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OCT 22, 2022 インタビュー

横浜流星主演作『線は、僕を描く』でメガホンをとった小泉徳宏監督、漫画原作映像化の秘訣は「こだわりを持たないこと」

主演を務めた横浜流星

オリジナル作品はもとより、『カノジョは嘘を愛しすぎてる』『ちはやふる』3部作など、漫画原作の映像化でも確かな手腕を発揮する小泉徳宏監督。コミックにもなった砥上裕將(とがみ・ひろまさ)の青春小説を映画化した最新作『線は、僕を描く』では、横浜流星に主演を託し、“水墨画”の魅力に引き寄せられていく青年の姿を瑞々しく描き上げた。「僕はただ、面白い映画を作りたいだけ。それがたまたま漫画原作だった」と語る小泉監督だが、果たしてその真意とは?

本作は、2020 年「本屋大賞」3位、2019年 TBS「王様のブランチ」BOOK大賞を受賞した小説「線は、僕を描く」(講談社文庫/2019〜2022コミカライズ版が週刊少年マガジンに連載)を、小泉監督を筆頭とする『ちはやふる』制作チームが再結集して映画化した青春ドラマ。大学生の霜介(横浜)はアルバイト先の絵画展設営現場で、白と黒のみで表現された“水墨画”と運命的に出会い、心奪われる。巨匠・篠田湖山(三浦友和)に声をかけられ、流れのまま弟子入りした霜介は、湖山の孫娘・千瑛(清原果耶)と切磋琢磨しながら、水墨画の世界にのめり込んでいくが…。

演出中の小泉徳宏監督

●水墨画は最も映画に向いている題材

――今回は漫画にもなった青春小説が原作となっていますが、まず、映画化したいと思った一番のポイントを教えてください。

小泉監督:知り合いから勧められて軽い気持ちで読み始めたんですが、やっぱり映画監督なので、「映像化すると、どうなるか」みたいなことをどうしても考えてしまうんですよね。この原作の場合、言うまでもなく一番のポイントは水墨画でした。僕も主人公の霜介と同じで、なんとなく知ってはいたけれど、じっくり観たことがなかった世界。この感覚は、たぶん映画を観るお客さんの大半がそうだろうなと。そんなことをあれこれ考えているうちに映像化した時のヴィジョンがどんどん湧いてきたんです。

――『ちはやふる』の競技かるたもそうですよね、なんとなくはわかるけれど、詳しくは知らない世界。だから余計に好奇心が湧いてくる。

小泉監督:そうなんですよね。ただ、すごく難しいなと思ったのは、水墨画は競技かるたのように勝敗や優劣が見分けづらいこと。2つの作品を見比べながら、「こっちの方が優れている」というセリフが原作に出てくるんですが、映像で観せると、正直、ほとんどの方は水墨画の心得がないので、「どっちも上手じゃない?」って心の中で思ってしまう。だから、映画的にちょっと難しい部分があるなと思ったんですね。そこはすごく悩みました。

――結果的に映画化されたわけですが、問題点はどう克服されたのですか?

小泉監督:水墨画という由緒あるアートを題材にしてはいるけれど、この原作の本質はあくまでも霜介の成長物語なので、その比重を大きくして、水墨画の世界とうまくリンクすれば感動的な作品になるかもしれない…。だんだんその思いが確信に変わってきたので、「これは映画化できそうだな」と思いました。あと、これは実際にやり始めてからわかったことなんですが、水墨画って実は映画向きのアートだったんです。

水墨画は映画向きの芸術(篠田湖山役の三浦)

――先程は難しいとおっしゃっていましたが、撮影中に何か新しい発見があったのですか?

小泉監督:これが驚くほどササッと描けちゃうんですよ。もちろん、そこには確かな技術の裏打ちがあってこそなんですが、とにかく仕上がりが早いんです。油絵だと何日も乾かす時間が必要で遅々として進まないところがありますが、パッと描いてパッと終わる水墨画は、時間が限られてる映画にすごく向いている。しかも、大勢のお客さんの前で大きな紙に水墨画を描くパフォーマンスがあるんですが、これが実にアスリートっぽくてダイナミック!あの迫力は水墨画にしか出せませんし、劇場の大きなスクリーンで絶対に映えると思いました。

●漫画原作を再現しようという考えは皆無

――今回、『ちはやふる』チームが再結集するということで注目していたのですが、小泉組は漫画原作を映像化するのがとても上手い印象があります。何か秘訣があるのですか?

小泉監督:最初に断っておきますと、僕自身は漫画を映画化することに対して、良いとも悪いとも思っていません。そもそもキャリアのスタートはほぼオリジナルでしたし、舞台劇の映画化もありましたし、どちらかというと漫画原作とはあんまり関係ないところで活動していました。たぶん、これは日本映画界の流れだと思うんですが、漫画の映画化が徐々に増えてきて、僕にもそのお話が回ってくるようになったということだと思います。だからそこに対してこだわりもないし、逆に言えば嫌悪感もないんです。「映画はオリジナルこそが崇高である」みたいな考えもあるようですが、結果的に映画が面白くさえあれば、何を原作にしていようといまいと、どっちでもいいのではと。

湖山(三浦)からスカウトされる霜介(横浜)

――漫画は思い入れの強いファンが多いので、リスキーな面もありますが、逆に肩の力が抜けているところが好結果を生んでいるんですかね。

小泉監督:そういった意味では、「漫画を漫画として捉えてない」ところはあるのかもしれません。これを言うと原作ファンに怒られるかもしれませんが、漫画のキャラクターがこうだから、髪型や服装もそれに寄せなければならないとか、あまり気にしていません。むしろ、そこじゃないだろうと。それよりも、この物語、この登場人物がどう変化していくのか、そして何を伝えたいのか、作品の核心を捉えることの方が大切だと思っているので、漫画自体を完璧に再現しようという考えは基本的にないんです。

――ただ、映画を観終わって思うのは、「キャスティングが絶妙だな」という印象があります。

小泉監督:キャスティングに関しては、演じる役者が原作のキャラクターに見た目が近いに越した事はありませんが、結局、映画が良くなければいくら役者が似ていても失敗してしまいます。だからまずは、映画が一番面白くなることを最優先にして選びます。「この役者がいい」と思ったら、その人の個性を生かしつつ、漫画のキャラクターのエッセンスを入れながら違和感なく寄せていく、という感じですかね。

――役者さんの個性によって、キャラクターがさらに厚みを増す感じですね。

小泉監督:漫画は読者が思う以上にいろんな事情を踏まえて出来上がっているし、漫画家さんも日々締め切りに追われて描いているので、「本当はこうしたかったのに」とか、「こんなはずじゃなかった」とか、絶対にあると思うんです。だとするとその漫画の映画化は、やり直したいと思うことをもう一度やれるチャンスでもあるのではないかと。だから僕が意識しているのは、原作者がやり残したかも知れない事を予想して、それを一歩踏み込んで提案してみるということ。ファンにとっては失礼な話かもしれませんが、そういった少々ヤンチャなシナリオの方が、意外と原作者さんが喜んでくださるケースが多いように思います。

●横浜流星の変わらぬストイックさに感服

――横浜流星さん、清原果耶さん、切磋琢磨し合う若い二人の演技が素晴らしかったですね。

小泉監督:実は撮影が1年延期してるので、横浜さんをキャスティングしたのは2~3年前なんですよね。その時はまだ映画の単独主演作がなかったので、この作品が初主演作になるはずでしたが、コロナの影響で機会を逃してしまいました。

1年半かけて水墨画を練習した横浜

――完成披露の舞台でもおっしゃっていましたが、『ちはやふる』のオーディションにも参加していたんですね。

小泉監督:もう6~7年前ですよね。その時は縁がなかったんですが、若手俳優が夢半ばでたくさん辞めていく中で、あきらめず、着実にキャリアを重ね、主演を張れるまでに成長した姿を見せてくれたことが嬉しかったですね。これだけ売れてイケメンなのに、スレたところが一つもなく、好青年でストイックなところは昔と全く変わっていない。これは霜介に向いてるなと感じました。当時の横浜くんは、真面目で内向的なキャラクターってあまり経験がなかったと思いますが、むしろ彼の本質に近いと思ったんです。

――水墨画も相当練習されたと聞いています。

小泉監督:特に強要したわけではないですが、とにかく彼はストイックなので、一生懸命練習していましたね。他の仕事も忙しい中で、彼は主役としてこの映画に説得力を持たせるために必死に努力してくれました。出演が決まってから1年半くらいは練習していたと思いますよ。

水墨画で切磋琢磨する霜介(横浜)と千瑛(清原)

――清原さんは『ちはやふる -結び-』でご一緒していますよね。小泉監督から観た彼女の魅力とはどんなところでしょう?

小泉監督:『ちはやふる -結び-』の時は15~6歳だったと思いますが、清原さん、大人になりましたね。本作の撮影当時は19歳でしたが、もう出来上がっている感じがして(笑)。もともと精神年齢が高いのは知っていたんですが、再会して本当に驚きました。でも、この実年齢よりも大人びた感じが千瑛役にピッタリだなと思いました。水墨画の腕は確かだけれど人間的にはまだまだ未熟、完成されているようで完成されていない、みたいな曖昧なところの表現が彼女ならできると思ったんです。横浜くんとも、恋愛でもない、友達でもない、絶妙な関係性を一緒に作っていけるんじゃないかと。

19歳(撮影当時)と思えぬ大人っぽさが魅力の清原

――水墨画という世界で青春している横浜流星と清原果耶、なんだかワクワクしてきました。

小泉監督:水墨画というこれまで馴染みのなかった題材で映画を作りましたが、それはあくまでもきっかけであって、本当に描こうとしていることは、一歩踏み出すってことだったり、自分を見つめ直すことだったり、すごく普遍的な成長物語になっていると思います。なかなか次に進めずに悩んでる方もたくさんいると思いますが、何かやり始めることの勇気、大切さを感じていただけたら嬉しいですね。(取材・文・写真:坂田正樹)

映画『線は、僕を描く』は10月21日より全国公開中

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