山田裕貴、佐藤二朗ら豪華キャストを迎え、『帝一の國』(2017)『キャラクター』(2021)の名匠・永井聡監督がメガホンをとった映画『爆弾』が10月31日(金)よりいよいよ劇場公開される。原作は、日本最大級のミステリーランキング「このミステリーがすごい!2023年版」(宝島社)、「ミステリが読みたい!2023年版」(ハヤカワミステリマガジン)で1位を獲得した呉 勝浩による同名ベストセラー小説。初の映画化チャレンジとなる呉に、本作に託した思い、実写映像の醍醐味、さらにはキャスト陣の鬼気迫る演技について話を聞いた。

<Story> 酔った勢いで自販機と店員に暴行を働き、警察に連行された謎の中年男(佐藤二朗)。「スズキタゴサク」と名乗るその男は、取り調べ中にこう呟いた。「霊感だけは自信がありまして。10時ぴったり、秋葉原で何かあります」と。野方署の刑事・等々力(染谷将太)、伊勢(寛一郎)らが酔っ払いの戯言だと呆れる中、秋葉原のビルが爆発。青ざめる二人を前に、スズキは「ここから3回、次は1時間後に爆発します」と言い放つ。捜査に乗り出した警視庁捜査一課の刑事・類家(山田裕貴)と清宮(渡部篤郎)は、さらに厳しく追及するが、爆弾に関するクイズを出しながらのらりくらりとかわし始めるスズキ。彼の目的とは?そして真の正体とは…?

原作者・呉 勝浩スペシャルインタビュー
●映画の世界から抜け出せない“没入感”があった
――今回の『爆弾』が呉先生にとって初の映画化だそうですが、決断に至った経緯を教えていただけますか?
呉:映画化はむしろ僕の夢でした。お話は過去にもいただいたことがあったんですが、その時はいろんな事情があり白紙になってしまったので、「いつか実現させたい」という思いをずっと抱いていたんです。特に『爆弾』は、僕にとって一番の成功作ですし、主人公のスズキタゴサクや類家など個性的なキャラクターをどんな風に映像化するのかとても興味があったので、プロデューサーの岡田(翔太)さんからオファーをいただいた時は本当に嬉しかったです。しかも、原作をしっかり読み込んでくださっていて、本気で映画化を実現させようという“信頼感”みたいなものがヒシヒシと伝わってきたので、企画の段階ではありましたが快諾させていただきました。

――映画化されるにあたって、「これだけは守ってほしい」「これだけは譲れない」など、何か条件は出されたのでしょうか?
呉:お願いしたのは1点、映画の最終的な着地点に関してだけです。悪が勝ったとか、化け物にやられたとか、いわゆる露悪的な快感だけで終わってしまうのは本意ではないと。ただ、物語的には悪が優位に立ち、警察側の人間は踏みとどまるしか手立てがないという状況ですし、さらに映画化となれば役者さんたちの力強い演技によって“ダークヒーロー”みたいな流れになってしまうのも否めないところ。観客の受け止め方はコントロールできないので、結果的にそうなる分にはいいのですが、製作側は最初からそれを意図しないでいただきたいと。とにかく妥協せず、ベストを尽くしてくださいとお伝えしました。
――完成した作品をご覧になっていかがでしたか?率直な感想をお聞かせください。
呉:最初は、原作で描かれたシーンが「どう映像化されたのか」を一つ一つチェックするような見方をしていましたが、途中からそんなこともすっかり忘れ、気がつけば一人の観客として映画の世界に没頭していました。とにかく役者さんたちの存在感が際立っていましたね。原作は文字を通して思考の流れを追っていく設計でしたが、映画では役者さんたちの素晴らしい演技によってそういった理屈や言葉が無効化されていました。観終わった後も、その空間から抜け出せないほどの没入感があり、改めて永井監督やスタッフ陣の力量を感じました。今は、原作者として自分の伝えたかったことが映画で伝わっているかどうかを冷静に判断できる段階ではなく、映像空間の感染力や引力に心が引っ張られている状態です。

●芝居の手札をぶつけ合う俳優陣が圧巻だった
――俳優陣それぞれが凄まじい熱量を持って“爆発”していた印象を受けました。
呉:確かに物凄い熱量でしたね。スズキタゴサクを演じた佐藤二朗さんの演技のバリエーション、それを受け止める山田裕貴さんの懐の広さ、脇を固める方々の演技も素晴らしかったです。原作者としては本当に幸福でした。 自分がイメージしていたものと全てが合致しているわけではありませんが、文字だけでは表現しきれないものを映像化していただいたという点では文句のつけようがありません。


――いい意味で、呉先生のイメージを遥かに超えていたシーンはどこですか?
呉:やはり、佐藤さん演じるスズキタゴサクと山田さん演じる類家との緊張感あふれる取調室での心理戦ですね。あのシーンは2時間半続いても見応えがあったと思います。お互いに芝居の手札をたくさん持っていて、それを思い切りぶつけ合ってるところが圧巻でした。あと、爆弾捜索に駆けずり回る沼袋交番勤務の倖田(伊藤沙莉)と矢吹(坂東龍汰)のコンビも、コミカルなやり取りも含めて凄くよかった。映画にいいアクセントを与えていたと思います。

――今、芝居の手札というお話が出ましたが、染谷将太さんも等々力というどこか世の中を諦めたような刑事を見事に演じていました。
呉:映画化する上で、最も演じるのが困難な役が等々力だと思っていました。小説の中では、彼の心理だったり、価値観だったり、バックボーンだったり、内面にあるものを地の文章で全て吐露しているので、それがキャラクターのベースになってるんです。だから彼はこういう行動を起こすのか、だから彼はこういうセリフを吐くのか、その辺りが説明されているわけです。ところが、映画ではそれができないわけですよね。物語の筋だけを追ってもおそらく伝わらない。それを染谷さんは瞬時にして等々力に憑依し、その存在感だけで土俵際まで押し切ってくれた。シンプルに凄い役者だなと思いました。


――確かに。取り調べを行う刑事の人生が浮かび上がってくるところもこの作品の魅力ですね。渡部篤郎さん演じる清宮には敗者のような哀愁が漂っていました。
呉:『ケイゾク』(TBS系・1999)というドラマが大好きで、リアルタイムで観ていたんですが、キャリア組の生意気な警部補を演じていた渡部さんの大ファンだったんです。そんな憧れの役者さんが、まさか僕が創り出したベテラン刑事を演じてくださるなんて…これもご縁というか、とても感慨深いものがありました。

●映画『爆弾』は本当に幸福な映像化だった
――今回、初めて映画化をご経験されたわけですが、今後もこうした企画があれば、トライしてみたいお気持ちはありますか?
呉:映画化だったり、漫画化だったり、映像化を承諾した時点で、その方々のプロジェクトであり、作品になるので、基本的にその企画に対して僕から細かい注文を出すことはほとんどありません。むしろ、僕の想像を超えたものを観てみたい、という好奇心の方が強いですね。ですから、よほど「さすがにこれは…」という企画でない限り、オファーを受けたら前向きに考えていきたいと今は思っています。

――なるほど、映像化するお話が決まったら、結果どうあれ運命共同体、そのまま一緒に突っ走るという感じですね。
呉:そもそも僕が、なんの保証もなく作品を出版させていただいている立場なので、映像化がどんな結果になろうと、一つの経験として真摯に受け止めたいと思っています。僕自身、結果保証を求められる社会では生きていけないので…。ただ、基本的なマインドとしては、どうせ映像化するなら思いっきり“冒険”してほしい、というのはありますね。「期待を裏切らないよう手堅く作りましょう」というのも、それはそれでいいんですが、プロジェクトとしてはあまり惹かれないので。そういった意味では今回の『爆弾』、一発目としては本当に大冒険でしたし、幸福な映像化だったなと思います。
取材・文:坂田正樹
<Staff & Cast> 出演:山田裕貴、伊藤沙莉、染谷将太、坂東龍汰、寛一郎、片岡千之助、中田青渚、加藤雅也、正名僕蔵、夏川結衣、渡部篤郎、佐藤二朗/原作:呉勝浩「爆弾」(講談社文庫)/監督:永井聡/脚本:八津弘幸、山浦雅大/主題歌:宮本浩次「I AM HERO」(UNIVERSAL SIGMA)/配給:ワーナー・ブラザース映画/公式サイト:bakudan-movie.jp/公式X:@bakudan_movie/公式Instagram:@bakudan_movie
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©呉勝浩/講談社 ©2025映画『爆弾』製作委員会












