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JAN 30, 2023 インタビュー

ホラー漫画界の鬼才・伊藤潤二、Netflixシリーズ「 伊藤潤二『マニアック』」のアニメ映像に手応え!「期待以上の仕上がり」

大好評を博した「伊藤潤二『コレクション』」(TOKYO MXほかにて放送)から5年。日本のホラー漫画界を牽引する鬼才・伊藤潤二が独創的な発想と圧倒的な画力で描いてきた恐怖作品の中から、選りすぐりの20タイトルを新たにアニメ化した「伊藤潤二『マニアック』」Netflixにて1月19日よりついに世界独占配信された。これを記念して、原作者である伊藤本人に、本作への熱い思いとともに、アニメ制作におけるクリエーターとのコラボレーションについて話を聞いた。

ホラー漫画界の鬼才・伊藤潤二

『首吊り気球』の効果音に驚き!

――今回の20作品はどのようにセレクトされたのですか?伊藤さんのご意見も反映されているのでしょうか。

伊藤:以前の「伊藤潤二『コレクション』」の企画を立ち上げた田頭しのぶ監督が再び演出をしてくださるということだったので、彼女に全ておまかせしました。ただ、『首吊り気球』だけは私の方から「ぜひ入れてほしい」とお願いしました。

『首吊り気球』より ©ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会

――それはなぜですか?何か特別な思い入れがあったのでしょうか。

伊藤:私が特に気に入っている作品なので、ぜひアニメ化してほしいと思っていたんです。 気球がどのように動くのか観てみたかったし、ホラーではありますが一種のスペクタクルものでもあるので、 そのあたりもどうアニメ化するのか興味ありました。

――確かに『首吊り気球』は見応えがありそうですね。それにしても、全話眺めてみると、キャラクターが際立つ作品が多い印象でした。

伊藤:そうですね、#01が『怪奇ひきずり兄弟 降霊会』で、あの作品もわりとキャラクター優先のところがあるし、双一も今回2話(#04:『四重壁の部屋』#12『双一の愛玩動物』)、富江も1話(#9:『富江・写真』)入ってますし、その傾向は確かにあると思います。

――そういえば、どこかのインタビューで、「狂気がコンセプトです」みたいなことをおっしゃっていましたね。

伊藤:まぁ、わたしの漫画はほとんど狂ってますからね(笑)

――完成作品をご覧になった感想を教えてください。

伊藤:「伊藤潤二『コレクション』」で出尽くしたと思っていたんですが、田頭監督がアニメ化にふさわしい作品を発掘してくださり、時には忠実に、時には独自の解釈を投入し、新たな命を吹き込んでくれました。どの作品もクオリティーが高く、期待以上の仕上がりになっています。声優さんたちも生き生きと演じてらして、音楽も音響も素晴らしく、作画も丁寧に描いていただいたので、身に余る光栄です。

『四重壁の部屋』より ©ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会

――新たな発見とかはありましたか?

伊藤:面白いなと思ったのは、『首吊り気球』ですね。漫画と違って効果音が入るんですが、浮き輪が擦れ合う時のようなキュッキュッっていう音が気球から聞こえるんですよね。これはちょっと想像してなかったので驚きました。いかにも気球がそこにあるっていう説得力を感じさせる演出でしたね。

――ホラー作品なだけに音響は気になりますよね。声優さんはいかがでしたか?

伊藤:双一というキャラクターを大ベテランの三ツ矢雄二さんに演じていただいたんですが、子供の頃から親しみのある声優さんだったので嬉しかったですね。三ツ矢さんのコミカルな演技がまた見事で、大笑いしながら観させていただきました。「双一」シリーズはギャグ漫画なんですが、三ツ矢さんのおかげでその要素がいっそう強まっていて、とにかく面白かったです。

――中川翔子さんはいかがでしたか?#12の『耳擦りする女』で主人公・山東まゆみという難しい役でしたが。

伊藤:行動するときに、人の指示がないと何もできないというおかしなキャラクターなんですが、見事に演じていただいてました。アフレコのあとにリモートで対談させていただいたんですが、演じる前は、不安しかなかったそうですが、まゆみというキャラクターの心情がわかるというか、共感できる部分があったので、よりいっそう気持ちが入ったともおっしゃっていました。その思いが作品に表れていると思います。

『耳擦りする女』より ©ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会

田頭監督には全幅の「信頼」しかない

――私たちのサイトでは、プロの「舞台裏」をテーマに取材させていただいているんですが、今回、原作者である伊藤さんと田頭監督をはじめとするクリエーターさんたちは、どのようなプロセスを踏んでアニメ化を進めていくのか教えていただけますか?

伊藤:まず、「伊藤潤二『マニアック』」というタイトルとアニメ化する作品が提案され、それが決まったら、次は脚本の制作ですね。『コレクション』に続き、澤田薫さんに書いていただきました。アニメ化に伴う多少の変更点や修正はありましたが、ほぼ原作に忠実な脚本に仕上がったと思います。

――なるほど、原作のセリフも多少アレンジが加えられているんですね。

伊藤:アニメになると尺などもありますからね。脚本が概ねOKになると、作画の設定に移ります。今回は、田頭監督自らが絵コンテを描いてくださって、それに沿って、キャラクターや背景などをアニメーターの方々が各パートに分かれて作り込んでいくわけですが、短編集のため作品ごとに設定が変わるので、作業は凄く大変だったと思います。

『怪奇ひきずり兄弟 降霊会』より ©ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会

――原作者の伊藤さんはポイントごとにチェックされるわけですか?

伊藤:そうですね。設定が終わると、いよいよ作画に入るわけですが、毎回できたものを送っていただいて、一応私がチェックします。作品によって描いた年齢も違うので、タッチが微妙に変わっていたりするのですが、そういったところも忠実に描かれているかとか、キャラクターの身長差は合っているかとか、背景などもきちんと描かれているかとか、いろいろ観させていただくんですが、多少意見は言わせていただくものの、ほとんどの場合は問題ありません。特に建物や公園なんかは、「建築家が描いたの?」と思うくらい精密なので、逆に驚きました。

――なるほど、アニメーターが原作に合わせて忠実に、そしてより精密に、一から作っていくわけですね。そろそろ声優さんの登場でしょうか?

伊藤:はい。脚本が確定し、設定が決まると秒数も出てくるので、作画を進めつつアフレコに入ります。まだ絵が完全にできてない状態なので、声優さんは絵コンテと秒数を頼りに声を入れていくわけです。ちょっと面白い光景ですよね。同時に音楽の制作も始まりますが、こちらも『コレクション』に続き作曲家の林ゆうきさんが担当されていて、音響監督の郷田ほづみさんが、シーンに合わせて林さんが作った劇伴をセレクトし、声優さんへの演出も手がけていました。

――アフレコの立ち合いもされたんですか?

伊藤:本当は時間が合えば全部立ち合いたかったんですが、コロナ禍でしたし、忙しかったのもあったので、私は#01の『怪奇ひきずり兄弟 降霊会』のパートだけ見学させていただきました。あとは、先程もお話しましたが、#12の『耳擦りする女』の中川翔子さんとリモート対談した時にアフレコ風景もリモートで見学させていただいたので、それを合わせれば2回ですね。あとは全ておまかせでした。田頭監督は、私が「こうしてほしい」と思ったことを私が言わなくても指摘してくれるので、まったく不安はなかったです。

映像化のポイントはクリエーターの「力量」

――ご自身の作品が映像化される時、「原作者は何を思うのか」をいろんな方にお聞きしているのですが、伊藤さんはいかがですか?

伊藤:初めて映像化されたのが、『中古レコード』という作品で、『戦慄の旋律』(1991)というタイトルのドラマとして制作されたんですが、その完パケを観た時は冷や汗が出ました(笑)。なぜかというと、私の書いたセリフがほとんど脚色されず、そのまま有名な俳優さんが喋ってるのを聞いた途端、恥ずかしいやら、責任を感じるやら…もう穴があったら入りたい気分でした。それが映像化の初体験です。

――なるほど(笑)。でも、そのあとの映画『富江』(1999)は素晴らしい成功体験だったんじゃないですか?

伊藤:『富江』の時は、及川中監督がしっかり脚本を書いてくれましたので、そういう冷や汗をかくようなことはなかったですが、脚本は何度か書き直しはありましね。私がダメ出ししたんではなく、プロデューサーからのNGだったかと思いますが、最初の脚本では、「クライマックスに富江のモンスターが現れる!」というスケールの大きい話だったんですが、おそらく予算の問題からでしょう、結局、できる範囲の脚本に落ち着きました。あの作品は、大好きだった菅野美穂さんが富江を演じてくれたことに尽きますね。最初は富江の敵役(月子)だったんですが、「これはおかしいぞ」ということで、逆にしていただいたんですが、おかげ様で、月子役になった中村麻美さんの個性も生きて、感慨深い作品になりました。

『富江・写真』より ©ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会

――今回、「伊藤潤二『マニアック』」がNetflixから世界配信されますが、これまでのいろんな経験を踏まえ、原作者として伊藤さんは、どんなところをポイントに置いてオファーをお受けしたのですか?

伊藤:私にとって一番重要なのは、やはり演出する人の力量ですね。それに尽きると思います。最初のころは結構口出ししていたんですが、私が口出ししても別に良くならない。良くならないならプロにまかせるべきだと。向こうもクリエーターですし、自分の創意もあると思うので、こちらが口出しすると萎縮してしまう面もあるだろうし、やる気を失くしてしまうこともあると思うんです。だからもう、相手を信じて黙っていたほうがいいなと。田頭監督は特に“全幅の信頼”を置いているので、何も心配していません。

奇抜な発想の源は「故郷」にあり

――今回は世界配信ということで、マーケットも大きくなります。今後、伊藤さんの創作活動はどういう方向に向かっていくのでしょう?例えば、最初から映画化を見込んだ漫画制作なんかもありえるんでしょうか?

伊藤:映画はもともと好きなので、できることなら映画を作りたいっていう気持ちはありましたね。たぶん、漫画家の多くはそう思っているはずですが、力もチャンスもないから漫画を描いているっていうところもあるんです。ただ、今となっては、漫画を自分なりに描くということだけに気持ちは向いているので、これまでと変わらず地道にやっていけたらとは思っています。

――伊藤さんなら、手を挙げれば映画監督をやるチャンスはあると思いますが。

伊藤:実は、『富江』のあとにプロデューサーから、「次回、監督しませんか?」って言われたんですが、お断りしました。いろんな人を束ねなければいけないし、ベテランの助監督からプロの洗礼を受けそうだったし(笑)…とてもじゃないですが、私の力量じゃできないなと。

――そうだったんですね。でも、ファンの方にとっては、「漫画をこれからも地道にやっていく」という言葉は何よりも嬉しいことだと思います。それにしても伊藤さんのあの奇抜なアイデアはどこから湧いてくるのでしょう。発想の泉でも持っていらっしゃるのかと思うくらい無尽蔵ですよね。

伊藤:故郷の中津川市坂下(岐阜県)は山に囲まれて坂道が多く、都会の平野とは違って土地に上下があり、その立体感が、ある種インスピレーションの源になっていたような気がします。上から下の街並みを見下ろしたり、逆に下から上の建物などを見上げたり。それがどうインスピレーションに繋がるかは、説明が難しいですが。また、子供の頃は大正モダン的な建物もいくつか残っていて趣があったり、太平洋戦争の名残で空襲を避けるために墨で黒く塗ってある白壁の土蔵があったりと、そういう風景もインスピレーションの源だったと思います。ただ、こちら(首都圏)に越してからというわけでもないんでしょうけど、どっちの方向に向けばよいのかわからなくなることもしばしば。「平地のせいかな?」と思ったりもしますが、なんとか必死に絞り出して、今は自転車操業で頑張っています(笑)。

取材・文・写真:坂田正樹

◆伊藤潤二/プロフィール:1963年7月31日、岐阜県中津川市で誕生。高校卒業後、歯科技工士の学校へ入学し、職を得るも、『月刊ハロウィン』(朝日ソノラマ)新人漫画賞「楳図賞」の創設をきっかけに、楳図氏に読んでもらいたい一念で投稿。1986年、投稿作「富江」で佳作受賞。本作がデビュー作となり、代表作となる。その後、「道のない街」「首吊り気球」「双一」シリーズ、「死びとの恋わずらい」などの名作を生みだし、1998年から『週刊ビックコミックスピリッツ』(小学館)で「うずまき」の連載を開始。その後も「ギョ」や「潰談」など唯一無二の作品を発表し続ける。2019年、「伊藤潤二傑作集10巻 フランケンシュタイン」の英語版が、アイズナー賞「最優秀コミカライズ作品賞」を受賞したのを皮切りに、2021年に2部門、さらに2022年も受賞し、通算4度目の快挙を遂げた。

©ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会

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