2000 年スタートの『TRICK』シリーズや舞台『琉球ロマネスク「テンペスト」』(2011)、映画『天空の蜂』(2015)など、多くの作品でタッグを組んできた堤幸彦監督×仲間由紀恵が、約10年ぶりに黄金コンビを復活させた最新映画『STEP OUT にーにーのニライカナイ』(公開中)。主演を務める仲間の故郷である沖縄を舞台に、堤監督が地元出身の映画監督・平一紘を共同監督に迎え、オール沖縄ロケで撮影された渾身の一作だ。「観光映画にはしたくなかった」と語る堤監督に、本作に込めた思いを聞いた。

<Introduction> 本作は、ダンサーを夢見る少年の心の成長と家族の絆を描くヒューマンドラマ。家計を支えるため、ホテルの清掃とスナックの仕事を掛け持ちするシングルマザー・朱音を仲間が演じ、子どものことを大切に思いながらもうまく言葉にできない不器用な母親役で新境地を開拓。そして、妹の面倒を見ながら、ダンスレッスンに打ち込む朱音の息子・踊(よう)をオーディションで147人の中から選ばれた沖縄アクターズスクール出身のSoulが演じた。
●沖縄を背景にした観光映画にはしたくなかった
――沖縄でダンス映画を撮るという企画は、どのような経緯で立ち上がったのですか?
堤監督:プロデューサーの伊藤(伴雄)さんから「沖縄を舞台に映画を1本作ってくれませんか?」と声をかけていただいたのが最初でした。個人的に沖縄には強い思い入れがあったので、これはいい機会をいただいたなと思ったのですが、いわゆる“観光映画”と言われるものだけにはしたくなかった。沖縄を風景として描くのではなく、リアルな生活に根ざした作品であればぜひ、ということでお引き受けさせていただきました。

――沖縄で映像制作を行っている平さんを共同監督として呼んだのはそのためですね。
堤監督:そうなんです。私の会社(株式会社オフィスクレッシェンド)が主催していた「未完成映画予告編大賞 MI-CAN」で、平監督の『ミラクルシティコザ』という作品がグランプリ(第3回)を獲ったんですが、完成した長編を観たらメチャクチャ面白くて。当時33歳だったと思いますが、その年代でコザ暴動(1970年、米国施政権下の沖縄・コザ市<現・沖縄市>で発生した米軍施設に対する焼き討ち事件)を普通に描いていることがすごくミステリアスで。ぜひ会って話がしてみたいと思い交流が始まりました。私たち本土の人間にとっては重く映っている出来事も、沖縄の方にとっては見え方が違うのかもしれない…そこのリアリティの差って探れば探るほど興味深いんですよね。平監督にはセリフ回しも含め、そのリアリティの部分でいろいろと協力していただきました。
――沖縄市のディープな場所を一緒にシナリオハンティングされそうですね。
堤監督:平監督が一緒なので、せっかくなら那覇市とかじゃなくて沖縄市がいいかなと。「リアルな沖縄の夜を見に行こう」ということでいろいろ周ったんですが、非日常的な酒場やライブハウスがごまんとある中、何気ない街角にあるダンススタジオで風のように踊る少年少女たちに目が留まったんです。純粋に感動して彼らを見ていたら、突然降ってきたんですね、「そうだ、ダンス映画を作ろう!」と。物語の始まりからエンディングまで、その場で浮かんできたんです。ダンスブームではあるけれど、そんなことはどうでもいい。私にとっては作ったこともない未知の世界、リアルな沖縄市の生活と夢がダンスによって結びつくような、そんな作品にしたいなと。それがすべての出発点となりました。
●仲間由紀恵、コザのおかあちゃん役で新境地
――先程、沖縄に強い思い入れがあるとおっしゃっていましたが、何かきっかけがあったのですか?
堤監督:私と長年組んでいたスクリプターの女性が宮古島出身で、その方の影響もあり、1990年代に宮古島の北側の島が日本国から独立するという荒唐無稽な映画『さよならニッポン! GOODBYE JAPAN』(1995)を緒形拳さん主演で撮ったんです。不幸にもオウム真理教の事件と重なってメジャー配給が叶わずお蔵入りになりそうになったのですが、ニューヨークのリンカーンセンターでしばらく公開されて、ありがたいことに高い評価をいただきました。その作品をきっかけに、『ケイゾク』や『TRICK』など、いろんな作品を宮古島で撮影するようになったのですが、沖縄に住む人々の日常生活や激動の歴史をテーマにしたわけではなく、結局は沖縄を背景としてしか考えていなかった。ずっとそれが心残りで、沖縄出身の仲間さんともいろんな仕事をさせていただく中で、彼女と一緒にリアルな沖縄の暮らしを描いた作品を作りたい…というのは、長年、思い描いていた夢でもありました。

――なるほど、その夢と今回の企画がリンクしたわけですね。
堤監督:そうですね。私に声をかけてくださったプロデューサーはもとより、共同監督の平さん、脚本家の谷口(純一郎)さん、そして何より現地で協力してくださったキャスト、スタッフの皆さんによって実を結ぶことができました。この映画の最大の特徴は「色彩」だと私は思っています。テクニカルな意味でも、見たままの自然という意味でも、沖縄でしか出せない素晴らしい色彩が撮れたなと思っています。
――しかも、堤監督にとって特別な存在でもある仲間さんが、故郷を舞台に新境地を魅せてくれましたね。
堤監督:私にとっては『TRICK』からの友だちでもあるので、ちょっと言わせていただくと、彼女は確かに沖縄出身ではありますが、どこか東京の人の発想を持っているイメージがあったんですね。14歳ぐらいの時に、「オキコ」という沖縄のパン屋さんのCMに出て人気者になり、すぐ上京されて今に至るわけですから仕方ないところもあると思います。だから今回、完全にリアルな“コザのおかあちゃん”という役を思い切ってぶつけてみたら、とても喜んでくれて。衣装の選び方だったり、まだらな髪の染め方だったり、雑な掃除機のかけ方だったり…とても楽しみながら、仲間さんならではのアプローチでリアルを追求していただきました。
――まさにアンマー(沖縄方言でおかあさん)という感じでしたね。
堤監督:おっしゃる通り。撮影前、実は沖縄の言葉を忘れかけていたんですが、そこはやっぱりDNAのなせる業(わざ)なのか、みんなで少しずつ現場を温めながらやっていくと、リアルにそこにいそうなおかあちゃんの存在感をどんどん醸し出してくれて。本当に稀有なうまさを持っている俳優だなと改めて思いました。
――ダンスに青春を燃やす若者たちは、オーディションで選考したそうですね。
堤監督:街角で最初に目に留まった少年少女たちのスキルがすごかったので、まずはダンスが上手な子、これは必須条件でした。芝居は二の次っていうのも変な言い方ですが、私の中で、ダンスができる子、あるいはミュージシャンの子たちって、絶対に「芝居ができる」という確信があるので、狙い撃ちしたら本当に上手だったんです。
Soulくんが演じた踊は、等身大に近いものがあったと思いますが、無口な妹・舞を演じた(又吉)伶音ちゃんはまるっきり逆の性格で、気が付くと後ろから頭を小突くような活発な女の子。踊のダンスパートナーとなるリサ役の(伊波)れいりちゃんは、『小さな恋のメロディ』(1971)に出演していたトレイシー・ハイドに似ていてとても可愛かった。

3人ともそれぞれのグループで活動していて、れいりちゃんは、ダンス&ボーカルユニット「JUICYJUICY」のメンバー、そしてSoulくんと伶音ちゃんの兄妹コンビは、安室奈美恵さんをはじめ数々の大スターを生んだ「沖縄アクターズスクール」所属なんです。事務所の名前とか見ずにオーディションをやったので後で知ったんですが、やはりこれもDNAのなせる業だなと思いました。
●沖縄は最高の映画スタジオ
――堤監督はこれまで映画やテレビドラマに新しいシステムを採り入れて、独自の演出法を編み出してきましたが、沖縄での撮影で新たに開発したもの、あるいは刺激を受けたことはありますか?
堤監督:今回の撮影は、映像ワンダーランドというか、ちょっとテーマパーク的な面白さがずっとありましたね。いろんな意味で毎日が楽しくてしょうがなかった。なにしろ沖縄の制作チームのスキルがとても高いんです。それは、狭い社会の中で日々いろんなタイプの作品と向き合っているからこその結果だと思いますが、みなさんが最も大事にしていることは、「楽しんで撮る」ということ。東京ではスケジュールに追われ、スタッフのことをおもんぱかる余裕もない状態でしたが、今回は、「みんな楽しんでいるかな?」とつねにスタッフのリアクションを見ながら、大らかな気持ちで撮影することができました。なんというか、趣味的な世界とプロフェッショナルな世界の狭間にいるような、そんな感覚でしたね。

――なるほど、今回の沖縄での経験は、今後のクリエイティブ活動にも生かされそうですね。
堤監督:ハードな作品だからこそ柔らかな気持ちで臨むべし、ということを今回の撮影で学ばせていただきました。強気でゴリ押ししていく時代ではないですしね。どこに楽しみのポイントがあるのかということをみんなで分かち合うというか、この作品にみんなが参加しているんだという感覚を持つことは、とても大事なことだと思いました。
――また沖縄で映画を撮りたいですね。
堤監督:実はこの作品で終わり、というわけではなく、別のカタチで今いくつか実を結んでるところがあって。私の映像人生の中で沖縄は、もはや抜き差しならぬ存在になっています。交通費もかかるので、年に1本は厳しいかもしれませんが、沖縄という最高の映画スタジオで、また撮影を楽しみたいなと思っています。
(取材・文・写真:坂田正樹)
<Staff & Cast> 出演︓仲間由紀恵、Soul、⼜吉伶⾳、伊波れいり、松⽥るか、津波⻯⽃、内⽥樹、盧礼欧、⽟城敦⼦、城間やよい、津嘉⼭正種、橘ケンチ(EXILE)/監督︓堤幸彦/共同監督︓平⼀紘/脚本︓⾕⼝純⼀郎/ダンス振付︓YUKI(Sound Cream Steppers)/配給︓ギャガ/配給協⼒︓⼤⼿広告/製作委員会︓フェローズ、VAP、YOUR FACE CLINIC、⼤⼿広告⼤阪本社、BS-TBS、沖縄テレビ放送/制作プロダクション︓PROJECT9/制作協⼒︓オフィスクレッシェンド/公式ホームページ︓https://gaga.ne.jp/stepout/

©「STEP OUT」製作委員会