第89回キネマ旬報ベスト・テン⽇本映画第1位、第70回毎⽇映画コンクール⽇本映画⼤賞、第58回ブルーリボン賞最優秀監督賞など数多くの映画賞を受賞した2015年公開の傑作『恋人たち』から 9 年。名匠・橋口亮輔監督が、三姉妹のドタバタ劇を通して家族のわずらわしさと愛おしさをユーモラスに描く映画『お母さんが一緒』が(7/12)公開された。
タイトルが昔懐かしい児童番組「おかあさんといっしょ」にかけているのか、江口のりこ、内田慈、古川琴音が演じる凸凹三姉妹を同番組内の着ぐるみ劇「さんびきのこぶた」のブーフーウーになぞらえているのかどうかは知らないが(絶対違うよね、古くてスミマセン!)、全編ドタバタ、最後にほっこり…の展開が、昭和生まれの筆者にはとても懐かしく、4大女優がスクリーンを華麗に彩った姉妹劇『海街diary』よりも滑稽で味わい深く、心にジュワーっと沁みわたった。
中でも、江口が体現するコンプレックスの塊でクソ真面目、すぐにヒステリーを起こして暴走するキレッキレのキャラが秀逸で、「この姉妹どこに向かっていくのか…?」というドタバタ劇の中で突出した存在感を出している。『ぐるりのこと。』以来、橋口監督と実に16年ぶりにタッグを組んだという江口が、本作の撮影で感じた思いをインタビュー(+メイキング映像)で語った。
<Story> 親孝行のつもりで母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹。長女・弥生(江口)は美人姉妹といわれる妹たちにコンプレックスを持ち、次女・愛美(内田)は優等生の長女と比べられてきたせいで自分の能力を発揮できなかったと心の底で恨んでいる。そんな二人を冷めた目で観察する三女・清美(古川)。三姉妹に共通しているのは、「母親みたいな人生を送りたくない」ということ。温泉宿の一室で爆発する三姉妹の母親への愚痴は徐々にエスカレートし、お互いをブラックユーモア満載に罵倒する修羅場へと発展。そこに三女がサプライズで用意していた彼氏・タカヒロ(青山フォール勝ち)が現れ、物語は思わぬ方向へ…。
<Interview & Making> 『ぐるりのこと。』(2008)以来、16 年ぶりに橋⼝監督作への出演となった江⼝。本作に出演したことで、橋⼝監督から、「⼀つの役をやるときの⼿順を改めて教えてもらった感じがする」と振り返る。今やバイブレーヤーはもちろん、主役としても⼤活躍中の江⼝だが「このタイミングで橋⼝さんと⼀緒に仕事できたことは、本当に⾃分にとって⼤きくて嬉しかったです」と語り、⾃⾝が演じた<⻑⼥・弥⽣>というキャラクターについて橋⼝監督と交わしたやりとりの思い出も明かす。
一方、橋⼝監督は、⾃軽トラに乗ってきたタカヒロと三⼥の清美がじゃれあう、⼀⾒意味が無いようなシーンが「⼀番のお気に⼊り」だと述べる。「⻘⼭君がピピッてやるでしょ︖カーロックですかね︖ピピッってやって『何それ』『必殺技』ってもう⼀回ってピピッてやるでしょ」「ああいうシーンこそが作品の命だと、僕は思っている」と熱弁。同様のシーンとして江⼝が⾃⾝の⼿を⾒つめながら⼿のシワを⾒つめるシーンも挙げながら、「ああいうなんでもないところが、記憶に残っていくんですよ。それが作品の命だっていうふうに、僕は思っているので、そういう所が良く撮れたというのは。すごく良かったなと思っています」と語っている。
なお、本作は、脚本家・劇作家・演出家・映画監督など、マルチに活躍するペヤンヌマキが 2015 年に主宰する演劇ユニット「ブス会*」で発表した舞台「お⺟さんが⼀緒」を橋⼝監督⾃ら脚⾊し、CS「ホームドラマチャンネル」(松⽵ブロードキャスティング)の開局 25周年ドラマとして制作されたオリジナルドラマシリーズが再編集され、映画となった。家族という⼀番⾝近な他⼈だからこそ湧いて出てくる不満や苛⽴ちをユーモラスに描いたホームドラマ『お母さんが一緒』。三姉妹のじゃれ合い、口論、肉弾バトル、そして入浴シーンと、見どころが尽きない傑作だ。
<Staff & Cast> 原作・脚本:ペヤンヌマキ 監督・脚⾊:橋⼝亮輔/出演:江⼝のりこ 内⽥慈 古川琴⾳ ⻘⼭フォール勝ち(ネルソンズ)/配給:クロックワークス/製作:松⽵ブロードキャスティング/映倫区分:G/上映時間:106分 /公式サイト:www.okaasan-movie.com
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