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FEB 20, 2025 インタビューおすすめ

観客の“想像力”の数だけ恐怖が生まれる…超異色ホラー『スキナマリンク』監督が仕掛ける悪夢体験とは?

人々の「悪夢」を再現した短編映像をYouTubeチャンネルに投稿し、映像作家としてキャリアを積み重ねてきた新鋭カイル・エドワード・ボール監督が、満を持して長編映画デビューを飾った異色ホラー『SKINAMARINK/スキナマリンク』

カイル・エドワード・ボール監督

製作費わずか15,000ドルにもかかわらず、692館という異例の規模で北米公開され大ヒットを記録し、その衝撃波が2月21日(金)、いよいよ日本を直撃する。現実と悪夢の境界をさまよう実験的な映像と、観る者に解釈を委ねるミニマリスティックな演出で未知数の恐怖を生み出すカイル監督に、創作の舞台裏を聞いた。

<Story> 真夜中に目が覚めた二人の子供ケヴィンとケイリーは、家族の姿や、家の窓、ドアなど、すべて消えていることに気づく。取り残された二人は、歪んだ時間と空間に混乱しながら、暗闇に潜む蠢く影と悪夢のような恐ろしい光景に飲み込まれていく…。

●ある時期に誰もが見る悪夢を映像化

――悪夢を題材にしようと思ったのはなぜですか?

カイル監督:ホラー映画が大好きなので、昔から悪夢にはとても興味があったのですが、「夢」という現象自体にすごく惹かれるところがあるんです。ある意味、無意識に自分の中で作られる映画みたいなものですよね。寝ている間に私達の脳が勝手に活動し、しかも観ることを強いられているところも面白い。

――あなたが幼少期を過ごしたご実家で撮影されたとのことですが、何か小さいときにトラウマになるような悪夢を見たとか、そういう経験があるのですか?

カイル監督:ある日、眠りから目覚めると1人家に置いてきぼり。自分を守ってくれる親もいない。そこにモンスターみたいな化け物が自分に忍び寄ってくる…。確か7~8歳の時にこの家で実際に見た夢ですが、本作はこの記憶を基に作りました。面白いのは、これに対して、「自分も同じような夢を見た」、しかもそのほとんどが6歳から10歳ぐらいに観たというコメントがたくさんついたんですね。つまり、記憶がある、記憶がない、という個人差はあると思いますが、たぶんそのくらいの年齢になると、誰もが必ず見る夢なんじゃないかと思っているんです。考えてみれば、「親がいなくても自分でなんとかしなきゃいけない」と子供なりに考え始める時期でもありますよね。

――YouTubeで悪夢の映像を配信しようと思ったきっかけは何だったのでしょう。映画監督志望であれば当然PRの場ではありますが、それだけでなく、今お話があったように視聴者と対峙しながら何かを模索していたようにも思うのですが。

カイル監督:ちょうど映画学校を卒業して、カメラ屋さんでアルバイトをしながらホラーの短編を作ったりしていた時期だったのですが、その頃は、自分が作りたいものではなく、お客さんが観たいものを意識し過ぎて、納得できるものが何一つ作れなかった。それによって、「自分とはいったい何なのか」と悩んでしまい、フィルムメーカーとしての方向性を完全に見失っていたんです。

もがき苦しむ中で、かねてから関心を持っていた「悪夢」をテーマにした映像を試しにYouTubeにアップしたら、これが予想以上にたくさんコメントをいただいて…。中にはご自身の悪夢について語ってくれたものもあったので、それらも織り交ぜながら自分のスタイルで短編を撮り続けていったんですが、これをきっかけに、意図せずして自分のフィルムメーカーとしての方向性を見つけることができたんです。

●解釈ではなく体感する映画を作りたい

――今、映像スタイルの方向性ついてお話が出ましたが、少しざらつきのある70年代風の映像や、ローアングルの足元だけの描写、極力制限したセリフなど、カイル監督ならではの独特の表現が悪夢の世界を際立たせていました。このような演出手法を生み出した背景には、あなたがリスペクトする作品、あるいは映画監督の影響があったりするのでしょうか?実験映画作家のマヤ・デレンなどのお名前も挙がっているようですが、一般の読者にもわかりやすい主流監督で、もしいらっしゃればお聞きしたいです。

カイル監督:大好きな作品は、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(1968)ですね。スタイルは少し違いますが、ものすごく影響を与えてくれた作品です。伝統として受け継がれる映画的要素を使いながら、それを拡大し新しい表現を提示したところが革命的でした。なんというか、演劇に基づいた構造みたいなものを完全に捨て去ることに挑戦して成功している作品なんですよね。今も演劇の伝統やサイレント時代のルールみたいなものに縛られている作品が多いですが、キューブリック監督は60年代にそれを打ち破っている。もちろん、『シャイニング』(1980)も本作に大きな影響を与えています。

また、デヴィッド・リンチ監督は僕のヒーローでした。本作のPR活動でロサンゼルスに行った時に、リンチ監督のチームの方がプレゼントを送ってくださって、中には『イレイザーヘッド』(1976)のブルーレイにサインまでしていただいて、すごく感激した思い出があります。特に好きな作品は、『マルホランド・ドライブ』(2001)、『インランド・エンパイア』(2006)ですかね。リンチ監督の作品は、無理に解釈するものではなく、深く深く感じるべきものだと思います。パズルのように答えを求めるものではなく、体感するもの…その思いは本作を作っている時も意識していましたし、次作もそういう方向性で作ろうと思っています。

これは余談ですが、僕の名前の“カイル”は、『ツイン・ピークス』シリーズ(1990~91、2017)で主演を務めたカイル・マクラクランさんから実は来てるんじゃないかと自分は思っているんです。なぜなら、母が『ツイン・ピークス』の大ファンで、僕を身ごもっているときに夢中で観ていたらしいので、きっとそうだと思います(笑)

●観客の想像力の数だけ作品がある

――この映画は観る側の想像力によって完成するので、観る人それぞれにオリジナル作品があり、1本たりとも同じものがない…という斬新なスタイルをとっているように思います。この辺りはいかがですか?

カイル監督:それは嬉しい感想ですね。実は意図していたことでもあったし、そうあって欲しいと夢見ていたんです。この作品をご覧になった方それぞれが、自分の悪夢と照らし合わせ、自分のバージョンを持っていただけたら面白いなと。最初はうまくいくかどうか自信がなかったのですが、結果的にそういう受け止め方をしていただけてよかったなと思っています。

――日本ではどんなリアクションが生まれそうな気がしますか?

カイル監督:周囲の人間に、「この映画が日本で劇場公開されるんだ」っていう話をすると、誰もが「日本の観客は絶対にこの作品を大好きになるよ」と言ってくれるんです。というのも、北米でのJホラーのムーブメントはすごく大きかったですし、本作もJホラーの影響をものすごく受けているんですよね。特に音響の使い方にインスピレーションをたくさん受けていて、日本の予告編を観た時にも感じたんですが、他国に比べてサウンドデザインを強調させている作りになっているなと。そういった音響の部分にもこだわった作品になっているので、日本の皆さんに響いてくれると嬉しいなと期待しています。

(取材・文:坂田正樹)

カイル・エドワード・ボール監督/プロフィール:カナダのアルバータ州エドモントン出身、クィアのホラー映画監督である。ミニマリズムと昔のハリウッドにインスパイアされたトリック写真を用いて、実在の人物の夢や悪夢を再現する「NIGHTMARES」(悪夢)というWebシリーズを2017年に開始。YouTube の「NIGHTMARES」シリーズを通じて、カイルは世界中のホラーファンから密かにカルト的支持を集めている。カイルにとって初となる長編ホラー映画『SKINAMARINK/スキナマリンク』は、彼が2020年に完成させ、映画祭(オレゴン州ポートランドで開催されたVideoscream International Film Festival)で入選した初の短編映画『Heck(原題)』を基にしたものである。次回作ではA24とタッグを組んだホラー映画『The Land of Nod(原題)』で監督・脚本を手掛けることが決定している。

<Staff & Cast> 監督・脚本:カイル・エドワード・ボール/出演:ルーカス・ポール/ダリ・ローズ・テトロー/2022 年/カナダ/英語/100分/シネマスコープ/カラー/5.1ch/原題:SKINAMARINK/日本語字幕:高橋彩/配給:ショウゲート/G  公式HP:skinamarink.jp

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映画『SKINAMARINK/スキナマリンク』は2 月 21 日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷・新宿シネマカリテ・池袋 HUMAX シネマズほか全国ロードショー

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