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SEP 28, 2022 インタビュー

中途半端は嫌!映画・ドラマ化は最高か最悪のどちらかで…漫画家・鳥飼茜×作家・爪切男が独断で語る原作者の思い

漫画家・鳥飼茜×作家・爪切男 インタビュー
鳥飼茜×爪切男

取材先のガールズバーで、偶然出会ったという鳥飼茜と爪切男。かたや売れっ子の人気漫画家、かたや連載を始めたばかりの新人作家、その時、二人の間にどんな化学反応が起きたのか知るよしもないが、最初はどうにも噛み合わせが悪く、お互いバチバチの状態だったという。あれから5年、相変も変わらずマウント合戦を繰り広げながら、時には皮肉を言い合い、時にはお互いを褒め称え、時には腹の底から笑い合う、ざっくばらんな関係を築いてきた不思議な二人が、久々に公の場で顔を揃えた。

こんな機会、滅多にない。さて、何を聞こうか。鳥飼は漫画『地獄のガールフレンド』(フジテレビ系でドラマ化)に続き、『ロマンス暴風域』がMBS/TBSドラマイズムにて今年7月にドラマ化されたばかり。一方、爪も私小説『死にたい夜にかぎって』が鳥飼と同じ局の枠で2020年にドラマ化され、最新エッセイ『きょうも延長ナリ』も映像化への期待がかかる。だったら、自身の作品に他人の手が入る“原作者側”の気持ちを聞いてみてはどうか。

当サイトでは、漫画や小説を映像化する監督にその苦労や醍醐味はさんざん聞いてきたが、元の想像主である原作者の赤裸々な思いは聞いたことがない。オファーが来た時、正直どんな気持ちなのか、原作者は内容のどこまで関与できるのか、ギャラはどのくらいもらえるのか、作品が駄作だったら腹が立つのか等々、普通の漫画家、小説家なら体裁よくあしらわれる内容も、この二人なら、きっと本音で語ってくれるはずだ…。そんな思いでいざ、対談に突入した。

●お互いに「飾らない」「きれいごと」を言わない関係性

――第一印象は最悪だったと聞いていますが、特に鳥飼さんはいきなり爪さんの塩攻撃を食らったとか?

鳥飼:『ロマンス暴風域』を週刊SPA!で連載することになって、風俗店をいろいろ取材してたんですが、その中にガールズバーもあって、編集者が「風俗慣れした人が一人いるから連れていきます」って言って連れてこられたのが爪さんだったんです(笑)

――それまでは面識なかったんですか?

:鳥飼の漫画は読んでいましたが、面識は全くありませんでした。まだ僕は本を出していなかったですね。日刊SPA!などで連載を始めたぐらいの頃です。

――鳥飼さんは爪さんになんと言われたんですか?

鳥飼:爪さんは、「最初に悪い人っていう印象を与えておけば、後々少しでも良いことをすると株が上がりやすいので、初対面の印象を悪くしておく」という手段を採用しているらしく(笑)、結構なことを言ってきたんですよ。なんか、「調子に乗ってるよね?」みたいなニュアンスで。

:初対面の相手に対して、もはや「失礼」といってもいいぐらいのめちゃめちゃなショートパンツ(?どんなパンツだ?)で来たんで、「俺とは住む世界が違いますね」みたいな嫌味を言ったんじゃないですかね。

――今はどんな関係性なんですか?

鳥飼:最近はそんなに遊ばなくなったけど、割となんでも話し合える仲ですね。出会いがそんな感じだったから、こちらも飾る必要がないので。

:確かにきれいごとはお互い言わないよね。

――どんな話をするんですか?

:その時々によっていろいろですが、鳥飼の恋愛話が多いですかね。

鳥飼:私が付き合う相手との間にいつも問題を抱えているパターンが多いので、相談というか、聞いてもらっている感じ。だから、お母さんみたいな存在(笑)

:いつも話をしていて思うのが、僕たちは結構似ているところがあるなと。人の悩みは手に取るようにわかるんですよ。そしてお互いに的確なアドバイスをする。でも、二人とも、それを自分の恋愛に全く活かしていない。人に言ったことを自分でも実践すればいいのに、それができないってところがすごく似ていると思います。

鳥飼:そうだね。だから、人生遠回りしているのかもしれない。

●作品に対しては本音で称え合う真摯な二人

――お互いの作品についてはどんな感想を持っているんですか?まず、爪さんから聞きましょうか。『ロマンス暴風域』はいかがでしょう?

:あの主人公の勘違いっぷりがすごいなと思いました。僕もめちゃめちゃ風俗に行ったけれど、風俗嬢と恋愛関係になりたいという希望を持ったことがありません。僕の場合、“予防線”を張るというか、ああいうことにならないように“思考”を作っていくので、読んでいてとても新鮮でした。無防備に風俗へ行く主人公、すごいなと。

『ロマンス暴風域』(扶桑社)
『ロマンス暴風域』(扶桑社):週刊SPA!にて連載された衝撃作、待望の単行本化。婚活がうまくいかない高校の臨時教員サトミンが気分転換に行った風俗でせりかと恋に落ちる。客と風俗嬢からスタートした二人の恋の行方は?

――予防線を張って風俗に行くって面白いですね。鳥飼さんは爪さんの作品についていかがですか?

鳥飼:面白い人だなと思うのは、人柄はさておき(笑)、書き物に対してはすごく真面目。さっき予防線を張ると言ってたけれど、文章の中にも予防線がいっぱい張ってあって、相当な照れ屋さんだなと。自分でもそこは自覚していて、予防線をなんとか取り払って違うものに変えていこうと奮闘しているところが面白い。最初に読んだのが『死にたい夜にかぎって』だったんですが、男の人が、ここまで私生活のことに裸一貫で向き合っていることを表沙汰にするって、私、かっこいいと思いました。女性に振り回されてるってことを、普通は隠したがりますからね。

――最新エッセイ『きょうも延長ナリ』はいかがですか?

鳥飼:この人は風俗に行って、普通にイチャイチャするとかじゃなくて、変な遊び方するんですよね(笑)。これもきっと予防線だと思いますが、そこには女性に対して侮蔑があるのか、リスペクトがあるのか…私はどっちも感じてしまうんです。それを爪さんは全く隠さないので、こちらも、「リスペクトだったらいいな」とか、「これは侮蔑と違うの?」とか、あっちこっちに思いを馳せながらも、飾らない文体に気を許してさらっと読めてしまう。男の人の生態を自然に見せてくれるところはすごいなと思います。

『きょうも延長ナリ』(扶桑社)
『きょうも延長ナリ』(扶桑社):風俗店での”恋愛ごっこ”エッセイ。毎日退屈で満たされない40男が、狭いホテルの一室で風俗嬢と二人きり。一緒にかくれんぼをしたり、サッカーを観戦したり、ときには女性を励ましたり…”Hなこと”をするだけでは終わらない、ちょっとおかしな風俗回遊記。

●風俗を題材に描くのは一つの方法論でしかない

――お二人は作品を書くとき、どのようにテーマ決めをしているんですか?

鳥飼:自分の生活圏内で起こったことや直接聞いた話の中心にいる人は、果たして何に困っているのか…?そこにすごく興味があります。それを因数分解すると自分も同じものを持っているはずだから。そこに今の状況や時勢を照らしつつ、いろんな条件を入れていくと、「あ、こういう悩みのカタチになるのか」と。それを逆算というか、「この人は何を解決したいのか」を考えて、それが面白そうだったら描いてみる。そんな感じですかね。

:何?因数分解って。そんなこと考えたこともなかった(笑)。僕の場合は、根がアマノジャクなので、人がやりたがらないジャンルなら、あえてやってみようかなと。誰かに頼まれたわけでもないのに、勝手な使命感を持つというか、言い換えれば反骨心かもしれないですね。今回の『きょうも延長ナリ』もまさにそれですが、ただ、断ってもよかったなと今は思ってます。書き始める前、「風俗を題材にした週刊連載。これはしんどくなるぞ」って覚悟はしていたんですが、想像の何倍もきつかった(笑)

『きょうも延長ナリ』(扶桑社)挿絵
鳥飼茜が描いた『きょうも延長ナリ』の挿絵

鳥飼:私も連載中は、そのエッセイに合わせて女の子の挿絵を描かせていただいたんですが、結構しんどいなって思いました(笑)

:初めてですよ、書いているジャンルのことを嫌いになりかけるぐらい作品と向き合ったのは。「どうせ風俗バンザイの本なんでしょ?」と言われることがあるんですが、必ずしもそうじゃなくて、つらい人生を生き抜く上での一つの方法論として、風俗に通い詰めていた頃の自分と風俗嬢たちが織り成す人生賛歌を書いたつもりです。僕はプロレスが大好きなんですが、かといってプロレスだけに救われてきたわけじゃない。女の子に、音楽に映画にシーチキンにグミにSEGAに広島カープに救われてきました。。これも一つの予防線になりますが、好きなものはたくさんあったほうがいい。人生って何が救いになるかわかりませんから。昔の僕にとっては風俗が救いでしたが、今の僕には文章を書くことが一番の救いなんだなと、この作品を書いていて思いました。

漫画家・鳥飼茜×作家・爪切男 インタビュー

●ドラマ化はプロフェッショナルにまかせるのが正解

――お二人とも作品がドラマ化されていますが、原作者としてのお気持ちを聞きたいと思っています。まずはオファーが来た時、やっぱり一瞬、舞い上がったりするものなんですか?

:『死にたい夜にかぎって』を出したばかりで、まだまだ知名度がない時、なぜかサウナでトークイベントをしたんですね。ただ、参加者はたったの2名(笑)。でも、そのうちの一人が、『アンナチュラル』(18年、TBS系)や『リバース』(17年、TBS系)などの人気ドラマを手掛けた村尾嘉昭監督だったんです。映像化なんてそんな簡単に話が進むもんじゃないと伝え聞いていたので期待はしていなかったんですが、こんなコアなイベントにわざわざ来てくれて、しかも一緒に裸になってサウナまで入ってくれた監督さん、ちょっと面白いなと思って。この人になら自分の作品を託してもいいかなと思っちゃったんですよね。

ドラマイズム『死にたい夜にかぎって』告知ポスター
ドラマイズム『死にたい夜にかぎって』告知ポスター

鳥飼:ドラマ化をオファーするために、その方はイベントに参加してきたの?

爪:そう。ある程度、配役も決めて、プロットまで書いて持ってきてくれたんです。だから、もうそこで、「好きにやってください」と即答しました。ただ、主人公役に賀来賢人さんの名前を出してきた時は、「業界特有のお友達アピールか?」とちょっと懐疑的になりましたが、しばらくして、「OKもらいました!」と連絡をもらった時は驚きましたね。

――『死にたい夜にかぎって』の時は、イレギュラーな形で進んでいきましたが、そもそも原作のドラマ化自体は、爪さん的にはウェルカムなんですか?

:もともと僕の作品を映像化するのは難しいんじゃないかなと思っていて。露骨な性描写もたくさんあるし、結構センシティブな内容も含まれているので、演じる人が大変だと思うんです。原作者は別にいいんですよ。映像化すれば善くも悪しくも話題になって本が売れたりするかもしれないし。でも、俳優さんは信じられないくらい攻撃を食らったりするから。「原作に失礼だ!」とか。しかもその頃、賀来さんは『今日から俺は!!』(18年、日本テレビ系)に出演して、だんだん世間の認知度が伸びている時だったので、心配の方が大きかったです。

――なるほど。ご自身のことより俳優のキャリアを…。

:まぁでも、映像化は基本的にはウェルカムだし、決まったらノータッチで全ておまかせしたいです。何でもそうだと思いますが、餅は餅屋みたいな感じで、多分、その道のプロの方が思うようにやった方がいいんじゃないかと。それでも少なからず嫌なことって出てくるんだろうなと思ったら、『死にたい夜にかぎって』の時は一切なかったので、僕は運がよかったです。

――鳥飼さんは、『ロマンス暴風域』が2作目のドラマ化ですが。

鳥飼:別にマウント取るわけじゃないけど(笑)、まず漫画と小説では業界が違うのと、連載とかもやりだしてもう10年くらい経っているから、正直言うと、全作品お話は来ているんですよ。

ドラマイズム『ロマンス暴風域』告知ポスター
ドラマイズム『ロマンス暴風域』告知ポスター

――それはすごいですね!

鳥飼:いやいや、それは別にすごいことじゃなくて、結局、大量の漫画に唾をつけられているということなんです。つまり、これはあくまでも推測ですが、映像化は絶対無理という作品でなければ、商業誌に載っている連載漫画は、どこかの映像制作会社なり、テレビ局なりがほぼ声をかけているだろうし、何なら企画書が来ている方は多いと思うんです。私も最初の頃は、すごくうれしくて、このキャクターはこの人がやって、あのキャラクターはあの人がやってとか、中学生みたいに夢が広がって「実現したらいいなぁ」と思ってたんですが、スポンサーがつかなかったり、キャストが集まらなかったり、全部ことごとく流れてしまって…それからは「ほぼ現実化しない夢の提案のようなもの」と思うようになりました。

――『ロマンス暴風域』は爪さんの『死にたい夜にかぎって』と同じ枠、MBS/TBSのドラマイズムですよね。

鳥飼:今回に関しては、今年の4月に企画が来て、7月の頭に放送だったから、もう声がかかった時点で確定案件だったんです。全5話、枠も決まってます、OKが出たらすぐに動きます、みたいな感じでスムーズに話がまとまっていきました。

――爪さんよりもさらに企画が固まった状態で話が来たんですね。

鳥飼: 何かの事情で、枠が空いたのかなと憶測しています。私は爪さんと逆で、「失敗したくない」「自分の作品を変にしてほしくない」という気持ちの方が強かったんですが、餅は餅屋というのは確かに合っていて、「じゃあ、私が何か言って面白くなるのか」というと、結果、邪魔してしまっただけって事もこれまで経験したので、今回は私もプロの方々におまかせすることにしました。

ドラマイズム『ロマンス暴風域』場面写真
ドラマイズム『ロマンス暴風域』より

――結果、ドラマの出来はいかがでしたか?

鳥飼:実は全く期待していなかったんですが、びっくりするくらいいいドラマになっていました!自分の漫画が原作だということを差っ引いても、すごくいいのができたので、やっぱりおまかせしたほうがいいんだなと思いました。

:いやぁ、毎回オープニングがかっこよかったですよ。デカ文字で「原作 鳥飼 茜」って名前が出てて、これは原作者うれしいよなーって。

鳥飼:ドラマイズムという枠がよかったんだよね?

:そう。あの枠はかなり自由度があっていいですよね。プロデューサーさんは、確か『死にたい夜にかぎって』と同じ方だったと思います。

ドラマイズム『ロマンス暴風域』場面写真
ドラマイズム『ロマンス暴風域』より

――ちょっと話が戻りますが、脚本に関してはどうでしょう。原作者が一番口を挟みたくなるところじゃないかと。

鳥飼:企画の段階で1話だけ送ってきたのを読んで、めちゃくちゃ面白かったんです。脚本家の開真理さんは、目指すべき方向を自分なりに持っているというか、私の漫画に頼ろうとしていないなと。それがわかったから、もうラストがどうなろうがおまかせしようと思いました。

――通常、原作者は事前に脚本チェックを必ずやるものなんですか?

鳥飼:脚本は必ず原作者はチェックしなければならなくて、地味に大変な仕事なんです。今回は5話しかなかったですが、映画だと1稿、2稿、3稿と何回も目を通さなきゃいけないので。でも、気になる箇所があったら、あとで言えないので、原作者にとってはずせない作業なんです。

――爪さんもチェックするんですか?

:僕は全く読みません。だって、読んで気になったらひとこと言いたくなっちゃうから。それに『死にたい夜にかぎって』の脚本は、加藤拓也さんという才能に溢れた方が書いてくださったので、下手にその人の感覚に口を出してもいい結果は生まれないので、「どうぞ!やっちゃってください!」と丸投げみたいな(笑)。まあ、相手はその道のプロですしね。

鳥飼:結局、そこだよね。相手はみんなプロなんだからベストを尽くすでしょ、みたいな。

:撮影現場へ行くと余計そう思いますよ。監督もカメラマンさんもメイクさんもみんなプロフェッショナルで。原作者だからといっていろいろ口出しするのは何か違うなと。

――最終的に、ドラマのクオリティーもプロにおまかせするしかないわけですね。

:酷いドラマができても、原作者は比較的ノーダメージなので。でも、中途半端が一番よくない。何も話題にならないくらいなら、ネットで盛り上がるくらい最悪な出来の方がいい。

鳥飼:確かに中途半端はだめ。何もかすらないのが一番嫌!(笑)

漫画家・鳥飼茜×作家・爪切男 インタビュー

ちなみに、ギャランティーの話も大いに盛り上がったが、掲載できない表現や固有名詞がバンバン飛び交ったので割愛させていただいた。ただ、大手動画配信サービスでオリジナルドラマ化されると、「かなりのビッグビジネスらしい」という噂に、二人ともひときわ目を輝かせていたことだけは伝えておこう。(ここで二人を代弁、「ビッグビジネス、心よりお待ちしております!!」) 取材・文・写真:坂田正樹

鳥飼茜(とりかい・あかね)プロフィール

鳥飼茜(とりかい・あかね)プロフィール:漫画家。1981年、大阪府生まれ。2004年デビュー。『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて『サターンリターン』連載中。著者既刊『先生の白い噓』(講談社、全8巻)が男女の性の不平等と不自由を抉り出す衝撃作として大きく注目される一方で、女3人が共同生活を通して好き勝手に語り合う『地獄のガールフレンド』(祥伝社、全3巻)も「このマンガがすごい2016オンナ編」で16位にランクイン。『ロマンス暴風域』は渡辺大知主演で、実写ドラマ化された。

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爪切男(つめ・きりお)プロフィール

爪切男(つめ・きりお)プロフィール :作家。1979年、香川県生まれ。2018年、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)でデビュー。2021年、『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)と3か月連続刊行が話題に。『死にたい夜にかぎって』は、賀来賢人主演でドラマ化を果たした。

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