都内・ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催中の「カンヌ監督週間in Tokio 2024」に、14日(土)、監督週間・短編部門に選出された『とても短い』が東京プレミアを迎えた。上映後のトークイベントには、山村浩二監督、カンヌ監督週間・アーティステックディレクターのジュリアン・レジが出席し、カンヌ国際映画祭での思い出やアニメ制作の舞台裏について語った。なお、前東京国際映画祭プログラミングディレクター、矢田部吉彦がMCを務めた。
「カンヌ監督週間in Tokio 2024」は、第77回カンヌ国際映画祭<監督週間>に選出された最前線の映画たちに出会う12日間(12月8日〔日〕〜12月19日〔木〕)。世界中の映画祭で引っ張りだこの山村浩二監督が手掛けた最新アニメ『とても短い』は、米国人の翻訳家が企画者となり、古川日出男の原作を古川本人が情熱的に朗読。東京を舞台に、ある男の一生と「だ」という音から始まる言葉の数々が縦横無尽に画面を駆け巡るアニメーションが日本文学と合体した異色作。上映会には、山村監督の名を国際的に知らしめた『頭山』ほか珠玉の短編作品7本が公開された。
●イベントレポート
カンヌ監督週間に選出されたことについて、山村監督は「若い才能の中に混ぜていただいて嬉しかったです。長年、アニメーションとはいえ、つねに映画を意識して作ってきたので、やはりカンヌ国際映画祭は大きな存在でしたからね。何か機会があったら行きたいとずっと思っていました。今回、その夢が叶って、10日間、フルで楽しませていただきました。ここで上映されている作品も現地でたくさん観ることができましたし…選んでいただいて本当にありがとうございました」と感謝を口にする。
選考にあたったジュリアンは「この作品は、ビジュアルポエムというような作品になるので、簡単に語ることはできませんが、私もほかの選考委員も、すごく簡潔でありながら、とても濃密である部分に惹かれました」とその理由を明かし、さらに「短時間の作品の中に、人の誕生から死まで凝縮されている部分も素晴らしかった」と賞賛の言葉を贈った。
早稲田大学と米国カリフォルニア大学ロスアンゼルス校との共同連携事業である「柳井イニシアティブ」による文学ビデオの制作プロジェクトとして作られた本作は、日本語で書かれた短編小説を作者が朗読し、日本国内外の革新的なアーティストによるアニメーションを組み合わせた新しい短編アニメ映画シリーズの第1弾。言葉と体が融合した独特のグラフックについて山村監督は、「身体性みたいなことは考えていて、言葉も体があると思いますし、人間も言葉によってアイデンティティーが形成されていくもの。心を概念化して理解していくわけですから、結局、言語の影響を知らず知らずのうちに受けていると思うので、われわれの体も言語からできている、というイメージですね。特に漢字は文字自体が形になっているので」と解説する。
また、日本語で勝負したことについて山村監督は、「さほど(日本語)が問題になるとは思っていませんでした。長年、映画祭に参加していて、翻訳で苦労する部分もあったんですが、今日上映していただいた一番古いアニメ『頭山』の音声を聞いた時に、『これを翻訳するのは無理だ』と。逆にあの声を聞けば興味を持ってもらえるんじゃないかということで字幕対応にした経緯があったので、今回も全く心配していませんでした」と自信をのぞかせた。
独特の山村ワールドに興味津々のジュリアンは、「文学以外の芸術からインスピレーションを受けることがありますか?」と質問。これに対して山村監督は、「もともと絵画を勉強していたので、海外に行けば、美術館で西洋美術や現代美術を観たりしますが、特定のものを挙げ出すとキリがなくて……。ただ、シュールリアリズムとアニメは非常に近いところがあるので、そういった作品から大きな刺激を受けたりはしますね。あとは音楽も好きですし、劇映画も好きなので、とにかくいろんな作品から刺激を受けています」と幅広い作品から影響を受けていることを強調。
さらにジュリアンは、「あなたの作品から無声映画の影響も強く感じるのですが、何か特定の映画作家や好きな傾向の作品など挙げられますか?」と問うと、山村監督は、「映画好きの方はわかると思いますが、これが一人、二人という感じで絞れないんですよね」と苦笑い。「しいて挙げるなら、僕の作品からイメージしやすいということで、ロベール・ブレッソンの作品やジャック・タチの『プレイタイム』は大きな刺激を受けましたね。あとはルイス・ブニュエル、日本だと小津安二郎や溝口健二も大好きです」と答えると、満面の笑みを浮かべながら、「日本人監督のお気に入りが同じでよかった」とご満悦の様子を見せた。
なお、この日は、『とても短い』の原作者である古川日出男氏も観客として来場。途中、ジュリアンからマイクを向けられると、「東京に住んでいたり、東京を旅したりしている人は、それぞれ別々の東京のイメージを持っている。現実の東京とはズレていて、そのズレの中にいろんな物語があるし、またそれらの中に絶望と救済があるんじゃないか……そういうことを綴った短編集でした」と小説に込めた思いを語った。