのは照れずに「愛」を描くこと
――最後に、この作品の意義についてお聞きしたいのですが、近年邦画は、どちらかというと厳しい現実と“向き合う”ような重く辛い作品が非常に多くて…。だからこそ、本作のように「愛」を語る映画を公開する価値があるのかなと思ったのですが、中島監督ご自身はいかがでしょう。
中島監督:やはりコロナ禍の影響が大きかったと思います。精神的にも肉体的にもストレスが半端なかったし、期間もちょっと長かった。でも、もうさすがにいいでしょうと。そろそろコロナ後の世界を見据えた物語じゃないと辛いですよね。ここから明るく希望に向かって行こう!っていう前向きな気持ちを、積極的に指し示す物語が今こそ必要だなと思います。中途半端にやるんじゃなくて、正面切って、照れずに真顔で「愛」を語る…「これからは絶対にうまくいく」という力強いステートメントこそが、私の肌感覚ではありますが、そういう作品こそ今必要とされている気がしますね。(取材・文・写真:坂田正樹)
【Story】
<第1章:東京タワー> ケン(草野航大)は典型的なダメ人間。バイト生活を送りながら、日夜、VRの世界にどっぷり浸かっている。そんなケンの元へ幼馴染の女・ミミ(加藤ナナ)が訪れる。ミミはケンにVRを止めるように言い、現実としっかり向き合うように諭す。一方、VRの世界に入ったケンは、絶世の美女・アイとデートする。二人はバーチャル東京タワーの展望台で語り合い、ケンはアイこそが運命の人だと確信していくが…。
<第2章:新宿界隈> ジョージ(オギー・ジョーンズ)は昔ながらの職人気質の料理人であり、キッチンカーのシェフとしてもう40年のキャリアを誇っている。ジョージは妻と死別しており、一人娘・カレン(小山璃奈)と子供の頃から父娘二人で仲睦まじく暮らしていた。そんなある日、映画監督を目指すカレンは学生映画を撮るため、高級なビデオカメラを買ってくれと父にせがむ。ジョージにそんなお金の余裕などないが、心が疎遠になってしまった愛娘を喜ばせるために、何としてでもビデオカメラをプレゼントしようと心に強く誓うのだが…。
<最終章:お台場> 日本に帰国したばかりのダンサー・リヒト(山下幸輝)が、余命3ヶ月と診断された脳腫瘍に苦しむ親友・シモン(松村龍之介)を救うために、幼馴染の親友たちハル(羽谷勝太)、ノア(坂井翔)、ユージン(下前祐貴)、レイ(島津見)、ダン(西村成忠)と力を合わせ、高額な手術費を工面しようとする。そして、リヒトと5人の親友たちが力を合わせ、シモンの命を救うための手術費を何とか稼ぎ出せる!と、いうその決定的な瞬間に、リヒトたちの運命の歯車を狂わせる出来事が起こってしまう…。
【Staff & Cast】
出演:山下幸輝/草野航大/小山璃奈/松村 龍之介/羽谷 勝太/坂井 翔/下前 祐貴/島津 見/西村 成忠/オギー・ジョーンズ/加藤 ナナ/奏みみ/長谷川美月/テリー伊藤/田中美里/ 監督・脚本:中島央/エグゼクティブプロデューサー:齋藤 隆、中山 由衣、山本 泰宏/プロデューサー:中山友翔、中島央 /制作:株式会社ウィスコム/配給:ナカチカピクチャーズ/ 製作:「TOKYO,I LOVE YOU」製作委員会/特別協力: 協力:港区/公式サイト:https://tokyo-iloveyou.com/
ⓒTOKYO,I LOVE YOU FILM PARTNERS