ザ・ドリフターズの伝説的コント番組『8時だョ!全員集合』(TBS系)の裏方からキャリアをスタートさせ、その後、さまざまな映画、テレビドラマ、ドキュメンタリーの現場で助監督、監督として研鑽を積んだ志村彰氏。2005年には、映像制作会社「(株)the icon(ジ・アイコン)」を新たに立ち上げ、以降、プロデューサーとして数々のヒット作を世に送り出してきた。レプロエンタテインメントでは、4月25、26日の2日間にわたって業界屈指のヒットメーカー・志村氏を同社が運営する交流の場「御茶ラボ」に迎え、自身の経験談を交えながら、“心をつかむ”ノウハウを語るセミナーを開催した。
●ヒット作を生む秘訣、それは、つねに“アンテナ”を張っておくこと
映像の世界に入って45年、プロデューサーとしての信頼を勝ち取るまでにさまざまな紆余曲折があったという志村氏。映像制作を夢見ていた若き日、デビューは意外にもバライティー番組の裏方だったという。「大学を卒業し、『(株)イースト』(現・E&W)という会社に入社して、最初に担当した番組が『8時だョ!全員集合』だったんです。コントのセットを運んだり、時にはタレントの頭にタライを落としたり(笑)…。ただ、ドラマなどの映像制作がやりたくてこの世界に入ったので、結局、方向性の違いから会社を辞めることになりました」。
その後は、テレビドラマからピンク映画までさまざまな撮影現場で助監督を務め、監督業も30本近く経験したのだとか。まさに叩き上げのキャリアを積んできた志村氏は、持ち前の企画力を生かして次第にプロデューサーとしての手腕を発揮していく。「黒澤明監督の言葉に『クリエイティビティーの8割は記憶』という名言があるように、映画やドラマ、ドキュメンタリー、絵画など、とにかくいいものをたくさん観て、常にアンテナを張っておくこと。これが心をつかむヒット作を生むための基本中の基本」と強調する志村氏。こうして2日間にわたるセミナーは幕を開けた。
●テレビドラマの脚本で一番大切なのは、セリフよりも“語り口”
あらゆる現場を経験してきた志村氏は、映画、舞台、テレビドラマにおけるイニシアチブについてこう語る。「映画は監督のもの。舞台は7割が役者のもの。そして、テレビドラマは脚本家とプロデューサーのもの。人選によって違いはありますが、概ねこんな感じですね。テレビドラマがなぜ監督のものではないかというと、企画をプロデューサーが立案し、それをもとに脚本家と物語を作り上げたあとにスタッフとして入ってくるから。テレビドラマがヒットするか否かは、ほぼ脚本家の手腕にかかっていると言っても過言ではありません」。
では、心をつかむ脚本を書くためにはどんなことを実践すればいいのか。志村氏は、「まずは“語り口”が重要」だと強調する。「セリフの良し悪しなんてあとの問題。一番大切なのはストーリーの面白さ。脚本は語り口なんですよ。そこでプロデューサーが一番やってはいけないのが、ディテールの話。「セリフがピンとこない」とか「シーン5の何々がなんか違うんだよなぁ」とか、具体案も出さずに印象批判するのは最悪」と指摘する。
さらに、「必ずしも物語が1、2、3、4の順番じゃなくていいんです。1、4、3、2でも試してみる価値はある。例えば、恋愛ドラマでうまくいきそうな二人の間に、彼女の昔の男の物語をポンと入れてみる。すると、『この男、のちのち何か邪魔をしてくるんじゃないか?』と視聴者にいろんな想像をかき立てさせる。準備稿、第一稿あたりまでは、どんどん物語を動かしていいと思うんですよね。うまくいかなかったら1、2、3、4に戻せばいいわけで。セリフ回しやディテールの変更は決定稿辺りで十分間に合いますから」と持論を述べた。
●リアリティー溢れるオリジナル脚本で勝負して欲しい
また、企画力が問われるプロデューサーに関しては、「小説や漫画原作は、確かに通りはいいけれど、なるべくオリジナルで勝負して欲しい」と志村氏は主張する。「僕が手がけた作品の7割はオリジナル脚本。原作にあまり頼りたくないんですよね。NHKの『新日本紀行』や『ドキュメンタリー72時間』など、日頃からドキュメンタリー番組をよく観るんですが、そこには体験しなければ出てこない生の言葉がたくさんあるんです。有名な原作ものもいいけれど、ドキュメンタリーにしかない唯一無二の凄さ、恐ろしさをドラマとして企画化すると、よりリアリティーのあるオリジナルな作品が生まれるんです」。
例えば、志村氏が手がけた『病院の治しかた〜ドクター有原の挑戦〜』(テレビ東京/2020)は、15億円もの借金を抱えた実在する病院をモデルに「どう立て直していくか」を物語にしており、『サマーレスキュー〜天空の診療所〜』(TBS系/2012)では、企画者である志村自身がその情熱を役者やスタッフに伝えるために自ら登山を体験して見せたのだとか。そのほか、これまで制作してきた映画やドラマを例に挙げながら、志村氏は、脚本の語り口とオリジナルな企画力、そして何より情熱がいかに大切かを力説した。
●優れたプロデューサーは優れた“猛獣使い”?
2日目は、がらり内容が変わり、脚本家志望者にとっては神のような3大巨匠、山田太一(『岸辺のアルバム』『ふぞろいの林檎たち』)、鎌田敏夫(『金曜日の妻たちへ』『俺たちの旅』)、市川森一(『傷だらけの天使』『太陽にほえろ!』)との逸話や、一筋縄ではいかない役者たちの破天荒な現場など、ここでしか聞けない裏話が続々と登場。大石静や中園ミホ、三谷幸喜、池田奈津子、坂元裕二など、今をときめく名手たちの名前も随所に飛び出し、Q&Aコーナーでは、さらに知られざる制作秘話が語られた。 巨匠と呼ばれる脚本家たちや、大スター、大女優と呼ばれる役者たちと渡り合い、信頼を勝ち取ってきた志村氏。自らを“猛獣使い”と表現するその裏には、視聴者の前にまず、個性溢れる有能なスタッフ、キャストの心をつかむことがプロデューサーには不可欠だという意味が含まれているようだ。
(提供:バックヤード・コム 取材・文・撮影:坂田正樹)