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JUN 06, 2023 インタビューおすすめ

工藤遥、コンプレックスだった声も武器に「本物の役者を目指したい」

撮影:松林満美 ©backyard.com

第76回カンヌ国際映画祭ACID部門正式出品に選出された映画『逃げきれた夢』監督・脚本:二ノ宮隆太郎で、名優・光石研の娘役をリアルに演じた工藤遥(23)。2018年より役者として活動を開始し、2020年の『のぼる小寺さん』で映画初主演、近年もドラマ『ダブル』(WOWOW/22)や『ロマンス暴風域』(MBS・TBS/22)、さらには今年1月クールのドラマ『ブラザー・トラップ』(TBS)、公開待機中の映画『君は放課後インソムニア』(6/23公開)に出演するなど、次世代を担う表現者として注目を集めている。

©backyard.com

今回、工藤が挑んだ役は、人生のターニングポイントを迎えた還暦目前の父・周平(光石)に全く関心を示さないドライな娘・由真。リビングのソファを占拠し、スマホにかじりつくイマドキ女子が、突然コミュニケーションを図ろうとしてくる父親に、怪訝(けげん)そうな表情を浮かべながら「どしたん?」「なんかあった?」と冷ややかに反応するさまが絶妙にリアルだ。本作の名シーンの一つと言っても過言ではない“親子関係”を光石とともに作り上げた工藤に、役づくりに対する真摯な思い、さらには自身が描く理想の“役者像”について話を聞いた。

●父親を「突き放す」ことで生まれたリアルな描写

――オーディションで由真役を勝ち取ったそうですが、最初に脚本を読んだ時の感想をお聞かせください。

工藤:二十歳を過ぎた娘が一人いる家庭の“リアルな空気感”を脚本の中から感じていたので、ある意味、父親に対して残酷なところもあるなと。私は今年24歳になりますが、この世代の娘さん、息子さんを持つお父さんは、一般的にコミュニケーションをとるのがとても難しいと思うので、それを映画の中でもなるべくリアルに表現したいと思っていました。ただ、作品全体としては、光石さん演じる父・周平が人生を見つめ直していくさまを、少ない言葉数の中でどうやって表現していくのか、というところが凄く楽しみだったので、期待を胸にロケ地の北九州に向かいました。

©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ

――実際に光石さん演じる父・周平と対峙されたわけですが、思い描いていた感じで演じられましたか?現場の雰囲気はどんなものだったんでしょう。

工藤:あくまでも光石さんが役者としてとても素晴らしかったという意味で言わせていただくのですが、目の前にいる父親の姿があまりにも情けなくて…もう心の底からカッコ悪かったんですよね(笑)。あのオシャレでダンディーな光石さんのイメージと真逆のところにいたんです。私自身は父親と凄く仲がいいので、周平を見ていたらちょっと同情してしまいそうになりました。だから、演じている時は、素の私の感情を振り切って、「父親をいかに突き放すか」に集中しました。ちょっと悲しいけれど、これまでの人生を振り返った時に、娘の中には「何も残ってなかったんだ」と父親に思わせられたら成功だなと。そんな思いであの場所にいました。深く反応するのではなく、ソファに寝そべりながら浅く反応するほうがより際立つかなと思いました。

――ソファをアジトのように占拠していましたね。

工藤:そうなんですよね(笑)。ソファの上から本当に動かないので、自分の陣地として、誰にも踏み入れさせない空気を出しながら演じていました。

©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ

●小手先の演技では通用しない二ノ宮監督の現場

――メガホンをとった二ノ宮監督について、「ごまかしが効かない」と感じていたそうですが、これはどういった印象を受けてそう思ったのですか?

工藤:リアルな空気感とかタイム感覚みたいなものを本当に大事にされていて、嘘が絶対に通じないとてもピュアな方だなという印象を受けました。だから、私なんかの小手先の技術ではどうにもならない、しっかりぶつかっていかないとダメだなと。

――二ノ宮監督は俳優でもあるので、ほかの監督さんとは違う独特のアプローチがあったと思うのですが、その辺りはいかがでしょう。

工藤:目線は違うと思いましたね。いい映像が取れればOKみたいなことではなく、お芝居を本当に重視して演出されている印象だったので、「カット割で絶対にごまかさない」という強い意志を感じました。「このページ分、一気にワンカットで行きますね」って言われた時、これはもう腹を決めていかないとダメだなと思いました。

©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ

――なるほど。実際、完成作品をご覧になっていかがでしたか?

工藤:自分が出演していないシーンを初めて観たんですが、面白いなと思ったのは、外で生きてるお父さんって、家にいる時と全然違うんだなって。外ではいろんな人間関係を築いているのに、家では奥さんと娘と全く関係性が築けてないところが物凄くリアルでしたね。

――どこのお父さんも、真剣に働いてる時は素敵ですよね。普段、目にすることのできないカッコいいところもたくさんある。

工藤:そうそう、そうなんですよ。父親のカッコいい姿を完成した作品の中で初めて知ったという感じなんですよね。逆に、この姿を知っていたら、あのソファ越しに交わされたかみ合わない会話やしらけた空気は出なかったんじゃないかなと思います。だから完成作品で知ることができて本当によかったです。父・周平を見る目がちょっと変わりました(笑)

●この「声」を受け入れたことで得た強み

――ここからは、役者・工藤遥の現在地についてお聞きしたいのですが、約1年前のインタビューで、「工藤遥を観に来てもらえる女優になりたい」とおっしゃっていましたが、その夢は徐々に近づいていますか?

工藤:このインタビューが始まる前に、『ロマンス暴風域』で私に興味を持ってくださったとおっしゃっていただきましたが、凄く嬉しかったです。一人の役者として工藤遥を知っていただき、私の名前があるから作品にも興味を持っていただける…これこそ理想のカタチだなといつも思っていますし、目標でもあるんです。この1年の間にもいろんな作品に出演させていただく中で、役幅もどんどん広がり、経験をたくさん積むことができましたし、役者仲間も増えて、変な焦りもなくなってきました。少しずつではありますが、1年前よりは一人の役者として、きちんと自分の足で立っている感覚はありますね。

©backyard.com

――工藤さんといえば、やはり“声”が印象的というか、特徴的だなと思うんですが、ご本人はそれをどう捉えているのでしょう。

工藤:今は、本当にこの声に生まれてよかったと思っています。この声じゃなかったら挑戦できなかった役がきっといっぱいあったと思います。最初は、見た目とのギャップというか、等身大の二十代女性を演じる上で、自分の声の高さみたいなものを凄く気にしていた時期もあったんですが、意外と「ぜんぜん成立するな」と自分でも少しずつ思えるようになってきて、それが逆に役者としての武器というか、自信にも繋がったところはありますね。

――声だけ聴いても、パッと工藤さんだ!ってすぐにわかりますよね。もうキャラクターの中に組み込まれている、これは大きな武器だと思います。

工藤:いやもう、今となっては本当にありがたいことですね。この声に逆に感謝します(笑)

©backyard.com

●本物の役者になっていくための新たな挑戦

――現場によって監督さんも違いますし、撮影環境も違うと思うんですが、ご自身の中で、どこにいてもブレない“軸”のようなものはありますか?

工藤:おっしゃるように、いろんな現場があるので、その状況に合わせてお芝居することは大切ですが、だからといってなんでも鵜呑みにするのではなく、“自分の考え”を監督さんや共演者さんにきちんと言葉にして伝えるようにはしています。もちろん、先輩、後輩もありますし、経験不足からどうしていいかわからない瞬間もありますが、それでも目の前のことにしっかり向き合って、自分から発信していかないと、その作品に参加する意味がなくなってしまうので。なので、疑問に思ったり、ここは「譲れない」という部分が出てきたりしたら、しっかり伝えるようには心がけています。

――本作でも二ノ宮監督と話し合う局面があったのですか?

工藤:今回は、二ノ宮監督とお話しした時に、「お父さんが嫌いなわけじゃない」「嫌いだからこんな態度をとっているわけじゃない」っていう認識がすぐに一致したんです。「父親に対して本当に何も思っていないんだよね」っていう話を最初にできたので、特別苦労するところはなかったですね。二ノ宮監督が由真というキャラクターをこういうイメージで書いたんだろうなっていうのがすぐに理解できたのが大きかったですね。作品によって、すり合わせが最初からうまくハマる時と、そうじゃない時とまちまちですが、今回はスムーズに行きました。

©backyard.com

――最後に、次の1年に向けての目標を聞かせてください。

工藤:自分も含めアイドル出身の女優さんが本当に増えてきている中で、どうやって“真の役者”になっていくか…というところにフォーカスして、よりいっそう頑張っていきたいと思っています。

――ラジオ『若月佑美と工藤遥のMBSヤングタウン』(MBSラジオ)で若月さんと一緒にパーソナリティーを務めていますが、たまにはそういった演技のお話などもされるんですか?

工藤:ラジオ内ではあまりそういう話はしませんが、プライベートで会った時は、お芝居について真剣に話したりはしますね。“若”のほうが5歳お姉さんで、演じてきたキャラクターも全然違うのですが、とても尊敬していますし、友達のようでもあり、戦友のような感じもあるので、いつか共演できたらいいなと思っています。それも大きな夢の一つですね。

©backyard.com

光石演じる北九州の定時制高校教頭・末永周平が人生のターニングポイントに気付き、不安定な心を抱えながらも新たな一歩を歩み出す映画『逃げきれた夢』は、6月9日(金)より新宿武蔵野館、シアター・イメージフォーラムほかで全国公開。娘・由真役を演じた工藤の名演にもぜひ注目していただきたい。

取材・文:坂田正樹 写真・松林満美

©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ

<Staff&Cast> 監督・脚本:二ノ宮隆太郎/出演:光石研、吉本実憂、工藤遥、杏花、岡本麗、光石禎弘、坂井真紀、松重豊/製作総指揮:木下直哉/プロデューサー:國實瑞惠、関友彦、鈴木徳至、谷川由希子/撮影:四宮秀俊/照明:高井大樹/録音:古谷正志/美術:福島奈央花/装飾:遠藤善人/衣装:宮本まさ江/ヘアメイク:吉村英里/編集:長瀬万里/音楽:曽我部恵一/助監督:平波亘/制作担当:飯塚香織/企画:鈍牛倶楽部/製作:木下グループ/配給:キノフィルムズ/制作プロダクション:コギトワークス/映倫G DCP/カラー/スタンダード/モノラル/96分  公式サイト:https://nigekiretayume.jp/

映画『逃げきれた夢』は6月9日(金)より新宿武蔵野館、シアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー

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