
アイドルの枠を超えてマルチに活躍する主演の中島健人、そしてこれが映画初出演となるシンガーソングライターのmiletがヒロインを務めるファンタジックラブストーリー『知らないカノジョ』がついに劇場公開の日を迎えた。
メガホンをとるのは、『今夜、世界からこの恋が消えても』(2022)、『きみの瞳が問いかけている』(2020)など恋愛映画の名手として数々の感動作を世に送り出してきた三木孝浩監督。「片想い目線を大切にしている」と語る三木監督に、本作のときめきポイント、壮大なライブシーンを含めた撮影の舞台裏、さらには中島、miletそれぞれの魅力と共通点について話を聞いた。

<Introduction> 本作は、2021年のフランス・ベルギー合作映画『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』を原作に、舞台・キャラクターを現代日本にリメイクした三木監督最新作。大学時代に出会い、互いに一目ぼれして結婚したリク(中島)とミナミ(milet)。8年後、小説家を目指していたリクは、歌手の夢を諦めたミナミに支えられ、ベストセラー作家となる。ところがある朝、リクが目を覚ますと、人気作家だったはずの自分がなぜか文芸誌の編集部員になり、逆にミナミはトップアーティストとして人気を博し、街中が彼女の曲で溢れていた…。
●物語の中で成長していく愛すべきダメ男に共感
――原作の『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』に惚れ込んだプロデューサーから提案されて、この企画に参加したそうですが、作品のどこに惹かれたのでしょう。
三木監督:主人公のキャラクターですね。愛すべきダメ男なんですが、物語の中で改心し成長していく姿にすごく共感できたんです。僕の中では、『恋はデジャ・ブ』(1993)でビル・マーレイが演じた主人公(=同じ1日を何度も繰り返すことで自分のあるべき姿を見出していくダメ天気予報士)に少し被るところもあるんですが、キャラクターの個性を生かしながら同じようなトーンの作品ができたらいいなと思いました。

――原作を日本版として改変した部分を教えていただけますか?
三木監督:主人公とヒロインの二人だけの物語ではなく、友だちとの関係性だったり、家族との絆だったり、彼らを囲む周りの人々も深掘りすることで物語に厚みが出ると思ったので、脚本作りを進める中で追加していきました。ただ、一番大きな改変は、やはりヒロインをピアニストではなく、シンガーソングライターに設定したところですね。僕がもともとミュージックビデオを撮っていたということもあるんですが、溢れる感情を歌詞に乗せたり、歌の中で物語のテーマを伝えたり…「歌」がこの映画に大きな「力」を与えてくれると思ったんです。

●中島健人&miletの共通点はストイック
――作家志望の主人公リク役に中島健人さん、歌手を夢見るヒロイン・ミナミ役にmiletさんをキャスティングした理由と二人の魅力について教えてください。
三木監督:健人くんは、10年くらい前に知り合いのスタイリストさんから、「すごくいい青年だから、一度映画でご一緒してみたら?」と教えていただき、彼の作品や仕事ぶりを注目して観ていたんですが、確かにすごく惹かれるものを感じたので、ぜひご一緒したいなとずっと思っていました。健人くんも、『陽だまりの彼女』(2013)や『アオハライド』(2014)など僕の過去作を観てくれていて、「どこかでご一緒できたら」と思ってくれていたらしいので、相思相愛というか、お互いに「やっと念願叶って…」みたいな感じではありましたね。

――中島さんのどの辺りに惹かれたんですか?
三木監督:仕事に対するストイックさですね。アイドルとしては、完璧主義というか、自分の中にある理想像をとことん突きつめていくところがありますし、お芝居に関しても一人の俳優として努力を惜しまない…仕事に対する意識の高さは素晴らしいものがあるなと感じていました。ただ、せっかく初めてご一緒するんだから、今まで観たことのない健人くんを観てみたいなと。特に今回の役は、ちょっぴりいけ好かないところもあるけれど、なぜか憎めない愛されキャラ。リラックスした柔らかさというか、素顔に近い方が合うんじゃないかなと思ったんです。たぶん、役をつくり込むタイプの健人くんにとってこのアプローチは、新しいチャレンジになったんじゃないかなと思います。

――miletさんはいかがでしょう。彼女は俳優ではなく、それこそ人気絶頂のシンガーソングライターですよね。
三木監督:まだ企画の段階でしたが、ヒロインをシンガーソングライターにしようという話が出た時点で、「誰がいいですかね?」とプロデューサーから聞かれ、ふっとmiletさんのことが頭に浮かびました。そのあと、たまたま別の作品で主題歌を担当していただくことがあって、その曲のミュージックビデオの演出もやらせていただいたんですが、どちらかというとクールビューティーなイメージがあったmiletさんの素顔がとてもキュートでかわいくて…。その時、ミナミというキャラクターにピッタリだなと確信しました。

――演技経験がほとんどないところに不安は感じませんでしたか?
三木監督:お芝居はほとんどやったことがないことはわかっていたんですが、思い切ってオファーをしてみたら、すごく興味を持っていただいて。ただ、ご本人もお芝居を本格的にやるのは初めてなので「不安がある」ということで、演技のレッスンから始めてもらうことになったんです。撮影の1年前くらいからスタートしたんですが、心配をよそに序盤から勘の良さを存分に発揮していました。歌に感情を乗せるのか、お芝居に感情を乗せるのか、という違いぐらいで、気持ちを表現することに抵抗感は全くなかったので、ミナミというキャラクターを演じることにすぐにフィットできていたと思います。

――なるほど、レッスンを受けたことによってご本人は、演じることにプレッシャーを感じたりとか、ネガティブになったりとかは全くなく、むしろ演じることがだんだん楽しくなっていった感じですね。
三木監督:そうなんです。自分の可能性を探ることにすごく前向きだし、貪欲だし、勉強家なので、お芝居という新しい世界も楽しんで挑戦してくれました。
――中島さんとmiletさんのコラボによって、三木監督も予想していなかった化学反応は起きましたか?
三木監督:さきほども触れましたが、二人とも求めるものに貪欲で、高みを目指してる感じがシンクロするんですよね。良い作品を作ろうとか、自分が経験したことのないお芝居にチャレンジしていこうとか、そういう前向きな部分がすごく似ていて、お互いアーティスト活動をしているというところも影響していて波長が合うのかなと思います。

――中島さんはもとより、miletさんも歌以外の新たな引き出しを持って、また一つ表現の可能性を広げましたね。
三木監督:本当にそうですよね。びっくりしたのは、役どころはもとより、ご本人が本物のシンガーソングライターなので劇中歌もお願いしたんですが、これまで手掛けてきた楽曲の良さを持ちつつ、今までのmiletさんじゃない“ミナミ”としての歌にちゃんとなっていて…。芝居をやりながら、この曲を生み出すところはすごいなと思いました。
●miletのライブで撮影した圧巻のクライマックス
――ロケーションも三木監督のこだわりが随所に出ていたと思いますが、例えば大学のキャンパスだったり、横浜のデートスポットだったり、二人を彩る風景にもときめきを感じました。
三木監督:青山学院大学や早稲田大学、武蔵大学など、シーンによっていろんな大学のキャンパスを使わせていただいたんですが、共通しているのはアンティーク感です。1980~1990年代に観たハリウッド映画の学園ものが大好きだったので、あんな雰囲気が出せたらいいなという思いはありました。横浜のロケーションもそうですが、かつて僕が夢中になった洋画の空気感をかなり意識しました。

――圧巻だったのはミナミのライブシーン。実際にmiletさんのライブで撮影されたそうですね。
三木監督:あのシーンはもう本当に無理を言って…。miletさんとスタッフさんには感謝しかありません。クランクインの2週間ぐらい前だったんですが、miletさんが横浜アリーナでライブをやるということを聞いて、「ミナミとしてステージに立ってる姿をそこで撮らせてもらえないでしょうか?」と無理を承知でお願いしたら、なんとか調整していただいて撮影することができたんです。もちろん一発勝負、会場でファンの皆さんに「映画のライブシーンを撮影します!」とアナウンスしたら、ものすごく盛り上がってくれて、臨場感溢れる最高のシーンになりました。

●演出の肝はヒロインを好きになる「片想い目線」
――今、青春映画、恋愛映画の第一人者と言えば三木監督だと思いますが、なぜこんなにも心ときめく作品を次々と生み出せるのでしょう。何か演出の“肝”みたいなものがあるのでしょうか?
三木監督:そうおっしゃっていただけるのはすごく嬉しいんですが、なかなか答えが難しいですよね…。やっぱりキャラクターを好きになるというか、ヒロインのこの表情がかわいいとか、このしぐさにグっとくるとか、僕は映画を観ながら主人公と同じ気持ちでヒロインに恋をしていくことを体験してきたので、映画を作る側になっても、自分がそのキャラクターを好きになる瞬間を必ず作ること…あくまでも客観的に捉えるのではなく主観的に捉えるということは意識しています。例えば本作で言えば、主人公のリクがミナミを好きになったシーンを観ている人が自分ごと化していくというか、「片思い目線」って言っているんですが、他の人は気づいていないけれど、その人の素敵なところを自分だけが知っているみたいな。その瞬間を捉えるということを常に心がけているかもしれません。

――最後に、本作をご覧になるファンに向けてメッセージをいただければ。
三木監督:本作は、ifもしもの世界、つまり自分がもしこうじゃなかったら、あるいはもしこうだったら…というところにいきなり飛ばされてしまう主人公の話なんですが、ファンタジーのない世界で生きている僕たちは、この映画を観ることで、本当に大事にしなければいけないものは何なのかとか、おろそかにしていたものへの気づきがあると思うんです。それは身近な小さな愛だったり、思いやりだったり…そういったものを大事にしたくなるような作品になっていればいいなと思っています。(取材・文・写真:坂田正樹)
<Staff & Cast> 出演:中島健人、milet、桐谷健太、中村ゆりか、八嶋智人、円井わん、眞島秀和、風吹ジュン/監督:三木孝浩(『今夜、世界からこの恋が消えても』『きみの瞳が問いかけている』)/原作:『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』(原題:Mon Inconnue)(ユーゴ・ジェラン監督/2021年)配給:ギャガ/公式サイト:gaga.ne.jp/shiranaikanojo

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