『グランド・ブダペスト・ホテル』(14)でアカデミー賞®4 部門を受賞し、『犬ヶ島』(18)でベルリン国際映画祭銀熊賞受賞。その独特な世界観で観客を魅了し続ける奇才ウェス・アンダーソン監督最新作『アステロイド・シティ』が9月1日(金)より公開される。
原案はウェス監督と『ダージリン急行』『ムーンライズ・キングダム』でもタッグを組んだ盟友ロマン・コッポラ(父は『ゴッドファーザー』シリーズのフランシス・フォード・コッポラ、妹は『ロスト・イン・トランスレーション』などのソフィア・コッポラ)が共作し、脚本はウェス監督が単独で担当。キャストには、ウェス監督作品ではおなじみのジェイソン・シュワルツマン(フランシス・フォード・コッポラの妹タリア・シャイアの息子)、そのほかエドワード・ノートン、ティルダ・スウィントン、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、マーゴット・ロビー、マヤ・ホーク、スティーヴ・カレルなどなどなど!超豪華俳優陣が続々登場する。※それにしてもウェスはコッポラ・ファミリーと深い縁があるようだ。
<Focus Points> ウェスとロマンが打ち出した最初のアイデアは、1950年代、東部の大都会を舞台にポール・ニューマンとジョアン・ウッドワードが出演するような作品(何だろう、『孤独な関係』みたいな作品?)を思い描き、そして彼らが制作しているその演劇のメイキングをテレビ番組で描く、というものだった。この二重構造は本作でもしっかり生きているが、二人は話し合ううちに尊敬する俳優・戯曲家サム・シェパード(『砂丘』『パリ、テキサス』の脚本を担当)の作品を思い出し、舞台を砂漠地帯に大変換した。
サム・シェパード風…はいいけれど、砂漠でいったいどんな物語を紡いでいくのか。ウェスとロマンはやはり只者ではなかった。1950年代、当時の映画・舞台の世界では、米ソ冷戦による暗雲がたちこめ、作品の内容にも(比喩的にだが)影響を及ぼしていた。政治的不安が高まる中、核ミサイル落下への恐怖が蔓延し、その一方で、宇宙人や惑星から訪問者に対するポップカルチャー的興味が爆発的に広がり、大人も子供も、さまざまな理由から空を見上げ、思いを巡らせていた。砂漠地帯は、極秘の核実験場やNASAの宇宙開発など、まさに“空”を描くキャンパスだったのだ。
リアルとSFが混在するこの時代についてウェスは、戦争におけるパラノイア「ゼノフォビア(外国人嫌悪)」が根底にあったとも語っているが、そんなデリケートな時代にエリア・カザン監督(『欲望という名の列車』『エデンの東』)は、奇しくもロシアの演技メソッドに深く感化された劇団グループシアターに参加し、のちに自身が中心となって名門アクターズ・スタジオを立ち上げる(マーロン・ブランドやジェームズ・ディーン、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノなどの名優を輩出)。本作では冒頭、テレビ黄金時代を彷彿とさせるスタジオセットが映し出されるが、当時は、演劇界から映画界へ飛躍するためには、テレビドラマというステップを踏むことが既定路線だったそうだが、ウェスはこの時代の俳優の心情を本作のベースに注ぎ込んだと明言している。
冷戦最中、空に思いを馳せたSF劇、そしてその制作過程をドキュメンタリー化したテレビ番組…この二重構造を“映画”として昇華させたウェスの手腕は、見ようによっては頭や味覚を混乱させてしまう創作料理のようにも思えるが、本作の「相変わらず誰にも縛られていない自由な演出で勝負してくるウェス節」は、映画セットも含めて(必見!メイキング映像)やはり大スクリーンの劇場で観るべき作品だ。
<Story> 時は 1955 年、アメリカ南西部に位置する 砂漠の街、アステロイド・シティ。隕石が落下してできた巨大なクレーターが最大の観光名所であるこの街に、科学賞の栄誉に輝いた 5 人の天才的な子供たちとその家族が招待される。子供たちに母親が亡くなったことを伝えられない父親、マリリン・モンローを彷彿とさせるグラマラスな映画スターのシングルマザー…それぞれが様々な想いを抱えつつ授賞式は幕を開けるが、祭典の真最中にまさかの宇宙人到来!? この予想もしなかった大事件により人々は大混乱!街は封鎖され、軍は宇宙人の事実を隠蔽しようとし、子供たちは外部へ情報を伝えようと企てる。果たしてアステロイド・シティと、閉じ込められた人々の運命の行方は──?という新作劇の制作過程がTV番組で紹介される。だが、「意味がわからん!」と怒り出した俳優陣は、演出家に食ってかかる。
<Staff&Cast> 監督・脚本: ウェス・アンダーソン/原案: ウェス・アンダーソン、ロマン・コッポラ/製作: ウェス・アンダーソン、スティーヴン・レイルズ、ジェレミー・ドーソン/製作総指揮: ロマン・コッポラ、ヘニング・モルフェンター、クリストフ・フィッサー、チャーリー・ウォーケン/出演: ジェイソン・シュワルツマン、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、ジェフリー・ライト、ティルダ・スウィントン、ブライアン・クランストン、エドワード・ノートン、エイドリアン・ブロディ、リーヴ・シュレイバー、ホープ・デイヴィス、スティーヴン・パーク、ルパート・フレンド、マヤ・ホーク、スティーヴ・カレル、マット・ディロン、ホン・チャウ、ウィレム・デフォー、マーゴット・ロビー、ニー・レヴォロリ、ジェイク・ライアン、ジェフ・ゴールドブラム ほか/配給: パルコ ユニバーサル映画/2023 年/アメリカ/カラー・モノクロ/スコープサイズ/英語/104 分/字幕翻訳:石田泰子/原題:Asteroid City/映倫:G
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