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MAY 19, 2024 インタビュー

キングズリー・ベン=アディル、ボブ・マーリー漬けだった撮影期間を振り返る「プレッシャーで押し潰されそうだった」

カリブ海の小国ジャマイカで生まれ、世界の巨星となった伝説のアーティスト、ボブ・マーリー歴史的名盤と言われるアルバム『エクソダス』は、グラミー賞特別功労賞生涯業績賞・殿堂賞、国連平和勲章受賞、”Hollywood Walk of Fame”への殿堂入り、さらには米タイム誌により「20 世紀最高の音楽アルバム (the best music album of the 20th century)」 に選出されるなど数々の栄誉に輝き、愛と希望に満ちた音楽は、今もなお世界中の人々に影響を与え続けている。

来日したボブ・マーリー役のキングズリー・ベン=アディル

そんな世界的レジェンドの知られざる激動の日々を描いた映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』がついに日本劇場公開(5 / 17)の日を迎えた。PRのため来日していた主人公ボブ・マーリーを演じたキングズリー・ベン=アディルは、「プレッシャーで押し潰されそうだったが、今日、この日(映画公開)のために苦難を乗り越えてきた」と感無量の様子。約1年間、ボブ・マーリー漬けだったというキングズリーに、その“苦難”の道のりを聞いた。

●減量、筋トレ、弾き語りにパトワ語習得…まさに修業の日々

インタビュー・ルームに入ると、そこに佇んでいたのは、スラッと背の高く、紳士的な笑顔が印象的な好青年。あまりにもボブ・マーリーのイメージと違い過ぎて、彼の隣に飾ってあった映画のポスターを観ながら、「これは本当にあなたですか?」と失礼な質問をいきなりぶつけてしまった。するとキングズリーは笑いながら、「確かに違い過ぎるけど、正真正銘、僕だよ!」と反応し、その流れで役づくりの話に花が咲く。

ボブ・マーリーを体現してみせたキングズリー

「最初はちょっと痩せ過ぎてしまったんだ(当サイトの単独インタビューでレイナルド・マーカス・グリーン監督が20kgまで落としたと証言)。映像をチェックすると、筋肉は落ちているし、顔も細くなり過ぎて…。本人はもっと力強く、エネルギッシュだったので、『これはボブじゃない』と思って体を作り直し、最終的には6kgの減量まで戻したんだ。ジャマイカでの撮影は熱いから、それに耐えうるだけの体力も必要だったしね」と振り返る。

さらに、独特のドレッドヘアーは特注ウィッグ、鼻は特殊メイクで形成し、「鼻先の方を少し上にあげているのがポイント」なのだとか。身体動作に関しては、ラミ・マレック(『ボヘミアン・ラプソディ』のフレディ・マーキュリー)やオースティン・バトラー(『エルヴィス』のエルヴィス・プレスリー)を担当したムーブメント&コレオグラファーの第一人者ポリー・ベネットがコーチングに参加したそうだが、特にステージ上で魅せるトランス状態のようなボブのパフォーマンスは、本人が地上に舞い降りたかのような動きを体現している。

そんな中、一番苦労したのが、ジャマイカで話されるパトワ語の発音だったのだとか。「歌に関しては、ライブシーンはボブの声に僕の声をかぶせるカタチをとっているが、妻に歌を聴かせるシーンや、アルバムを作るシーンなど、弾き語りで表現するところは、声を極力リラックスさせながらボブに寄せて僕がソロで歌っている。そこは結構、手応えは感じているんだ。ただ、パトワ語は本当に難しかった。英語をベースとした言語なんだけど、一般的に思われているパトワ語とは全く違っていて、役者としては最もハードルの高いチャレンジだったよ」

●1年間ボブ・マーリー漬け…長く険しい道のりだった

演じる前から、ボブ・マーリーの曲はよく聴いていたというキングズリー。「熱狂的なファンというわけではなかったけれど、ロンドンにはカリブ系の文化が存在していて、カーニバルもたくさん行われていたので、4~5歳の頃からボブ・マーリーの存在は知っていたし、曲もよく聞いていたんだ。ただ、彼がどんな歴史を歩んできたのかリサーチしていくうちに、彼のことをまったく知らなかったことに気づき、この映画の準備期間中、全てのことを学んだんだ。それこそ、『出会ったこともないのに、ここまで知ってていいのか?』というくらいにね(笑)」

ボブ・マーリーという人物、そして生い立ち、生き様を深く知ることによって、演技に対するアプローチもより深まったとキングズリーは振り返る。「ボブに対して、いつも笑顔で、いつもハッピー!みたいなイメージを抱いている方も多いと思うけれど、そういう捉え方にすごくフラストレーションを感じるようになったんだ」。

「本当のボブはもっとタフガイで、短所も多く、とても複雑な人間だけれど、仕事に対する姿勢、音楽に対する情熱は、『そこまでやるのか!』というくらい熱量があり、僕はそこにリスペクトを感じたんだ。天才って一筋縄でいかない人が多いけれど、本当に稀有なスターだった。ただ、一番関心があったのは、幼少期、家庭に恵まれなかった彼にとって“安らぎ”とはどういう意味を持つのか、大スターになって危険に遭遇することも多々あったが、“安心できる暮らし”に対してどんな思いを抱いていたのか…外見の見せ方以上に、ボブの心の奥底にある感情を深く掘り下げることに力を注いだよ」。

「内なる闘志」…ボブ・マーリーを演じる上で、この言葉を肝に据えていたというキングズリー。オーディションでこの役を勝ち取ったものの、演じる喜びなど微塵もなく、「それはそれは、遠く、果てしなく、険しい道のりだった。プレッシャーで押し潰されそうだった」と思いをかみしめる。「やっと映画が公開されたが、全てはこの日のために乗り越えてきたんだ。今はとてもハッピーだし、ワクワクしているし、どんな受け止め方をしてくれるか好奇心でいっぱいだね」と笑顔を見せる。

本作には、プロデューサーのジギー・マーリーをはじめ、ボブ・マーリーの家族が多数参加しているが、キングズリーは、彼らとのコラボレーションを「貴重な体験だった」と感慨深げに述懐する。「今から考えると、この映画は、マーリーの家族から偉大なる父であり夫であるボブへの“ラブレター”だったのかもしれないね」。

(取材・文・写真:坂田正樹)

<Story>  1976 年、カリブ海に浮かぶ小国ジャマイカは独立後の混乱から政情が安定せず、対立する二大政党により国民は分断されていた。僅か 30 歳にして 国民的アーティストとなっていたボブ・マーリー(キングズリー)は、彼の人気を利用しようとする国内の政治闘争に巻き込まれ、同年 12 月 3 日に暗殺未遂事件が起こる。僅か 2 日後、ボブは怪我をおして、その後伝説となった「スマイル・ジャマイカ・コンサート」のステージに立つが、身の危険からすぐにロンドンへ逃れる。

ロ ンドンでは「20 世紀最高の名盤(タイム誌)」と評されるアルバム『エクソダス』の制作に勤しみ、ヨーロッパ主要都市を周るライブツアーを敢行。かのザ・ ローリング・ストーンズやザ・クラッシュと肩を並べ、世界的セレブリティの階段を駆け上がる。一方母国ジャマイカの政治情勢はさらに不安定化し、内戦の 危機がすぐそこに迫っていた。深く傷ついたジャマイカを癒し内戦を止められるのはもはや政治家ではなく、アーティストであり国民的英雄であるこの男だけだった….

<Staff&Cast> 監督:レイナルド・マーカス・グリーン(『ドリームプラン』)/」出演:キングズリー・ベン=アディル(『あの夜、マイアミで』)、ラシャーナ・リンチ(『キャプテン・マーベル』『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』)/脚本:テレンス・ウィンター(『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』)、フランク・E・フラワーズ、ザック・ベイリン(『グランツーリスモ』)、レイナルド・マーカス・グリーン/原題:Bob Marley: One Love/公式サイト:https://bobmarley-onelove.jp/

© 2024 PARAMOUNT PICTURES

映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』は5月17日(金)より 全国公開中

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