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MAR 16, 2022 インタビュー

<BC注目女優#2>映画『リング・ワンダリング』でヒロイン・ミドリをミステリアスに演じた阿部純子の魅力に迫る

阿部純子ポートレート
阿部純子フォトライブラリー

忘れないで、私の姿……最新作で魅せた妖しくも愛おしいヒロイン像を振り返る。

長編監督デビュー作『アルビノの木』(2016)が海外映画祭で20の賞を獲得し、一躍注目を浴びた俊英・金子雅和監督。最新作『リング・ワンダリング』(全国順次公開中)では、短編時代も含め常に自然と人間の関係性を描いてきた同監督が、満を持して生まれ育った東京を舞台に町や人々の記憶と対峙した意欲作だ。

そして、過去と現在が織り交ざる幻想的な物語の中で、笠松将演じる主人公・草介を不思議な世界に招き入れるのがヒロイン・ミドリを演じた女優の阿部純子。「忘れないで、私の姿…」草介の心を大きく揺さぶるそのセリフが、なぜこんなにも、儚く、切なく、観る者の胸をも締めつけるのか。「ミドリがミステリアスに映っていたとしたら、それは金子監督の演出のおかげ。私はただ身を委ねていただけですから」どこまでも謙虚に自身の演技を振り返る阿部に、撮影現場での様子、監督、共演者の印象などついて話を聞いた。

作品概要:漫画家を目指す草介(笠松)は、絶滅したニホンオオカミを題材に漫画を描いているが、肝心のオオカミをうまく描けず前に進めない。そんなある日、バイト先の工事現場で、逃げ出した犬を探す不思議な娘・ミドリ(阿部)と出会う。草介は転倒しケガをしたミドリを、彼女の両親が営む写真館まで送り届けるが、そこはいつも見る東京の風景とは違っていた…。第52回インド国際映画祭(ゴア)金孔雀賞(最高賞)、第37回ワルシャワ国際映画祭エキュメニカル賞スペシャルメンション受賞。笠松、阿部と共に、安田顕、片岡礼子、長谷川初範、田中要らベテラン勢が過去と現在が織り交ざる切なく幻想的な物語を綴る。

自然の圧倒的な力を感じながら、金子監督の演出に身を委ねた

――まず、脚本を読まれて、ミドリというキャラクターをどのように捉え、撮影に臨みましたか?

阿部純子(以下、阿部):ミドリは、終戦間近(昭和20年)の家庭でひっそりと暮らす普通の女性なんですが、映画の中では、主人公の草介が迷い込んでしまう世界の“不思議な存在”として描かれています。ただ、そういった舞台設定は、ミドリのあずかり知らないことなので、あくまでも戦時中を生きた一人の女性として、リアルに演じようと思いました。東京大空襲が激化する中、どんな生活をしていたのか、どんな苦しみを抱えていたのか……いろいろ資料を調べたり、映像を観たり、あとは自分なりに想像力を膨らませながら、当時の生活感が滲み出るように役づくりを心がけました。

――でも、ファムファタールじゃないですが、草介を暗闇の別世界に「おいで、おいで」と招き入れているような妖しさもありました。それは、演じる上では全く意識しなかったのですか?

阿部:全く意識していなかったですね。そういう雰囲気が映像に醸し出されていたとしたら、それは金子監督の切り取り方というか、演出のおかげだと思います。不思議な世界が突然現れ、迷っているのはあくまでも草介であり、ひいてはご覧になっている観客の方々なので、逆にミドリを演じている私は、その時代の女性として自然に演じていないと違和感が出ると思うんですよね。

――『海を駆ける』『孤狼の血』『Daughters』など、作品ごとにその役を見事に生きていて、どれ一つとして同じ阿部さんがいない。女優として当たり前と言えば当たり前ですが、実はこれがなかなか難しい。毎回、役に臨む時に大切にしていること、あるいは自分なりの方法論など持っていらっしゃるのでしょうか?

阿部:逆にそういうものを持たないようにしています。自分なりのやり方を決めてしまうと、「ちょっと違うアプローチで」とか「もっとこういう表現で」とか、準備していないことを要求された時に、すぐに反応できなくなってしまうので。そうなってしまうと、共演者やスタッフの皆さんにも迷惑がかかってしまうので、私の場合は、ある程度は自分なりにイメージしながらも、現場に入ったら監督に身を委ねる、という感じですね。

――でも、役に対してディスカッションはされますよね?例えば、「ミドリに対して私はこう思ったんですが…」みたいなことを監督と意見交換するとか。

阿部:それは毎回ありますね。ただ、今回は不思議なんですが、雪山の中とか、暗闇の中とか、滝の前とか、自然の力が強いロケーションに圧倒されて、とても太刀打ちできるような状況ではありませんでした。だから、金子監督に絶対的な信頼を置いて、その場に居させていただいたという感じでしたね。

――阿部さんが一番印象に残っているシーンは?ネタバレのない範囲で(笑)

阿部:暗闇の中で草介と初めて出会ったシーンですかね。笠松さんが私をおぶって、「自分が背負っているものって何なんだろう?」と不穏な表情を浮かべるシーンですね。私は普通におぶられていただけだったんですが、金子監督の切り取り方がうまく、幽霊なのか何なんのか、得体の知れないものをおぶっているかのような映像の作り方が凄く面白かったです。私は特別なことは何もしていないのに、この世のものではない感じに見えていたところが、さすが金子監督って思いました。

――旧作もご覧になったそうですが、金子監督の世界観は、阿部さんにはどんな風に見えているのですか?

阿部:言葉にすると難しいのですが、人間じゃないものが人間として登場するというか、「自然」も一つの「登場人物」みたいな着眼点が非常に面白いと思います。年を追うごとに世界的評価がどんどん高まっていると聞いたんですが、海外の方が観ると、日本人独特の感覚や神話、民話など文化的なものに対してやはり興味が湧くんでしょうね。日本に住んでいたらあまり考えないですが、映像とか芸術になると、そういったところが輝いて、世界の注目を集めるのかもしれません。

笠松将とあえて作った距離感がいい雰囲気を醸し出した

――個性豊かな俳優が集結しました。まず、親子を演じた安田顕さん、片岡礼子さんの印象から教えてください。

阿部:安田さんのシーンで印象に残っているのが、デスクに向かって書き物をしている背中ですね。その姿が“お父さん”という役そのものだなと思いました。片岡さんは、撮影中、控室でもずっとお話させていただいていたので、映像に出てくるお母さんそのままでした。本当に仲のいい母娘関係を作ってくださったので、すごくやりやすかったです。

――空襲の恐怖を感じながらも温かい……親子関係がとても自然でした。

阿部:あまり意図的に家族の雰囲気をつくりすぎず、自然体だったことがよかったみたいですね。安田さんに関しては、キャラクター的にあまり話さない無口なお父さんということもあって、撮影中はほとんど会話をしなかったんです。でも、その後に別の仕事でご一緒させていただい時はたくさんお話しできたので、この作品ではあえて会話を交わさず、映像で映ってない部分の雰囲気作りをしてくださったのかなと。

――草介が描く漫画の世界を映像化したシーンでは、梢という役で登場し、長谷川初範さんと重要なシーンで共演していますね。短いシーンでしたが、とても印象に残っています。

阿部:長谷川さんは、衣装合わせの段階から演じるキャラクターがどんな風に映るのか、金子監督と凄く入念にお話されていたのが印象的でした。私もそうなんですが、漫画のキャラクターの中の一部だったので、金子監督の中でイメージしているものを体現することが大事だったのだと思います。

――最後に相手役となった笠松さんの印象を。

阿部:笠松さんとの共演に関してだけは、金子監督と事前にお話して、草介とミドリは違う時代の中で生きている人間同士なので、あまり距離を詰めすぎない方が映像に映らない部分の関係性としてはいいのでは?ということを決めて撮影に臨みました。というのも、笠松さんって、凄く面白くて気さくで、とてもフレンドリーな方なんです。だから、あえて作ったその距離感が演技に反映されて、草介とミドリの関係性を凄くいい雰囲気で描くことができたと思います。

阿部純子ポートレート

草介のように何かを追い求めているうちに、自分の現在地がわからなくなることって、誰にでも起こりうること。それでも信じて頑張っていれば、いつかは希望を見いだせる……映画『リング・ワンダリング』には、そんな“人生エール”も託されているように思う。本作の鍵を握るヒロインを演じた阿部純子も、役者という夢を追いかけて、追いかけて、その努力の芽に大きな花が咲き始めている。バックヤード・コム編集部が最も注目する若手女優の一人である阿部をこれからも追い続けたい。

(取材・文:坂田正樹、撮影:松井証弘)

阿部純子(あべじゅんこ)/プロフィール

1993年生まれ、大阪府出身。『リアル鬼ごっこ2』(10)でヒロインとして女優デビュー。慶應義塾大学在学中に芝居と英語を勉強するためニューヨーク大演劇科に留学。『2つ目の窓』(14)では主演を務め、「第4回サハリン国際映画祭」主演女優賞、「第29回高崎映画祭」最優秀新人賞を受賞した。近年の主な出演作に「ノーサイド・ゲーム」(19/TBS)、「連続テレビ小説 おちょやん」(20/NHK)のほか、映画『孤狼の血』(18)、『サムライマラソン』(19)、『ソローキンの見た桜』(19)、『Daughters』(20)、『罪の声』(20)、『燃えよ剣』(21)など多数。

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