東日本大震災から13年となる3月11日(現地時間は3月10日)、ロサンゼルスのドルビー・シアターで世界最高峰の映画の祭典『第96回アカデミー賞授賞式』が開催され、最多ノミネート(13部門)の『オッペンハイマー』が前評判通りの強さを発揮し、作品賞、監督賞(クリストファー・ノーラン)、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・ジュニア)など最多の7冠を獲得した。主演女優賞は『哀れなるものたち』のエマ・ストーンが『ラ・ラ・ランド』に続いて2度目の受賞。助演女優賞は『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』のデヴァイン・ジョイ・ランドルフが初受賞となった。
日本作品では山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』が日本映画として初の視覚効果賞(山崎貴、渋谷紀世子、髙橋正紀、野島達司)を受賞し、スタジオジブリの宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』が長編アニメ映画賞(宮﨑駿、鈴木敏夫)に輝くという快挙を達成。宮﨑監督にとっては『千と千尋の神隠し』以来、21年ぶりの同賞受賞となった。なお、ヴィム・ヴェンダース監督が役所広司を主演に日本で撮影を行なった『PERFECT DAYS』が国際長編映画賞にノミネートされていたが、残念ながら受賞はならなかった。
授賞式は、昨年に続いて司会を担当するジミー・キンメルがマーゴット・ロビーと共にマーゴット主演の『バービー』の一場面を再現した映像でスタート。4つの俳優部門の授与に際し、近年では前年度の受賞者がプレゼンターを務める方式が慣例となっていたが、今年は過去の受賞者5名が登壇するという豪華な演出に!
授賞式前半は11部門ノミネートの『哀れなるものたち』がメイクアップ・ヘアスタイリング賞、美術賞、衣装デザイン賞とスタッフ部門を次々と制しリードしていたが、『オッペンハイマー』はロバート・ダウニー・ジュニアの助演男優賞(初)を皮切りに、編集賞、撮影賞、作曲賞を獲得し追い上げる。さらにキリアン・マーフィが主演男優賞(初)を受賞し、そのままの勢いで監督賞、作品賞にも輝き、最多7冠を獲得。これまで“無冠の帝王”と称されてきたクリストファー・ノーランだったが、悲願のオスカーを獲得。監督賞の授与ではプレゼンターを務めたスティーヴン・スピルバーグと壇上で抱擁を交わした。
『哀れなるものたち』は3つのスタッフ部門での受賞に加えて、エマ・ストーンが主演女優賞(2度目)を受賞し計4冠を獲得。エマは壇上で、プレゼンターを務めた歴代の受賞者であるミシェル・ヨー、ジェシカ・ラング、サリー・フィールド、ジェニファー・ローレンス、シャーリーズ・セロンと抱擁し、涙ながらに「素晴らしいみなさんと一緒に受賞した気持ちです。みなさんから大きな刺激を受けました」と感謝を述べた。
アーノルド・シュワルツェネッガーとダニー・デヴィートがプレゼンターを務めた視覚効果賞で受賞作として『ゴジラ-1.0』が呼ばれると、山崎貴監督らは歓喜の表情を浮かべ壇上へ。山崎監督は「「40年以上前に『スターウォーズ』と『未知との遭遇』を見たショックからキャリアをスタートさせた私にとって、この場所は望む事すら想像しなかった場所でした。ノミネートの瞬間、私たちはまさにロッキー・バルボアでした。強大なライバルたちの前でリングに立たせてもらえた事はすでに奇跡でした。しかし私たちは今ここに居ます。この場所から遠く離れた所でVFXを志しているみんな! ハリウッドが君たちにも挑戦権がある事を証明してくれたよ! 最後にスタッフキャストを代表して、去年失った我々のプロデューサー、阿部秀司さんに言いたいです。「俺たちはやったよ!」 ありがとうございました!」と喜びを語った。なお、視覚効果賞を監督が受賞するのは『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリック以来、55年ぶり史上2人目の快挙となった。
なお、この一年で亡くなった映画人を追悼するコーナーでは、昨年3月に他界した音楽家の坂本龍一氏が映し出され、このほかショータイムではビリー・アイリッシュとフィニアス・オコンネルが『バービー』の“What Was I Made For?”で歌曲賞を獲得。2人は第94回の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の主題歌“No Time To Die”での歌曲賞に続く2度目のオスカー獲得となった。
『バービー』からは、ライアン・ゴズリング演じるケンが歌う“I’m Just Ken”も歌曲賞にノミネートされており、授賞式ではゴズリングがケンそのままのピンクの衣装で同曲を熱唱し、楽曲を手掛けたマーク・ロンソンとギタリストのスラッシュ、共演者のシム・リウ、キングズリー・ベン=アディルと共に圧巻のパフォーマンスを披露し、場内総立ちの喝采を浴びた。
【第96回アカデミー賞授賞式】結果報告
●作品賞:『オッペンハイマー』
●監督賞:クリストファー・ノーラン(『オッペンハイマー』)
●主演男優賞:キリアン・マーフィ(『オッペンハイマー』)
●主演女優賞:エマ・ストーン( 『哀れなるものたち』)
●助演男優賞:ロバート・ダウニー・ジュニア(『オッペンハイマー』)
●助演女優賞:デヴァイン・ジョイ・ランドルフ(『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』)
●国際長編映画賞:『関心領域』
●脚本賞:『落下の解剖学』
●脚色賞:『アメリカン・フィクション』
●撮影賞:『オッペンハイマー』
●編集賞:『オッペンハイマー』
●美術賞:『哀れなるものたち』
●衣装デザイン賞:『哀れなるものたち』
●メイクアップ・ヘアスタイリング賞:『哀れなるものたち』
●作曲賞:『オッペンハイマー』
●歌曲賞:“What Was I Made For?”『バービー』
●音響賞:『関心領域』
●視覚効果賞:『ゴジラ-1.0』
●長編アニメ映画賞: 『君たちはどう生きるか』
●長編ドキュメンタリー賞:『実録 マリウポリの20日間』
●短編ドキュメンタリー賞:『ラスト・リペア・ショップ』
●短編アニメ映画賞: 『ウォー・イズ・オーヴァー!インスパイアード・バイ・ザ・ミュージック・オブ・ジョン・アンド・ヨーコ(原題)』
●短編実写映画賞:『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』