昭和の映画史を彩った「日活ロマンポルノ」生誕 50 周年記念プロジェクト「ROMAN PORNO NOW(ロマンポルノ・ナウ)」として、時代の“今”を切り取った新作3本が製作された。その先陣を切って公開されるのが、山崎ナオコーラの小説を映画化した松居大悟監督最新作『手』(R18+)だ。おじさんフェチの女性と優柔不断な同僚とのリアルな恋愛模様を描いた本作で主演を務めた福永朱梨(『本気のしるし』『彼女はひとり』)と金子大地(『猿楽町で会いましょう』『サマーフィルムにのって』)に、“絡み”のシーンも含めた撮影の舞台裏について話を聞いた。
あらすじ:おじさんの写真を撮ってはコレクションするのが趣味の会社員・さわ子(福永)。これまで付き合ってきた男性はいつも年上ばかりなのに、父だけはなぜか上手く話ができずギクシャクしていた。そんな時、同年代の同僚・森(金子)がさわ子に急接近。距離が縮まっていくにつれ、彼女の心にも徐々に変化が訪れる…。
●20代にとっての日活ロマンポルノとは?
――“日活ロマンポルノ”って20代の若いお2人は、どんなイメージで捉えていますか?
福永:当時の作品に触れる機会が全くなかったので、リブートで観て知ったという感じですね。やはり男性が観るもので、女性が観るものじゃない…みたいな、ちょっと閉ざされた感じがありました。
金子:僕も同じです。性的な描写が多くて、男性が好んで観るというイメージでした。なかなか観るご縁がなかった…時代も違いますしね。
――ロマンポルノ・ナウというくくりの中での作品なので、どうしても絡みのシーンが多くなると思いますが、躊躇はなかったですか?
福永:私の場合は、松居大悟監督の作品ですし、脚本がとにかく面白くて物語の流れの中にそういう(性描写の)シーンが自然にあったので抵抗感はなかったです。一応、家族にも出演することを報告しましたが、応援してくれました。
金子:僕も監督が松居さんで、50周年記念作品ということもすごく光栄だなと思い、「ぜひ!」という感じでした。絡みのシーンは緊張しましたが、「身を削ってがんばりました!」というような重い感じではなく、監督をはじめスタッフの皆さんが本当にいい雰囲気をつくってくださったので、集中して楽しく撮影させていただきました。段取りが多かったので、どちらかというとアクションシーンのようでした(笑)
――かなりデリケートなシーンもありましたが、インティマシーコーディネーターの導入などあったのでしょうか?
福永:いえ、コーディネーターさんは特に入らなかったですが、松居監督やスタッフさんに、とても演じやすい環境を作っていただいたので、ストレスを感じることなく集中することができました。
●おじさんフェチと不安定男、キャラクターへの共感度は?
――それぞれのキャラクターについて聞かせてください。福永さんはおじさんフェチの会社員・さわ子を演じていますが、男のだらしない末路にキュンキュンしているところが面白かったです。
福永:オーディションの前に原作を読んで、年上の男性とばかり付き合っているっていうのが、私の中では、好奇心とか探求心とかがベースにあるんじゃないかなと思いました。私自身も両親の友だちとか、大人の人と接する機会が多く、年上の友だちが多かったんですが、自分が全く知らないことをたくさん知っていたりするので、話を聞いているだけで面白くて。その辺りがさわ子と重なって、「自分と近いな」という感覚はありました。
――オーディションはどんな感じだったんですか?『彼女はひとり』の時は、役をつくり込みすぎて怖がられたとおっしゃっていましたが。
福永:あ、そうでしたね(笑)。今回のさわ子に関しては全く逆で、本当に自分と近い存在だと思ったので、「私も似たようなことがありました!」みたいな話を、オーディション中、延々しゃべっていた印象があります。
――金子さんは、さわ子の同僚・森を演じていますが、まさに心も体も若さ全開、つかみどころのない感じが妙にリアルでした。
金子:おっしゃる通り若さ全開ですよね(笑)。僕自身もそんなに遠い感じではなかったです。さわ子ほど個性的ではないけれど、純粋で優柔不断。恋愛関係にある人たちって、互いに何が本当なのか、いまいちわからないところがあるんじゃないかと思って。そういう不安定さとか、フワフワした感じとか、最後の最後まで森の“人間味”の部分がわからないというところは意識して演じました。
――さわ子が帰っていく後ろ姿を見て、なんとも情けない表情をさらけだす森があわれで、情けなくて、ちょっと可愛かったです(笑)
金子:あの表情も、森に対してどういう印象を持たれるのか、映画を観た方それぞれの解釈があっていいんじゃないかなと思っています。
●気持ちの移り変わりとシンクロする肉体表現とは?
――本作のように、恋愛映画の中の性描写は、ある意味、自然な流れだと思いますが、演者としてどう取り組んでいるのか。感情と肉体が一体となっていろんな表現が生まれてくるものなのでしょうか?
福永:恋人同士でずっと一緒にいると、だんだん恥ずかしさが無くなっていくというか。森とさわ子の間にもきれいな姿やかっこいい姿ばかり見せる必要がなく、多少崩れていても気にならない関係性が見えてきたところがあったので、最後の絡みのシーンでは、“体の力の抜け方が違った”という感覚はありましたね。
――やはり感情の動きとリンクしているものなんですね。
福永:そうですね。逆に付き合い始めの時とかは、可愛く見られたいと思うから、背筋に力が入ってピーンと伸びるみたいな。誰と会っているかで、力の入り具合って変わってくると思うんですが、さわ子は特にいろんな人と会っていたから、よりそういった違いを実感できたのだと思います。
――金子さんはいかがですか?
金子:僕は特に何も考えていなかったですね。「こう思うからこうでしょ?」というよりは、気づいたら感情とリンクした動きになっていたという感じです。特に絡みのシーンに関しては、大変な撮影なので、一発で決めたいんです。カメラにちゃんと収まっているか、さわ子の顔がちゃんと見えているか、そういったことは頭の片隅に入れていましたが、あとは考えるというよりも感じたままに演じるだけでした。
●令和版ロマンポルノを流行らせたい!
――最後に映画のPRを。R-18指定ですが、より多くの方に観ていただきたい作品ですね
福永:入口はロマンポルノというのはあるかもしれませんが、性別や年齢関係なくどんな方が観ても、心に引っかかったり、心に残ったりするものがたくさんある作品だなと思います。なので、ロマンポルノの枠にとらわれずに、たくさんの人に観ていただきたいです。
金子:作品として「いい映画だな」と素直に思いました。間違いなく自信作です。本当に若い方も観やすいと思いますし、松居監督のファンの方が観ても、「また新しいことに挑戦してる!」と思える作品なので、これを機会に“ロマンポルノ”が流行るといいなと思っています。この令和の時代にロマンポルノが新たに広がったらなと。今、どう広めようか真剣に考えています。
取材・文:坂田正樹 写真:松林満美
金子大地/ヘアメイク:Taro Yoshida(W) スタイリスト:千野潤也(UM)
ロマンポルノ50周年記念プロジェクト「ROMAN PORNO NOW」第1弾『手』は9月16日(金)より全国順次公開
<日活ロマンポルノとは> 日活が 1971 年に打ち出した当時の映倫規定における成人映画のレーベル。 「10 分に1回絡みのシーンを作る、上映時間は 70 分程度」などの一定のルールと、製作条件を守れば比較的自由に映画を作ることができたため、監督たちスタッフは限られた条件の中で新しい映画作りを模索し、さまざまな表現に挑戦した。製作終了した 1988 年までの 17 年間に、約 1,100 本もの作品を公開し続けた結果、多くのスタッフ・キャストが育っていき、映画史においては、最もセンセーショナルな作品レーベルとして、現在も国内外で高く評価されている。