直木賞作家・朝井リョウ(『桐島、部活やめるってよ』『何者』ほか)の連作短編小説を原作とした映画『少女は卒業しない』(公開中)で、メガホンをとった中川駿監督(『カランコエの花』)が、主演の河合優実をはじめ、4つのエピソードを演じた小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望の魅力について語った(2023.2.27配信の中川駿監督インタビューより)
あらすじ:進学のため上京することになり、地元に残る恋人・寺田との関係が気まずくなっていた後藤由貴(小野)。幼なじみの森崎に思いを寄せている軽音楽部長の神田杏子(小宮山)。クラスになじめず図書室に通ううち管理人の坂口先生(藤原季節)に淡い恋心抱く作田詩織(中井)。そして、恋人・駿(窪塚愛流)へのある思いを抱えたまま卒業生代表の答辞を務めることになった山城まなみ(河合)。廃校により校舎の取り壊しが決まった島田高等学校、最後の卒業式まであと1日。体育館では卒業式の予行演習が行われる中、4人の少女たちは明日卒業する“学校”と“恋”にそれぞれの思いを馳せていた…。
――今回、初主演を務めた河合優実さん(『由宇子の天秤』『愛なのに』)は以前から注目していたんですが、中川監督の目から観てどこが魅力だと思いますか。
中川監督:いまだに言語化できていないんですが、現場で河合さんを映している時、何かこう目が離せない“引力”みたいなものを感じたんですよね。それが何から来ているのか…筆舌に尽くし難いものがあるんです。その最たるものが答辞のシーンですね。卒業式本番、答辞を読もうとするんですが、胸が苦しくなって読めなくなってしまう…。
事前にカメラマンの伊藤(弘典)さんと話し合って決めた画角があったんですが、どんどん寄って行って、どアップになっちゃったので、伊藤さんに「随分、寄りましたね」って後で声をかけたら、「いやぁ、止まらなかったんですよ」とおっしゃっていて(笑)。でも、河合さんをアップで映したくなるその気持ち、凄くわかるんですよね。これも彼女の才能だと思います。表面的な美しさだけでなく、芝居の質の高さと言いますか、「わぁ、凄い…」と思わせるあの感覚は、正直、初めての経験でしたね。
――言葉にできない魅力…本当にそうですね。ほか各エピソードのヒロインを演じた小野莉奈さん(『アルプススタンドのはしの方』)、小宮山莉渚さん(『ヤクザと家族 The Family』)、中井友望(『かそけきサンカヨウ』)についてはいかがでしょう?
中川監督:小野さんは、一番自由に演じてくれたと思います。結構、予想外の動きをするんですね。「あ、ここ立ち上がるんだ」とか、「こっち来るんだ」とか、「あっち行っちゃうんだ」みたいな(笑)。カメラマンもびっくりするような動きをするんですが、僕一人では到底行けなかった世界へ彼女の自由な想像力が連れて行ってくれた感覚はありますね。予定調和じゃない画も生まれて、イキイキとしたシーンが撮れました。
小宮山さんは、唯一、現役の高校生だったので、そのまま居てもらうために、極力邪魔しないようにしていました。『ヤクザと家族 The Family』に続いて映画2作目で、まだ現場の経験が少ないので、ご本人も「一生懸命勉強させてもらいます!」みたいなスタンスで臨んでくるから、彼女が来ると明るくなるんですよ。ただ、内面はすごく子供っぽいところがあって可愛らしいんですが、ここ一番という時には急に大人びた表情を見せたりするので、ちょっと神々しさを感じる時もありました。
中井さんは、今回演じていただいた作田のキャラクターが、もともとご自身のパーソナリティに近いキャラクターだったみたいです。ご自身も学校はあまり得意じゃなくて、不登校になっていた過去があったらしく、すごく作田にシンパシーを感じると。そういう背景もあったので、中井さんに関してはそれこそ余計なことしないようにしようと思い、そのまま居てもらったんです。しかも、ちょうど中居さんのパートだけコロナ禍などの事情もあって、本読みさえできなくて、いきなり本番だったので、余計なことをお伝えする機会もなかったのですが、逆に伝えずに済んだことが説得力のある演技を生んだのかなと思っています。(取材・文:坂田正樹)
2023年2月23日(木・祝)より新宿シネマカリテ、渋谷シネクイントほか全国公開中!
© 朝井リョウ/集英社・2023映画「少女は卒業しない」製作委員会