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NOV 18, 2024 インタビューおすすめ

初のアニメ映画『ロボット・ドリームズ』で魅せたスペインの名匠パブロ・ベルヘルのセリフに頼らない映像美学

1980 年代ニューヨークを舞台にドッグとロボ ットの友情を描き、世界中を涙と笑いと感動で包み込んだアニメーション映画『ロボット・ドリームズ』公開中)。第96 回米国アカデミー賞®では長編アニメーション映画賞にノミネートされ、ほかアニー賞、ヨーロッパ映画賞、ゴヤ賞など名だたる映画賞を席巻した話題作だ。

パブロ・ベルヘル監督  撮影:朝岡英輔

監督を務めたのは、前作『ブランカニエベス』(2012)で第27回ゴヤ賞10部門を受賞したスペインを代表する名匠パブロ・ベルヘル。ミュージックエディターの妻・原見夕子とともに来日を果たしたパブロ監督に、アニメ初挑戦への思い、サイレント映画へのこだわりなど、映画制作の裏側について話を聞いた。

  <Story>  大都会ニューヨーク。ひとりぼっちのドッグは、寂しさのあまり、テレビCMで観たロボットを購入する。ニューヨークの名所を巡りながら、深い友情を育んでいくドッグとロボット。ところが夏の終わり、海水浴を楽しんだ帰りにロボットが錆びて動けなくなり、さらにはビーチが翌夏まで閉鎖されるという悲劇に見舞われる。  離れ離れになったドッグとロボットは、次の夏、果たして再会することができるのか?

●映像の力でどこまで人の心を動かすことができるのか?

――アース・ウィンド・アンド・ファイアーの大ヒット曲「セプテンバー」はすごくインパクトがありました。この曲がしばらく耳から離れず、それと連動してドッグとロボットが私の頭のなかに頻繁に現れます(笑)

パブロ監督:それは嬉しいですね。この曲に関しては、脚本の第一稿目から決まっていました。なぜかというと、この原作が、9月(セプテンバー)から始まって9月(セプテンバー)で終わる1年間の物語であること。そして、スケート靴を履いて、ドッグとロボットが陽気に踊れる曲だったこと。さらに出だしの歌詞が秀逸で、この映画に最も相応しい曲だったこと。「君は9月25日を覚えているかい?」という歌詞なんですが、まさに宝物のような時間を綴った歌で、「思い出」というテーマでこの曲が本作の象徴的存在になれるんじゃないかと。映画の作り始めのころ、妻の夕子と二人で、「もしかしてこの曲がテーマになるかもしれない」と話していたんですが、まさにその通りになりました。

――アニメーションに挑戦したいと思ったきっかけは何だったのでしょう?しかもセリフのない映画というところも興味があります。

パブロ監督:まず、アメリカ人作家サラ・バロンが描いた切なくも温かいグラフィックノベルに出会ったことが大きな理由です。最初はドッグとロボットのユーモラスなやりとりを微笑ましく思っていたんですが、ロボットと離れ離れになるという辛い局面にぶつかったドッグが、それをどう乗り越えていくのか…そんなことを思いながら作品の世界に浸っていたら、いつの間にか感動して泣いていたんですね。しかもこのグラフィックノベルにはセリフがなく、絵の力だけでここまで感情を動かされたことにも驚かされた。これは何としてでも映像化し、映画ファン、アニメファンの皆さんにも彼らの友情と絆の物語をお伝えしたいと思いました。

――原作はアメリカの名もなき場所が舞台となっていますが、それをあえて大都会ニューヨークにしたのはなぜですか?

パブロ監督:ニューヨークには10年間住んでいたんですが、とても思い出深く、いろんなことを経験し、学んだ街。夕子と運命的に出会ったのもこの街なので、ある意味、ニューヨークへのラブレターみたいな作品にしたかったんです。

――前作『ブランカニエベス』もそうでしたが、パブロ監督がセリフを必要としない理由は何ですか?

パブロ監督:セリフがないと脚本がないと思われがちですが、セリフなしの脚本もあるわけで、その場合はセリフがあるものよりも難しく、演出家として相当な努力が必要なんです。なぜかというと、セリフがない部分をどうのように語るのか、その方法を自分で習得しなければならないから。だからこそ、映像で人々に語りかけるサイレント映画は素晴らしいわけです。映画の原点ですからね。私も「映像の力で伝えたいことを表現する」というスタイルを自分の中心に据えているので、今回も挑戦というより喜びを感じながら制作に臨んだという感じです。ただ、アニメーションに関しては、確かに新しい経験の連続でしたね。特にチャレンジングだったのは、アニメーションスタジオを作ったことです。

――この映画のためにスタジオを作ったのですか?

パブロ監督:そうなんです。もともとはアイルランドのアニメーション制作会社と一緒に組んでやろうと思っていたんですが、 コロナ禍で思うようにできなくなったので、プロデューサーと相談して、「いっそのこと作ってしまおうか」という話になって。ポップアップスタジオと言っているんですが、とにかく突貫工事だったので、それが一番大変でした。ただ、演出に関しては、演技指導が役者からアニメーターに変わっただけなので、比較的スムーズに行きました。つまり、アニメーターが作ったアニメを観て、自分がどれだけ心を動かされたか…そこは役者の演技を観るのと同じですから、自分の中にある感情の“探知機”に従ってディレクションするだけでした。

――なるほど、アニメであろうと、実写であろうと、さほど変わらない。むしろ、映画を作るときの「芯」の部分が大事だと。

パブロ監督:私は、キャリア25年で4本の映画しか撮っていないので、忍耐の人でもあります。自分にしかわからないセンサーみたいなものがあって、そこに響かないと前に進めないんです。どの監督さんも少なからず持っていると思いますし、それが生命線というか、1番大切なツールだと思います。だから私は、自分の感情が動くまで辛抱強く待ちますし、自分の感情が動いた部分に、観客の心が動かされたとしたらこんな嬉しいことはありません。

●完全主義者だが信頼するスタッフには耳を傾ける

――せっかくの機会なので、妻であり、ミュージックエディターでもある原見さんにもお伺いします。全編セリフがないだけに音楽が担う役割も大きかったと思いますが。

原見:そうですね、この作品はとても普遍的なテーマでありながら、一人一人それぞれの人生に寄り添うようなお話ですから、音楽が前に出すぎて目立つようなものにはしたくなかったんです。だから、ここはちょっと楽し気なところとか、ここは泣くところとか、観客を誘導する押し付けがましい音楽は一番避けたかった。パブロ監督のサイレント作品は映像だけで十分面白いし、感動も伝わってくるので、「音楽があるとより魅力的な作品になるね」くらいでちょうどいいのかなと。

――「セプテンバー」のインパクトはとても強かったですが、あとは映像に馴染んでいた感じがしました。

原見:「セプテンバー」は最初に決まっていて、そのあといくつか現存するポップミュージックを入れることになっていたんですが、ジャズのピースも欲しいということで、そこはオリジナルで作ろうということになっていたんです。作曲家に依頼する前に、なんとなくイメージを伝えた方がいいと思い、チック・コリアやゲイリー・バートンなど、参考になる音楽を事前に探して提示し、あとはそのイメージに沿ってオリジナル音楽を創作していきました。

パブロ監督と原見夕子 夫妻  撮影:朝岡英輔

――あくまでも、自分の感情のおもむくままに泣いたり、考えたり、嬉しくなったり…音楽に誘導されたという感覚はなかったですね。押し付けがましさは全くなかったです。

原見:それはすごく嬉しい感想です。私の目標は達成できたってことですね!

――原見さんの目から見ても、パブロ監督の映画作りに対する情熱、気迫、こだわりは、ものすごいものがありますか?

原見:24時間一緒に過ごしていますから、それはもう(笑)。監督はもとより、私も絶対に妥協したくないタイプなので大変です。ただ監督は、スタッフを選ぶ時点でものすごく気をつけているので、自分が信じている彼らの意見は積極的に耳を傾け、時には採り入れたりもするので、オープンなところもあるんですよね。でも、どうしても譲れないことがあると、スタッフが何を言おうと、プロデューサーが飛んで来ようと一切受け付けない。そういうところは今も持ち続けています。

――なるほど、オープンなところがあって、少し安心しました(笑)。最後にパブロ監督、読者にメッセージをいただけますか?

パブロ監督:私にとって、映画とは白昼夢。目が覚めているときに観る夢のようなものです。と同時に、自分ではないほかのキャラクターの人生を生きることができるものでもあります。もし、そういった異次元の世界に行きたい人がいたら、ぜひこの映画を観てください。愛すべき主人公、ドッグとロボットの思い出とともに1980年代のニューヨークへ皆さまをご案内いたします。

(取材・文:坂田正樹)

<受賞> ◎第96回アカデミー賞 長編アニメーション映画賞 ノミネート◉第51回アニー賞 長編インディペンデント映画賞 受賞◉第76回カンヌ国際映画祭 正式出品◉ヨーロッパ映画賞 長編アニメーション映画賞受賞◉アヌシー国際アニメーション映画祭 コントルシャン部門 作品賞受賞◉シッチェス・カタロニア国際映画祭 観客賞受賞◉フェロス賞 コメディ映画賞|作曲賞|最優秀ポスター賞 受賞◉ゴヤ賞(スペイン・アカデミー賞) 脚色賞|長編アニメーション映画賞 受賞

<Staff & Cast> 監督・脚本:パブロ・ベルヘル/原作:サラ・バロン/アニメーション監督:ブノワ・フルーモン/編集:フェルナンド・フランコ/アートディレクター:ホセ・ルイス・アグレダ/キャラクターデザイン:ダニエル・フェルナンデス/音楽:アルフォンソ・デ・ヴィラロンガ、原見夕子/ 2023 年|スペイン・フランス|102分|カラー|アメリカンビスタ|5.1ch|原題:ROBOT DREAMS 字幕翻訳:長岡理世|配給:クロックワークス   公式サイト:https://klockworx-v.com/robotdreams/

© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

アニメーション映画『ロボット・ドリームズ』11 月8日(金) より新宿武蔵野館ほか全国公開中

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