日本人のなかには、「忠臣蔵」のためて、ためて、ためて、ためて…いざ、「おのおのがた!討ち入りでござる!」という我慢のリズムが復讐劇の理想として根強くあるのだろうか。先日最終回を迎えた復讐ドラマ「アンチ・ヒーロー」(TBS系)もその類いの作品だが、海外(Netflix配信)では全く受けず、逆に日本では好評価、最終回まで怒りをためまくり、一気にオセロの白を黒にひっくり返す展開は、ダークな部分はあるものの実に痛快だった。
6月21日(金)公開の映画『フィリップ』も、水面下でジワジワと復讐を重ねていく日本人好みの物語ではあるが、これがまた、ひと味もふた味も違う。達成感などなく、むしろ敵をえぐり続ける持続可能な復讐劇。圧倒的権力の懐(ふところ)に潜り込んで、要領よく生き延びながら、自分たちを窮地に追いやったかの国の者たちの“心”を傷つけていくのだ。
しかも、ターゲットは女性。自身のプレイボーイ資質を生かして、夫を戦場に送り出した妻たちを次から次へとナンパしまくり、散々もてあそんで、最後は暴言を吐いて捨てる…。「必ず落として見せるさ、俺の“娼婦”にする」と息巻く主人公・フィリップ(エリック・クルム・ジュニア)は、深い憎悪が生んだ孤独な怪物だ。この歪み、あなたならどう観るか。
<Introduction> 第2次大戦、ナチス支配下のポーランド、そしてドイツ。ユダヤ人としての素性を隠して生きている美青年フィリップが、復讐、愛、死、孤独、そして時代に翻弄されながら、それでも、もがき苦しみ生きていくー。ポーランド人作家レオポルド・ティルマンドの実体験に基づく自伝的小説『Filip』(※日本未刊行)をもとに描かれた本作は、第2次世界大戦の戦禍、ドイツ人に復讐するため<復讐の女たらし>を貫こうとする男の物語。原作は1961年にポーランドで発刊後、その内容の過激さから、すぐ発禁処分に。やがて、60年の時を経た2022年、ようやくオリジナル版が出版されたいわく付きの作品だ。巨匠アンジェイ・ワイダ監督作品のプロデューサーとして、『カティンの森』『ワレサ 連帯の男』、そして遺作『残像』までの製作を手掛けたミハウ・クフィェチンスキがメガホンを執る。
<Special video> 公開に先駆け、映画に登場するキャラクターをまとめたスペシャル映像が届いた。ドイツ人への復讐のために次々と女性を誘惑し、女性たちの心を壊していくことで復讐を果たし続けるが、その裏では途方もない“孤独”を抱えるフィリップ。人種を超え“運命”と信じたフィリップと共にあろうとするドイツ人のリザ。そして、戦争に不安を抱えながら、いつも軽口をたたくフィリップの心を軽くする同僚ピエール。第2次世界大戦の戦禍、理不尽な差別を受け続けながらも、自分らしい生き方を苦しみながらも貫こうとする者たちの姿を捉えた映像となっている。
<Story> 1941年、ワルシャワのゲットーで暮らすポーランド系ユダヤ人フィリップ(エリック)は、恋人サラとゲットーで開催された舞台でナチスによる銃撃に遭い、サラや家族、親戚を目の前で殺されてしまう。2年後、フィリップはフランクフルトにある高級ホテルのレストランでウェイターとして働いていた。自身をフランス人と偽り、戦場に夫を送り出し孤独にしているナチス将校の妻たちを次々と誘惑することでナチスへの復讐を果たしていたが、孤独と嘘で塗り固めた生活のなか、プールサイドで知的な美しいドイツ人のリザ(カロリーネ・ハルティヒ)と出会い、愛し合うようになる。だが戦争は容赦なく二人の間を引き裂いていく…。
<Staff&Cast> 監督:ミハウ・クフィェチンスキ/脚本:ミハウ・クフィェチンスキ、ミハル・マテキエヴィチ (レオポルド・ティルマンドの⼩説『Filip』に基づく)/出演︓エリック・クルム・ジュニア、ヴィクトール・ムーテレ、カロリーネ・ハルティヒ、ゾーイ・シュトラウプ、ジョゼフ・アルタムーラ、トム・ファン・ケセル、ガブリエル・ラープ、ロベルト・ヴィエツキーヴィッチ、サンドラ・ドルジマルスカ、ハンナ・スレジンスカ、マテウシュ・ジェジニチャク、フィリップ・ギンシュ、ニコラス・プシュゴダ/撮影:ミハル・ソボチンスキ/美術:カタジーナ・ソバンスカ、マルセル・スラヴィンスキ/⾐装:マグダレナ・ビェドジツカ、ユスティナ・ストラーズ/メイクアップ:ダリウス・クリシャク/⾳楽:ロボット・コック/プロデューサー:ポーランド・テレビ SA/配給︓彩プロ/原題︓Filip/2022/ ポーランド/ポーランド語、ドイツ語、フランス語、イディッシュ語/1: 2/124 分/字幕翻訳:岡⽥壮平/R-15+/後援:ポーランド広報⽂化センター/映画公式 HP:https://filip.ayapro.ne.jp
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